第088話 修学旅行気分

ギリギリセーフ?

―――


 自室に戻った後、料理が運ばれてきた。


「美味しい」

「味が変わったね。でも、これも美味しいよ」

「キュイッキュイイッ!!」


 座敷童と一緒に料理に舌鼓を打つ。


 地元ならではの、厳選された旬の食材を使った日本料理がメインで、特に魚介をふんだんに使った料理が多かった。


 伊勢海老やアワビ、鯛を含む魚介のお造りや、焼き物、蒸し物などはまさに絶品だった。


 そういう食材に触れる機会も多かったが、それ以上に、異世界で戦ったモンスターたちが思い浮かぶ。


 シーサーペントと呼ばれる海に棲む巨大な龍のようなモンスターは、鯛のようなぷりぷりした食感と味がよく似ていて、近隣に棲む人たちと仲間たちで分け合って食べたのを覚えている。


 あの時は村人総出でお祭りのような状態になっていた。


 巨大なエビ型のモンスターも、伊勢海老と遜色のない味わいで、貝のようなモンスターも同様にホタテやアワビのようだった。


 他にも様々な水棲モンスターと遭遇したが、どれも高級食材と遜色のない味わいのものばかり。


 すべて光聖が調理して美味しくいただいた。


『なんじゃこりゃあ!! 美味うまっ!!』

『美味いな!!』

『美味しい!!』


 料理を食べ、顔を綻ばせる元勇者パーティの仲間たちの顔が思い浮かぶ。


 日本に帰還してから一カ月以上経つが、彼らは元気にしているだろうか。


 光聖は生活力が皆無だった仲間たちのことが少し心配になった。


「皆、大丈夫か?」

「お腹いっぱい」

「少し食べすぎちゃった」

「キュウッ」


 ご飯を食べ終わった後、光聖たちは腹が楽になるように椅子に背を預ける。


 どの料理もお代わり自由だと言われたため、少し食べ過ぎた。記念すべき節目の客とはいえ、宿のサービスがえげつない。


 ――トントンッ


「はいっ、どうぞ」

「失礼いたします。食器を下げに参りました」

「ありがとうございます」


 連絡を入れたので、仲居さんが食器を下げに来てくれた。


 ただ、仲居さんだけでなく、女将さんも一緒に来ている。まさかここまでしてくれるとは思わなかった。


「お茶はいかがですか?」

「はい、お願いします」


 女将さん自ら入れてくれたお茶を飲んで一息つく。緑茶はやはり落ち着く。


「料理はいかがでしたか?」

「はい、とても美味しかったです。堪能させていただきました」

「そうですか。それはようございました。何かお困りのことはございませんか?」

「いえ、特にありません」

「かしこまりました。只今当旅館自慢の庭をライトアップしておりますので、お時間がございましたら、ぜひお立ち寄りください」

「分かりました。ありがとうございます」

「それでは失礼いたします」


 女将さんはお茶だけ出すとそのまま去っていった。


 ただ、その瞳が座敷童を捉えていたような気がしたが、気のせいだろうか。


 どこか懐かしさを感じているようだった。


「温泉、また入りたい」


 お茶を飲み終えた後、陽葵が呟く。ここのお風呂が気に入ったらしい。


「うーん、ご飯を食べてすぐにお風呂に入るのはよくないんだぞ?」

「それならあの子が言ってた庭を散歩する? 温泉はその後にすればいいでしょ?」

「それならそうするか」


 光聖たちは食後の腹ごなしに旅館の中庭に向かった。


「おおっ、これは綺麗だな」


 ライトアップされていたのは日本庭園。


 和風建築の中にある池や木々が昔ながらの和の雰囲気を醸し出し、鹿威しや灯篭が自然と調和している。


 女将の言う通り、一見の価値がある庭だ。


「わびさび」

「キュキュイッ」

「そうだな、わびさびの世界だな」


 陽葵がさも分かっているような表情でうんうんと頷く姿は可愛らしい。


 その頭を撫でる。


「そういえば、女将のことをあの子と言っていたけど、知っているのか?」


 ふと少し気になったので尋ねた。


「そりゃあ、私はここにずっといるもの。それに小さい頃はあの子も私が見えていたから、よく遊んであげたものよ」

「なるほど。そういうことか」


 女将が部屋にやってきた理由が分かった。


 仲居が座敷童を光聖の連れに追加したことを女将に報告したはず。そこで女将も何か感じ取ったのかもしれない。それを確かめるために部屋までやってきたのだろう。


 そして、実際に会ってみて自分が昔遊んでいた子だと理解した。だから、今でも元気にしている姿を見て、人じゃなかったことや今も元気にしていることなどが分かり、何かスッキリした気持ちになったのかもしれない。


 光聖たちは、しばらく虫の鳴き声や風に揺られる木々のざわめきを堪能した後、部屋に戻った。


 そこには人数分の布団が引いてある。


「うぷっ」


 座敷童が枕を持ち上げて陽葵に向かって投げる。


「そういえば、日本の若い子たちはこうやって遊ぶのよね?」

「そうなの?」


 陽葵と座敷童の視線が光聖に突き刺さる。


「俺が学生の頃はそうだったよ」

「勝負よ!!」

「負けない!!」


 再び幼女の熱い戦いが始まった。


 その後、結局汗だくになった二人は温泉に入り、仲良く一緒の布団でおしゃべりをしているうちに寝落ち。


 光聖は二人の寝顔を見てくすりと笑った。

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