第079話 当選

 ――カランカランッ!!


「おめでとうございます!! 一等です!! 温泉宿の宿泊券が当選しました!!」

「え?」


 キャンプから数日後、光聖は陽葵とクズハとともにスーパーに買い物に来ていた。


 しばらく前からスーパーでは購入金額に応じて福引券が配布されており、今日から福引が引ける予定になっていた。


 帰りがけに試しに引いてみたら、なんと中から金色の玉が!!


 一等は温泉宿の宿泊券。最大四名まで家族として使えるらしい。


 光聖は大きな御祝儀袋と一緒に宿泊券を受け取った。


「おおっ!! 清神様が一等当たったんか?」


 呆然としていると、街に住む老人の一人が話しかけてくる。


「えぇ、そうみたいです」

「それはよかった。清神様のおかげで皆元気になってこの街も活気づいてる。たまにはゆっくり休んでほしいと思ったんよ」

「……そうですか。ありがとうございます」


 その老人は心からの感謝を込めた笑みを浮かべていた。


 周りの人たちも老人と同じように首を縦に振っている。それだけ住民たちの生活が良くなり、街が活性化しているのを実感しているのだろう。


 ただ、光聖としては何かしているわけではないので、少し複雑な気持ちになったが、グッと堪えて相手の言葉を素直に受け取った。


「いやいや、礼を言うのはこっちだよ。いつもありがとうね」

「いえいえ、どういたしまして。それでは失礼しますね」

「あいよ、旅行楽しんできてな」


 自分がいることで街の人たちが幸せになるのは良いことだ。


 自分の力についてある程度自覚している。しかし、何もしていないことが少し申し訳ない気持ちになった。

 

「こう、それ何?」


 帰り道で陽葵が尋ねる。


「そうだな……例えば、守の家に行って、そのまま守の家でご飯を食べて、夜も守の家で眠って朝まで過ごすことを"家に泊まる"って言うんだ。これは分かるか?」

「ん」


 光聖の説明を聞いた陽葵はコクリと頷いた。


「それで、遠くに出かけたらすぐに戻ってくるのは難しいよな?」

「ん」

「そういう時にお金を払って泊まれる場所を"宿"と言うんだ。この券があれば、お金がなくてもそこに泊まることができるんだ」

「凄い」

「そうだ。今日は福引で凄いものが当たったんだよ」


 福引で当たったものの凄さを理解した陽葵は、少し興奮した様子で呟く。


「お祝いする?」


 目出度い時にお祝いするという習慣を覚えた陽葵は、こういう時もお祝いするものだと思ったらしい。


「この券自体がお祝いみたいなものかな。宿っていうのは、泊まる人に豪華な料理を出してくれたり、ふかふかの布団を用意してくれたり、大きなお風呂を用意してくれたり、自分たちがしなくても宿で働いている人たちがやってくれるんだ」

「楽しそう」


 光聖の説明を聞くうちに、無表情なはずの陽葵の瞳が輝いていくのが分かる。


「そうだな。だから、その宿に行っていいか。帰ったら辻堂さんに相談してみよう」

「ん!!」


 陽葵の足取りがいつもより軽くなったのは言うまでもない。




「旅行……ですか?」

「はい。実は温泉宿の宿泊券が当たりまして……」


 昼食を食べ終わってお茶を飲んでいる時に、光聖はテーブルの上に券を置いた。


 辻堂は思いがけない言葉にお茶を飲む手を止め、佇まいを正す。


 そして、緊張した面持ちで尋ねた。


「なるほど。この地から離れる……ということではないんですよね?」

「それは当たり前ですよ。俺の家はここですから」

「そうですか……それは良かった」


 光聖の返事を聞いた辻堂は、露骨にため息を吐く。


 盛大にお披露目した手前、いなくなられると困るのだろう。光聖としてはよくしてもらっている彼らを困らせるつもりはないし、ここから移動する気もない。


「それで、俺は旅行に行っても大丈夫ですか?」

「そうですね。ここに戻ってきていただけるのなら問題ありませんよ」

「本当ですか?」

「はい。ゆっくり羽を伸ばしてきてください」


 今度は光聖が胸をなでおろした。


「ありがとうございます。宿に泊まれるってよ、陽葵。良かったな」

「ん。楽しみ」


 旅行に行けると分かった陽葵は、ワクワクした様子を隠せない。


「あっ、もしもし、守?」

『あぁ、どうしたんだ?』


 光聖は守に電話を掛けた。


「いや、温泉宿の宿泊券が当たったんだけど、四人まで一緒に行けるらしくてな。お前、行かないか?」


 その理由は勿論、旅行へ誘うため。


 クズハを一人分と換算するなら、ちょうどあと一人分空いている。


『わりぃ、行きたいところだが、仕事が立て込んでいてな。ちょっと無理そうだ』


 しかし、守は申し訳なさそうな声色で断った。


 むしろ、これまで休みまくっていたツケが回ってきたんじゃないかと思う。


「そっか、分かった。仕事頑張れよ」

『おう、サンキュー。お前は旅行楽しんで来いよ』

「あぁ、それじゃあな」


 辻堂や伽羅も行けないようだし、今回は陽葵とクズハの三人で行くことになった。



◆   ◆   ◆



 とある一室。


 そこには二つのデスクと、沢山の人間が映し出されたモニターが設置されていた。


 デスクの一つに座っていた男が口を開いた。


「それではこれより――現人神様旅行対策会議を始める」

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