第281話 決勝戦 喧嘩
◇ ◇ ◇ ◇
俺にはダチがそこそこ居た。
でも特別仲が良かったのは三人。グロック、ゼガン、そしてアッシュの三人だ。
性格も全然違う、考え方も違う、種族までも違う。なのに何故か馬があった。
それでも喧嘩はした。なんなら山の様にやってきた。ぶつかり合った回数なんて数えるまでもねえ。
でもなんでかな、その度に仲良くなった気はする。
まあ、なんだかんだでありつつも、おちょくりあって、ふざけ合うのが日常になって行く中。少しだけ変化があった。
カンロ村の特性上起こる魔物の氾濫だ。
それからだ。アッシュの雰囲気が何処となく変わっていったのは。
村でも子どもの為の訓練が始まって……。
————その日、俺の人生が少し変わった。
ずっと隣に居たあいつが、実はずっと前に居たって気付いて、それが寂しくて、苦しくて……腹が立って。
でもあいつなりの苦労も知って……。
だからかねぇ、俺はあいつとタメ張って殴り合える奴になりたいと思ったんだ。
親父に稽古付けて貰って、憧れは捨てて自分に合う武器探して、双剣ならゼフィア師匠が良いって言われて教えを乞うて。
なんならあいつにも助けられて。
魔法の使い方、魔力の使い方、あいつの強さの根幹を……あいつのアイデンティティを俺に、俺達に教えやがって……。
でもあいつは笑ってた。村の皆んなを守る事に繋がるからって、惜しげも無く笑ってやがった。当たり前みたいに、自分の強さをばら撒いて——。
あいつはそう言う奴だって知ってた。けど悔しかった。いつか誰かがあいつの技術に追い付いたら、あいつが負けちまうじゃねーかって。
……誰かがいつか、あいつを負かしてしまうなら、最初は俺が良いと思った。
そんで強くなった俺があいつを鍛えるんだ。
んで俺が越されたらまた引き上げて貰ってさ……ガキみたいに、馬鹿みたいに、悔しがって、ムカついて、対等に殴り合える奴になりたかった。
だから出来る事を出来る限りやった。
イールさんの技も、師匠の技も覚えた。あいつのばら撒いた技術も学んだし、学園に来てから教えられた気配を紛れさせる奴も習得してやった。
だが実態はどうだ。俺の剣は届かねえ。
まだ、届いてねえ。まだまだ、俺はあいつに手を伸ばしてる。
それじゃあ駄目だ。これじゃあ駄目だ。
レイドに言った言葉通りなんだよ。
“真似っ子程度で勝てる訳ねえんだよ”
俺が得てきた全部を俺のモンにして、それを全部叩き付ける!
決着付けんだよ、今日ここで!!
「『輝光大剣』ッ!!」
双剣に光を集め、それを大きく……親父の剣の様に大きく!! いいや! もっと大きく!!
馬鹿になれ!!!!
理想を
「ははっ、なんだそれ……でか過ぎるだろうが、このバカたれ」
剣が俺の身の丈を越える。なんなら二倍近い。
そんなぶっとい光の大剣は、振り回すだけで地面が斬れた。
ハッ、これくらい出来て当たり前だわな。……だからこっからだ。あいつと同じ場所に辿り着く為に。
「お前の強さは対人じゃねえだろが。魔獣ぶっ倒せる強さだろうがよォ。それを人相手に落とし込んでる時点で手加減まみれ! だからよ、これを……圧縮!」
押し込めて押し込めて……双剣の元のサイズにまで光を集めるッ!
……ふぅ。光量も抑えたが、気を抜いたら弾け飛びそうな勢いだな、はは。これで良い。これくらいで丁度良い。
殺すつもりは無え。だが殺すつもりで行かねぇと倒せすらしねぇ。
ノワールが驚くだけでそれ以上のアクションを見せないのがその証拠だ。
「行くぞ……!」
「ふっふふ、あははははは! ……やばくね?」
双剣を目前に構え、体勢を低く落とし、地面を蹴飛ばして前に跳ね飛ぶ!
今の身体能力なら一歩で十分!!
ノワールの魔力が動く。俺の進路に影で壁を作るのか?
「ハッ!! 無駄だ!!」
双剣を前に突き出しそのまま突進。
影を斬った感触すら無く、あいつの影が消滅する。だが目の前にあいつは居ない。んなこた分かってる。うっすい魔力が上に跳んでるのは感じてたぜ。
足を前に出して急ブレーキ、そんで見上げた先との距離を測る。これなら……届く!
「圧縮弱めりゃでかくなんぜ!!」
宙を舞うノワール目掛けて特大の光剣で斬りつける!
「冗談きついわ、まじで。『バリア』」
んなうっすい障壁で防げるもんかよ————っ!? それ踏み台か!
ノワールが障壁を踏んでさらに高く跳躍し、光剣の間合から外れる。
しかしだ。後は落下するのみ。影を全身に巻き付けんのは封印するとか言っていた。つまり足場は障壁だけ。
こっちから距離を詰めてやれば、それだけでさらに追い込める。
即座に駆け出し、ノワールの影には近付かない。反応出来る程度の距離を空けて、光剣を足場にこっちも跳躍!
「こっから上に追いかけっこかよ!」
「そんな芸の無い事はしない。……影だって別に、俺のじゃ無くても良いんだよ」
ノワール以外の影……俺の影か。だが、だからどうした。俺の得物は双剣。一本を下方へ向けて置けばそれで良い。閃光で消え去る影に光の集積体は突破出来ない筈だ。それに斬るには剣が一本ありゃ十分!
ふとノワールの顔を見る。動じる事無くこちらを見つめる赤い瞳と視線がぶつかる。
「アドバイスだ。俺のはただの影じゃ無い。影魔法だ」
————何かに足を掴まれた。
見下げればそこには光剣を避ける様にして足首に絡み付く影があった。
「落ちろ、一匹狼」
あと少し、あともう少し……だってのに。
掴まれた影に足を持たれて振り回され、地面が一瞬で眼前にあった。咄嗟に受け身を取るが、全身にやってくる衝撃に意識が一瞬飛ぶ。
そのまま身体を引き摺り回された後に放り投げられたのか身体が何かに埋まってる。痛ぇ。重ぇ。
いいや、んなこたどうでも良い……後もうちょい。後ほんの少しで届いた。
「へへっ……へへへへ……」
全身痛いのに、身体は重たいのに、熱い。心が熱い。笑いが込み上げてくる。
あともう一歩。踏み出せ。至れ。しがみ付いて、手繰り寄せろ。
欲しいものはなんだ。
耐久力か? 違う。
攻撃力か? 違う。
じゃあ速さか? 違う。
————————全部だ。
身体強化にもっと光属性を回せ。光剣を無属性で強化しろ。無と光の可能性をもっと引き出せ。
両手で円を作る。精神統一。絶え間無い循環。身体の隅々まで魔力が行き渡り浸透していく感覚。
瓦礫を跳ね除け立ち上がる。
圧縮した魔力を精密に。光属性と無属性で強化幅をもっと増強。その上で命も魔力も世界に溶かす。
もっと引き出せ、俺の可能性を。
もっと引き上げろ、俺の強さを。
行けるとこまで、行っちまえ。
砂埃が晴れていく。ノワールの鋭い目が見えた。同時に幾つもの影が差し迫る。
「…………」
この影は全部物体に干渉出来るんだよな。……じゃあ、行けっか。
軽く跳ねて影を“踏む”。影を足場にして駆ける。
魔力の動きを目視。障害となる場所に小さな光を飛ばし、妨害を妨害。
その一瞬で良い、ほら、目の前にノワールが居る。
「……並んだ」
後ろから殺到する影に光剣をぶつける。
目の前のノワール目掛けて左手の剣を振り下ろす。
それを剣で受け流されて反撃の剣。
それをこちらも受け流して今度は蹴り。
だが足に影が纏わり付き、ノワールの拳が迫る。
光の紐でノワールの拳を止め、俺のもう片方の剣を突き出す。
それを剣で受けたノワールの右足の蹴り。
俺の左脚をぶつけて止めるが、ノワールの狙いは拳に巻き付いた光の紐だった。影魔法で拳を取り戻す。
魔法と剣と拳と脚。超至近距離でこれら全てを使ってやり合う。
最低限の防御と回避。魔法は魔力視と存在霧散でどっちも感知に死角が無い。
攻撃速度は俺が上。しかし反応速度はノワールが上。
次第に剣と剣が、脚と脚が、魔法と魔法が、拳と拳がぶつかり合う様になる。
ああ……。
ああ……!
ああ……!!
全然埒あかねえ!! なのに楽しい! 有効打なんて一個も入らねえ!
今、やっとお前に並んだぞ……なあ、アッシュ!!
「こっちは必死だってのにさあ!! なんつー顔してんだよお前はッ!!」
「るっせぇ馬鹿!! 楽しんだよ!! 嬉しんだよ!! そう言うお前こそ女々しい顔してんじゃねえぞッッ!!」
「してねえからっ! ぶつけた脚と拳が痛くて涙出てるだけだから!! ジンジンしていったぁ〜! そう言うそっちこそお涙ぽろっぽろ出てますけど!?」
「俺は欠伸出ただけだわ! 痛くも痒くもねえわ! はーねむっ!」
「目ん玉かっぴらいて欠伸する訳ねえだろ! どうやらバカは見つかったみたいだなあ!」
「ノワール君は口が悪いなあ!! そんな性格だったか!? ブレてんぞオイ!」
くははっ。楽しい。楽しいなあ。
ようやくだ。ようやくまたお前とぶつかれる。
戦いだってのに。決勝だってのに。国王見てんのになあ。
光も影もぶつかって散って。拳に纏わせた魔法ごと衝突させて、黒と白が視界でうるせえ。
滲んだ視界を魔力視と生命の気配で補い、左手の剣を振るう。
————打ち合った剣が俺達の手から弾き飛んだ。
ああ、終わりが近づく。
「コルハ……」
汗だくのノワールが笑ってそう言った。
だから俺もなんとか笑い返して右手の剣を振るった。
「……舐めんな」
飛んで行った筈のノワールの剣が手元に戻っており、俺の剣と再度衝突した。
「棒を振るう時はストラップつけましょうってな!」
何言ってるかは分かんねえ、けどやってる事は分かった。こいつ、剣に影を結んでやがったな。
「これだからお前はッ」
「剣二本とか狡いだろうがようやっと対等だわ!」
「くははッ! アッシュ……ッ!!」
「ノワールだっての!! ……ああくそ、燃費悪い!!」
そう言い捨てたノワールが遂に退こうとした。だがだからこそ逃せない。逃がさない! 徹底的に勝ちに行く!
「『バリア』」
ノワールがそう唱えた瞬間、追撃に走る俺のブーツの甲の部分。そこに小さなバリアが生じた。
「くそがっ小賢し過ぎんだろっ!?」
避けようが無くつんのめる。転けこそしなかったが足を完全に止められた。
距離を取った先で、ノワールの身体中から魔力が抜けていく。身体強化も何もかもを解除して、残った魔力全てが後ろに落ちる影に集まって行くのが視える。
大技かよ……終わりが近いって訳だ。
でもダチなら受けて立たねえと……その上で勝たねえと……胸張って勝ったって言えねえよな。
息を吐く。……吸って、吐く。
俺の身体が覚える様に、今の俺に名前を付ける。
「お前の上を行くのなら、一匹狼に間違いねえな————」
「『陽は当たらぬ 陽を遮る 光無き影に満ちろ————』」
「『
「『
俺の全身に再度漲る力、両手に握るのは極大光剣。
ノワールから放たれた影が天を覆い、地を影が埋め尽くした。
「「最後の喧嘩だッ……!!!!」」
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