第082話 電車旅
「木」
「キュイ」
「川」
「キュキュイッ」
「田んぼ」
「キュキュキュイッ」
陽葵とクズハは外を見ながら、過ぎ去っていく景色を実況している。
「面白いか?」
「ん」
いろんなものが高速で通り過ぎていくのが面白いらしい。
「真っ暗」
「キュイ」
二人の様子を微笑ましく見ていると、急に外の景色が黒色に染まる。
「トンネルの中に入ったんだ」
「トンネル?」
「山に穴を開けて通れるようにした道のこと。穴の中に入ったから太陽が当たらなくなって暗くなったんだ」
「ん。耳も変な感じ」
陽葵が不思議そうに首を傾げ、耳に手を付けたり離したりしながら言った。
神でも気圧の変化で耳が詰まるのは意外だ。
「トンネルに入るとそうなることがあるんだ。こうやって鼻を摘んで、口を閉じて、鼻から息を出そうとすると治るぞ。でも、強くやりすぎると危ないから気をつけるんだぞ」
実際にやってみせながら耳抜きの説明をする。
「分かった」
陽葵が光聖の真似をした。
「なんか出た」
「鼻水だな」
しかし、上手くできずに手に鼻水がついてしまう。
光聖は荷物からティッシュを取り出して陽葵の鼻と手を拭い、ウェットティッシュで手を拭かせた。
「どうだ?」
「よくなった」
もう一度挑戦したら、今度は上手くいったらしい。
陽葵の無表情の顔がほんのり明るくなる。
「そうか。よかったな」
「ん」
光聖が頭を撫でると、陽葵は気持ちよさそうに目を細めた。
そうこうしている内にトンネルを抜け、窓の外が明るさを取り戻す。
――キュルルルル
丁度その時、可愛らしい音が車内に響き渡った。
「キュイキュイ」
それはクズハの腹の虫だ。
「お腹すいた」
陽葵も今気づいたかのように腹を押さえる。
「この時のためにご飯食べて来なかったんだもんな」
「ん」
実は光聖たちは朝ごはんを抜いてきていた。
「駅弁食べるか」
「ん、楽しみ」
「キュイ」
なぜなら、万全な状態で駅弁を食べたかったから。
電車旅の醍醐味と言えば、駅弁は外せないだろう。
折角食べるならできるだけ美味しく食べたい。空腹こそが最高のスパイス。そこで、光聖たちは朝ごはんを抜いた、というわけだ。
ホームで購入していた駅弁を取り出して陽葵に渡す。クズハ分も蓋を外し、ケースの中に入れてやった。
ふたを開けると、ほんのり匂いが車内に広がる。
「「いただきます(キュイキュイッ)」」
手を合わせ、食前の挨拶をして箸をつけた。窓から見える景色を眺めながら食べる駅弁は、空腹も相まって非常に美味しかった。
「車内販売でございます。お弁当、軽食、デザート、お飲み物はいかがでしょうか」
お腹が満たされたところで、光聖たちしかいない車両に別の人間が入ってくる。
彼女は車内ワゴンを押す販売員だった。
「こう、あれ何?」
車内ワゴンを見たことがない陽葵が、不思議そうに指をさす。
「指をさしちゃダメだぞ。あれは移動する小さなお店みたいなものだ。車内を行き来して、主に食べ物や飲み物を売ってるんだ」
「そうなんだ」
「何か欲しい物はあるか? 俺はアイスを買うつもりだ」
光聖は食後のデザートが食べたくなった。
甘い物は別腹だ。
「アイス欲しい」
「キュキュイッ」
「了解。すみません」
二人も食べたがったので、近づいてきた販売員を呼び止める。
「はい、何をご所望ですか?」
「バニラアイスクリームを三つください」
「かしこまりました」
アイスを購入してプラスチックのスプーンを受け取った。
ふたを開けて皆に配り、陽葵にはスプーンを渡す。
「かった!!」
でも、アイスが固すぎてスプーンが刺さらなかった。
――バキッ
少し力を込めると、スプーンの方が折れてしまった。
まさかスプーンの方が折れるとは……アイスがここまで硬いとは思わなかった。
「……」
「こう、力入れ過ぎ」
愕然としていると、陽葵に叱られてしまった。
「そうだな。スプーンもう一つもらえないか聞いてくる」
「ん」
光聖は販売員に追いつき、スプーンを貰って戻ってくる。
「ハードスキン。ウォーム」
今度は力を入れても折れないようにスプーンの強度と温度を上げた。そのおかげでカッチカチのアイスにもしっかりと刺さるようになり、掬い上げられた。
口の中に含むと、アイスのひんやりとした感触が広がる。
「こう、私も」
「分かった」
陽葵も固くて食べられなかったので、光聖に魔法をせがんだ。
「アイス、おいし」
魔法を掛けたら、陽葵も食べられるようになり、幸せそうに頬を緩ませる。クズハは硬いのを全く気にすることなく、ペロペロと舐めて美味しそうに食べていた。
「キュイキュイッ」
クズハが顔を上げると、嬉しそうに鳴く。
鼻の先にアイスをべっとりとつけていた。
「全く、しょうがないな」
「キュキュイィイッ」
光聖はウェットティッシュで拭ってやる。
今日は電車に乗る前から祖父との思い出が幾度となくよぎった。
祖父も今の自分の気持ちだったのかなと思うと、無性に祖父の顔が見たくなった。
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