第244話 ゆるりと十傑会議

 アッシュとすれ違った後、アリアルは真っ直ぐに王都ルクセントラムへ向かい、その数刻後には王都に辿り着いていた。


 混乱を招かぬ様にと、門で十傑の証を見せてから街に入る様言われていたアリアルは、それを王都の真上に来てから思い出した。

 だが今から戻るのはめんどくさい。貴族街からで許してもらおうと急降下を始めて証を見せて素通り。


 本来であれば豪奢な馬車や、先んじて使いが王城まで走るのだが、アリアルに限ってそれは免除されている。理由は単純。空を往くアリアルに追い付けないからだ。


 そうして最低限未満の行いを見咎められずに呆れ半分尊敬半分で見送られながらアリアルは王城の高所にある、一際広いバルコニーへと降り立った。


 そのバルコニーから続く部屋には、円卓と十個の椅子。そして一つの豪奢な椅子のみがある。

 豪奢な椅子を除いた十の椅子の内、三つには既に人が座っており、それはアリアルにとっては見慣れた顔ぶれ。


 数十年来の者と、中には数年来の者も居るが。


「ねーねー! 皆んな聞いてよお! 面白い子居たんだー!」

「アリアル殿、浮くな、座れ。端ないぞ」


 アリアルに背筋良く腕を組みながら注意を飛ばすのは十傑が一人、ロミネ。

 王から賜った二つ名は『炎滅』。

 二つ名通りの魔法使いにして、真面目で厳格。長い紅色の髪はいつも綺麗に整っており、着こなす騎士服も下ろし立ての様な美しさ。


 そして人間と言う短命な種族でありながら若くして十傑に上り詰めた逸材だ。


「ロミネよぉ、んなこた今更だろ。言って聞くなら百年前には直ってらぁ」


 ロミネに気安く話しかけるのは十傑が一人、オルド。

 王から賜った二つ名は【剣王】。

 だがオルドの場合はその二つ名こそがスキル。己が磨き上げてきた、剣を付き従える王の名を持つスキル。

 種族はドワーフ。齢百を超えた男。

 跳ね返る髪を紐でキツく縛り付け、髭は直ぐに剃るため端正な顔立ちがよく見て取れるおじさんだ。


 口調は粗野だがなんだかんだで仲裁に立つ事が多い、苦労人でもある。


「オルド殿、これはマナーの問題。直るまで言う必要があるのだ」

「そう言う時ぁ最古参のアンダールに頼みやがれ」

「私は気にしませんよ? 昔は私の方がやんちゃでしたからな。咎める権利を持ち得ないのです。はっはっは」


 彼はアンダール。十傑が一人にして、現在の十傑の中でも最古参。賜った二つ名は『雷鳴』。

 犀の獣人……と言うには細マッチョ。額の中央から湾曲した角が生えており、年齢は六十を過ぎた頃。

 稀少な雷魔法の使い手でもある。

 昔はやんちゃ発言から分かる様に、現在は物腰穏やかになったが腕っぷしが衰えた訳では無い為、十傑の中でも一目置かれている。


 しかし頼られる度にやんちゃだった頃を持ち出す癖がある為、頼られにくい。


「あんたのその『昔はやんちゃ』理論が一番やんちゃしてんだよ……」

「そんな事より聞いてよぉ! 飛んでる子居たの! しかも障壁で! さらに寝転びながら毛布被って! ぷふっ……思い出しただけでも面白いんだけど!」

「ほう……貴方の様に風の神の加護を授かったのでは無く?」


 目をスッと細めてアンダールが宙でくるくると回るアリアルを見つめる。

 それは一般人からすれば途轍もない重圧をはらんだ視線。だがそんな物は彼女にとってはそよ風に等しい。


 鋭い視線をにははっと笑いながら受け流し、アリアルは答える。


「違うよ? でも魔法自体はランバートくんに似てたかもにゃー!」


 アリアル。賜った二つ名は『そよ風』。齢二百を超えたエルフにして、風の神ニクスィアールからの加護を授かりし者。

 放浪癖はあるものの、十分過ぎる実力と悪意の無さ、何より移動速度と風魔法による空域支配能力を認められた者。

 彼女の薄緑の髪は例えどんな嵐の渦中に居ようと穏やかな風と共に靡いているのだ。


「ラディアルの制服着てたし、今度学園に遊び行こっかなー?」


『それは奇遇であるな、アリアル』


 開け放たれた扉。そこから広間に響いた声は、不思議と聞く者の耳に入り込み、その胸中を満たす。


 その声の主は他の十傑を従えてやってきた。即ち十傑では無い。しかし十傑よりも上の存在。

 それは王。即位して十年に満たない未だ若き現国王陛下。


 華美なマントをはためかせ、杖が如き王笏を突き、実用的な王剣を腰に佩いた、まだまだ自らの地位に慣れぬ若き王——フォルス・クロノ・イーティリアム


「此度お前達を呼んだのはラディアルの祭りに関する事。そして……ダンジョンに関する事よ」


 フォルスの声に即座に膝を突くロミネ。

 態度を変えぬオルド。

 うやうやしく礼をするアンダール。

 変わらず宙に浮き、回転方向を縦回転に変えたアリアル。


 相変わらずの様相に相好を崩したフォルスは、上座にある豪奢な椅子までゆったりと歩いた後、王らしく緩やかに腰掛け前を向き、そして息を吐きながら背筋を曲げた。


「あぁ……慣れない。ここだけが数少ない癒しの場だ」

「フォルス陛下、あまりその様な事を……」

「分かっているよ、ロミネ。でもほんとにここだけだから。皆んな黙っててくれ……【王命】だ……」

「下らねえ事で王命使うな、あほう」

「幼き頃よりフォルス様は変わりませんな。はっはっは。私の方がやんちゃでしたがっ」


 気安過ぎる程に気安い会話を王と繰り広げる者達の傍ら、他の十傑も思い思いに動きながらも自らの席へと腰掛けていく。

 そしてその中にはリヒトとランバートの姿もあり、二人は十しか無い席に腰掛ける。

 そここそが自らが座るべき場所なのだから当然だ。


 団長としてある為に十傑である事を秘匿しているが、リヒトには得意な魔法でもある『無光』、ランバートにはフォートレスにちなんで『要塞』の名が与えられている。


「うむ。よく集まってくれた。では、十傑会議と言う名の、私の憩いの報告会を始めようか。アリアル、カンロの果物、あるんだよね?」

「もっちろ〜ん。あっ、林檎一個食べちゃったけど」

「いいよ。お駄賃だ。……さて、まずはリヒトとランバート。団長としての業務ご苦労様。色々と聞かせてくれるかい?」

「はっ!」

「りょーかーい。……憩いにはならへんかもですけどね?」


 こうしてゆるりぬるりと始まった会議。


 二人の報告から十傑はダンジョンと学園の状況を知っていく。


 フォルトゥナからの急な決定により、在りし日の学園を取り戻し始めた事を告げられ、フォルスや年配の十傑は微笑む。


 そしてダンジョンの惨状を聞いて全員が顔を引き締め、リヒトとランバートの二人が揃ってなお死を覚悟した魔獣の素材に感嘆を漏らし、それをオルドが受け取っていく。


 最後に、共にダンジョンに潜った者達の詳細な情報を告げて報告は締められた。


「アッシュ……アッシュ……あー!! アッシュって空飛んでた子じゃん!!」

「あの子また何やっとんねん……」

「最早何も驚くまいよ。彼なら大抵の事は出来るだろう。飛行だって……ははっ」


 アリアルの発言によって、また知らぬところで己が名前が広まっている事を当事者はまだ知らない。


 ……その後も、どこそこにどの程度の魔物が居ただとか、隣国との小競り合いを潰してきただとか、新たな技や、新たな作品を作っただのと他愛も無い報告を繰り広げながら、会議は進行していく。


 そして、祭りの催しや、ダンジョンの本格的な攻略と浄化の計画も進行して行くのだった。



————————————————————————

設定まみれでキャラを半分しか出せなかった。

一応纏め。


王様  フォルス

炎滅  ロミネ

剣王  オルド

雷鳴  アンダール

そよ風 アリアル

無光  リヒト

要塞  ランバート


あと四人は追々出して行く!

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