第256話 僕達、考察はご飯と一緒に

ちょっと短めです。

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 観客が全員帰った後、教師陣は一生懸命凹んだ舞台を元に戻していた。

 アリアルさんが最後に放った謎の風魔法の尋常では無い力強さが良く分かる光景だった。


 学生達の間ではあれが一体どう言う魔法なのかの考察が止まらず、直接その身で魔法を受けたゲイル先輩は満身創痍でありながらその考察に付き合ってくれている聖人君子らしい。


 そしてその考察合戦は僕の前でも開かれていて。


「正直僕には全体像すら掴み切れませんでした。ジュリア姉さんはどうでしたか?」

「精霊魔法でもありませんでしたね。おそらく個人による魔法……範囲と威力が凄過ぎて訳分かりませんが」

「圧力だよねぇ〜。風で地面を押し込んだ……とするとあんなの風魔法の領域じゃなくなぁい?」


 エルフ三姉弟が、同じエルフとして。同じ風魔法使いとして。そしていち魔法使いとして意見を出すも、そも考察にすら至ってないのが現状。


「正直さー。土魔法でもあの範囲全部に干渉して地表を下げるとか難しいんだよー? 十傑だからで片付けても良いんじゃなーい?」

「そうですね、風魔法を操り空を翔ぶ種族としては、アリアル様の飛行ですら驚愕です。基礎的な練度の差と言われたらそれまででしょう」

「納得したくは有りませんが……認めざるを得ない光景をああも見せつけられてしまうと、ファルフィ様の考えに落ち着きますね」

「……そう、ですね…………」


 グロックは土魔法でなら難しいが出来なくは無いと言う。だがあれは風魔法による副次効果。十傑と言う存在の次元の違いが見えてくる。

 ファルフィさんとディクト君からすれば空を飛ぶこと自体が異常事態。翼があってもなお飛べないファリスさんからすれば奇跡の実現者だ。


 では僕からすれば? 風であれだけの威力を出す事自体は出来る。手間も掛かるし面倒だが、やってやれない事は無い。

 でも、だ。あんな片手間に出来る事では無い。自らは浮いたまま、それとは別にかなりの広さのある闘技場の舞台全面を沈める? 流石に無理だ。


 と言うかそもそも、違和感がある。あの人はそんな規模の魔力を放ったか? そんな密度の魔力を放ったか? 魔力に、魔力とは違う何か別の力が加わっていたんじゃないか? 例えば加護。例えば……魂の格。


 アリアルさんはエルフだ。その年齢は見た目からは判断出来ない。とすると、長年の戦闘で単純に魂の格が桁違いに高くて、【風魔法】スキルの出力そのものが違うと言うのはどうだろう。


「年季の違いかもね」

「エルフだからか? だとしたらこの世界の強者は皆んなエルフになっちまうだろ? でもそうはなってねえぞ」

「……なんで直ぐにそんな正確に反論出来るんだよ。コルハ怖い」


 的確で正確過ぎて腹立つ〜。でもそうだよな。今日来てた十傑は揃って同格な感じがした。見てもいない実力を判断は出来ないが、多分そんなに大きな違いは無いと思う。


 僕らとの違いを上げるなら、魔力の質が違う感じはするんだけどなぁ。それが格に左右されるなら、揃ってるなんて訳無いしなぁ。


「なぁ、アッシュはアリアルって人と同じ事出来ないのか? 私さ、アッシュなら出来ると思うんだよ」


 そう言ってアッパーの素振りをして見せるポーラ。

 言いたい事は分かった。『ルドラ』を地面に放てばやれるだろうと言いたい訳だ。

 僕の『ルドラ』を知らない面子はぎょっとしているけど、逆に知っている人らは揃って頷いて見せていた。


「ポーラの言う通り、舞台を凹ませて沈ませる事は出来ると思うよ?」

『『『『えっ……』』』』

「でも、威圧感を振り撒いて、風を吹き荒れさせて、自分は浮きながら、舞台の範囲だけを綺麗に沈めるとなると無理かな?」

「そっか。そうだよな。あの魔法だけじゃないんだよな、アリアルって人がやってたのは……」


 ポーラの発言に驚いた皆んなは僕の発言に驚いて、その後の補完情報に揃って頭を悩ませてしまった。


 多分、ここで考えていても答えは出ない問いなのだろう。それはそれとして気になるからこうして頭を突き合わせて悩んでいるのだが。


 しかし、魔闘大祭は明日もある。皆んなの出番もその明日なんだ。


「さて、そろそろ明日に備えて寝ようよ。ハイクラストーナメントは国王陛下も楽しみにしてたくらいだ、アリアルさんの魔法に頭を悩ませて力を発揮出来なかったなんて言い訳は通じないよ!」

「そうだね、私も今日はもう寝ようかな。最後の魔闘大祭だもん、ちゃんと楽しまないと損だよねっ!」


 戦いを楽しみと言えるエレアが凄いのだけど、皆んな概ね気持ちは一緒だったようだ。各々同意の声を上げながら動き出し、食器を下げてから学園の食堂から出て行く。


 少し離れた所では通常トーナメント出場者が打ち上げと僕らと同じく考察を行なっており、他にも寮では無くこちらで晩御飯を楽しんでいる生徒も居るのだが、後はもう楽しむだけの人達だ、はしゃぎようが凄い。


 ……明日、僕らも全てが終わったら、あんな風にはしゃげたら良いなぁ。




 そうして夜は更けていき、翌日。


 魔闘大祭の二日目が、晴れ渡る空の下始まる。

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