第8話 Side エレア わたしはお姉ちゃん
わたしはエレア。
格好良いカルお父さんと綺麗なサフィーお母さんと可愛い弟のアッシュとわたしで仲良し四人家族!
二人はいつもわたしに優しくてだいすきって言ってくれる!そんな優しい二人がわたしもだいすき!
アッシュはずーっと可愛い。大事な大事なわたしの弟!もちろんアッシュもだいすき!
......でもわたしは、最初からアッシュが大好きだった訳じゃない。
わたしはアッシュと出会うまでのことと、出会った時のこと、出会ってからのことを思い出していた。
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それは、わたしが四歳になって少し経った頃、急にお友達の家に少しの間お泊まりしてきてってママに言われた。
なんでも、わたしに弟か妹が出来るかららしい。
ママのお腹が大きくなって最近は良く苦しそうにしていたり、隠していたけどよく吐いていたのをわたしはこっそり見ていたから知ってる。
わたしは、ママをいじめる赤ちゃんがきらい。しんどそうなママを見ていると心がざわざわして、近くの友だちの家に逃げるように向かって、いつもそこで時間を潰していた。
それから少し経って、「赤ちゃんが、弟が産まれたよ!」と、パパが嬉しそうに走って言いにきた。
わたしはずっと心がざわざわしていた。
それから、もう少しの間、お泊まりをしていてくれって言われてしまった。
赤ちゃんはとっても弱くて、大切にしないとすぐに怪我をしてしまうらしい。
「エレアの時もそうだったんだよ」、と言われてもわたしにはよくわからない。
わたしの心はずっとざわざわしてて、パパもママも私のこと、どうでも良いのかな、なんて思ってその日は泣いてしまった。
数日経ってわたしは、この気持ちをちゃんと伝えようと、パパとママに会いに行った。
その時に見た二人の顔はそれはもう嬉しそうで、わたしは思わず口を閉じてしまって。そのまま何も言えなかった。
気持ちはずっとざわざわしてて、気持ち悪くて、せめてもの仕返しにと、弟なるものをこっそり見てやることにした。
寝室に弟はいるらしく、パパとママが居ない隙にこっそりドアを開けて覗いてみると......
とってもとっても小さくて可愛らしい赤ちゃんがいた。
吸い込まれるように中に入って、ベビーベッドの柵の間から赤ちゃんを見てみる。
目がちゃんと開いてなくて、髪の毛も全然無くて、体はとっても小さくて、思わず指を柵の間から伸ばして赤ちゃんに触れてみる。
「ぷにぷにしててやわらかい....かわいい....この子がわたしの弟....」
呆然としていると、パパとママの声が聞こえてきてハッとする。
急いで家の裏口から出て隠れないと!
その後、なんとか隠れることに成功し、そのまま友達の家まで走って向かったのだが、その時にはわたしは心のざわざわを感じなくなっていた。
パパとママが、どうしてあんなに大切にするのかなんと無く分かった気がした。
「わたしの弟。わたしがあの子のお姉ちゃん....ふふっ」
友達曰く、ずっとそんなことをニヤニヤしながら言っていたらしい。
その日からはパパ達が居ない時を見計らって、扉から赤ちゃんを覗いて、帰ってきたらすぐに隠れて、そんなことを繰り返していた。
あとは、村で受けれるお勉強をいっぱいがんばった。
わたしがあの子に文字や計算を教えてあげるんだ!
そんなことを思いながらがんばっていたら、とっても優秀だって褒められた。
もちろんそれは嬉しかったけど、わたしの目的はあの子に....わたしの弟にお勉強を教えてあげることだからもっといっぱいがんばるんだ。
そうしてついに、パパとママに、弟に挨拶してみようと赤ちゃんの元まで連れられた。
ベビーベッドの前に立つやいなや、パパが私の脇に手を入れて抱き上げながら、弟の名前を教えてくれる。
「この子がエレアの弟のアッシュだよ。優しく触ってあげてね?」
そう言われて、ゆっくりと弟に....アッシュに手を伸ばす。ちゃんと触ったことは無かったから、すごくゆっくりになっていたと思う。
そしたら、アッシュの方からわたしの方に手を伸ばしてくれた。
どんな風に触って良いか分からなくて戸惑っちゃったけど、それ以上にとっても嬉しかった。
そんなわたしの気持ちが伝わったのか、アッシュも笑ってくれた。
そんなアッシュの手にゆっくりと優しく触れると、わたしの指をアッシュがぎゅっ掴んでくる。
それがとーっても可愛くて可愛くて、可愛い以外に言葉が出てこなかった。
「おねえちゃんのエレアだよっ。あっしゅ!」
「あいっ」
今アッシュがわたしに返事をした....返事をしてくれた!
「ねえ!ぱぱ、まま、きいた!?『はいっ』ていったよ!かわいい〜」
なんて可愛いのだろう、アッシュはわたしが守る!アッシュのために色んなこと覚えて色んなことをいーっぱい教えてあげよう。
だってわたしはお姉ちゃんなのだから!
そんなことを思っていたら、ママがなんだか見たことないくらい怖くって、パパに思わず抱きついてしまった。
そんなママを見たからか、アッシュがごろんと転がりながら「あい」って言ったんだけど、声が震えていたように感じたのはわたしだけなのかな?
ママとパパはすっごく喜んでいたからきっと勘違いだったのかも。
でもママに抱き上げられたアッシュがとっても面白い顔で笑っていて、思わず「変な顔」って笑ちゃった。
あの日から家族はもっと仲良しになったんだ!
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アッシュはそれからもいっぱい可愛かった。
ベビービッドの中で「えいえいおー」って言ってたり、「ありがとー」の練習してたり、わたしが笑うと笑ってくれたり、時々口だけニコってする変な顔してたり、とっても可愛い。
でも、アッシュが三歳になってからのある日の夜。
眠っていたわたしは、何故かアッシュのことが気になって起きてしまった。
アッシュも大きくなってベビーベッドは卒業してわたしと一緒のベッドで寝るようになっていたんだけど、その日だけは何故かずっと涙を流していて、それが止まらなくて、どうして良いかわからなくてお父さんとお母さんを起こして相談した。
そしたらお父さんもお母さんも、なんでかはわかんないけど、もしかしたら怖い夢か悲しい夢を見ているのかもしれないと言って、今日はみんなで一緒に寝ようと、お父さんとお母さんのベッドを繋げて、三人でアッシュを抱きしめるようにして眠った。
アッシュが少しでも安心できるように、アッシュにはみんなが、お姉ちゃんがいるんだよって教えてあげるように。
次の朝、わたしたちは、アッシュの大きな泣き声で飛び起きた。
アッシュがこんな風に大声で泣くなんてことは初めてで、みんな一瞬戸惑ったけれど、でもすぐにみんなでアッシュをぎゅーってしてなでなでして、いっぱい大丈夫だよって伝えてあげたんだ。
そしたらアッシュそのまま疲れて眠っちゃって。
お母さんはご飯をつくるから、それまで見てあげていてってわたしとお父さんに言ってさっさとリビングに行っちゃった。
お母さんはどうしてあんなに平気なんだろうって思ってたら、顔に出ていたのか、それに気づいたお父さんがお母さんの行動の意味を教えてくれた。
「多分、お母さんはね、不安で心配でいっぱいだと思うよ?でもそれがエレアやアッシュに伝わってしまわないように、お料理をして心を落ち着かせようとしているんだよ。お母さんはとっても優しくて強い人だから、いろんなことを考えて行動しているんだ。....サフィーは僕の自慢のお嫁さんだよ。」
お父さんはリビングへと続くドアを見ながらわたしとアッシュの頭を優しく撫でてくれた。
「わたしも、お母さんみたいになりたい!お手伝いしてくる!お父さんはアッシュの事見ててあげてね!」
わたしはお父さんにそう伝えるや否や、すぐにお母さんの元に向かおうとドアまで駆け寄るが、もう一度ベッドに戻ってアッシュの頭を撫でてから今度はちゃんとリビングまで行く。
お父さんはそんな私を見つめながらぼそっと
「将来のお婿さんには一発殴られてもらおうかな....」
なんて言っていたことをわたしは知らない。
ご飯が出来ても起きてこないアッシュは、起きるまで寝かせておこうということになった。
「ひと先ずは、ご飯をしっかり食べましょう。慌ててもどうにもならないものね。」
お母さんはとっても落ち着いた様子でそう言った。
「そうだね、あの子は賢い子だからね。アッシュが少しでも気負わずに居られるように、いつも通りに過ごそう。」
お父さんも普段と変わらない風に言った。
でもわたしにはわかる。二人の意識はずっと寝室のドアに向けられてる。
それでも二人の言う通り、普段通りにご飯を食べて、アッシュにいつも通り話しかけよう、私もそう思った。
そうしてご飯をちょうど食べ終わった頃、寝室のドアが開いて、真っ赤に目を腫れさせたアッシュが出てきた。
なんだか、その時のアッシュはいつもと違っていて、すごく幼い顔をしていて、少し弱っているように見えた。
それはわたしだけでは無かったのか、みんな普段通りなんて忘れて声をかけてしまった。
「アッシュ!大丈夫かい?あまり無理はせずに今日はゆっくり休むんだよ?」
「何かあったらすぐにお母さんを呼んでね!すぐ駆けつけるから!」
「今日はエレアがずっと一緒にいたげるからねっ」
そう声をかけられたアッシュはまたとっても泣きそうな顔をして、そのまま嬉しそうに顔をくしゃくしゃにしたまま元気そうに声をあげる。
「うんっもうだいじょうぶ。僕、もうだいじょうぶだよ!」
そういった直後には、お父さんとお母さんがアッシュ抱きしめててびっくりした。
ていうか、二人だけぎゅーしてずるい!
「エレアもアッシュとぎゅーするー!!」
そう言ってしたのはみんなでのぎゅーだった。
わたしはアッシュと二人でしたかったのに....
そんなわたしの心を察してか、アッシュがみんなから離れて、私に向かって両手を広げながら「どうぞ」なんていうものだから思わず
「......なんか違う」
そんな風に文句が出ちゃって、お姉ちゃん失格かもしれないけど....
わたしは、わたしがアッシュにぎゅってしてあげたかったんだもん。
それでもアッシュにぎゅーしてもらいに行くけど....
アッシュはわたしを見ながらずっと首を傾げてた。
これが女心が分かっていない、ということなんだと理解した。
やっぱりアッシュにはわたしが色んなことを教えてあげよう。
だってわたしはお姉ちゃんだから!
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