MEパイロット(1)

【ゴンベル=ヴァールスキン】


 募集要項は少しばかり変わっていた。


 業務内容は衛星の地表での建設作業。


 応募条件はMEを用いた建設を主軸として作業するため、MEの操縦経験のある者に限る。


 特記があり、出来るだけゆっくりと作業をする事――


 なんだ? この特記……

 予算調整でもしてんのか?


 とは言え、極端な軍備縮小の煽りを受けて無職になってしまった俺にとっては、その辺の事はどうでも良い。

 元パイロットの俺に出来る事なんざ、MEを動かす事だけだ。




 アホみたいな倍率を潜り抜けて、見事当選した俺の前では、何故かアーラの奴が拡声器で簡単な説明をしていた。


 あいつ、確かセクハラしてきた上司のキンタマを蹴り上げて左遷されたって聞いていたが……トゥ・ア・ニューワールド計画なんて大層なプロジェクトに参加してたのか?

 

 MEの操縦の腕は認めるが……まぁ良い。話を聞く限り、どうせ俺とは接点はないさ。



 マージファスリーとやらに来て5日。

 毎日のように衛星の地表を鳴らしたり、物資の運搬をしている。

 こんな単純作業、作業用の――それも型落ちのMEで十分に事足りるはずなのに、俺が使っているのは何故か軍用、それも最新鋭機だ。意味が分からん。


 周りの奴等が乗っているMEはバラバラだ。

 中にはさっき話した型落ち作業用MEを操縦している奴もいる。


 操縦のしやすさと整備のしやすさを考えたら、あれで統一するのがベストだろうに……別宇宙の人間の考える事はよくわからんな。


「ゴンベルは良いよな。軍に居た頃だって最新鋭のMEなんて乗った事ねぇよ」


 一緒に食事をしていた同僚がそんな愚痴を漏らす。

 そんな同僚に割り振られたのは2世代前の戦闘用MEだ。


「俺は別に嬉しかないがな。無意味な高スペックを与えられても、やる事はタダの軽作業だ」


 コックピットの快適性は旧型機と大差ないしな。

 戦場でなら生存率が上がると喜ぶところだが――……なんともな。


「最新鋭機で思い出したんだが、聞いたか? マージファスリーの魔法の力を用いた新型機の開発の噂。魔法だぜ? 魔法! はは、笑っちまうよな? お偉方は頭がどうにかしちまったのかね?」


「噂ってか、本当らしいな。知り合いが魔法陣とやら勉強で寝る間もないと嘆いていた」


「マジかよ――魔法陣って……じゃあ何か? あの空を覆っていたブルーフレイムってのは魔法の力で動いてたとでも言うのか? どう見てもロボットだったろ」


「その通り。あのブルーフレイムってのも魔法――魔法陣に魔力を流して動かしてたんだと――こっちの技術を使えば、その魔法陣ってのを機械に入力して、後は印刷する専用のプリンタを造れば量産は可能だから、勉強が大変なのは最初だけだとも言っていたな」


 俺の言葉に、同僚は急に真面目な顔をつくり、声を潜める。


「……じゃあアレか? 上層部はその技術を盗んで、一発逆転を狙ってるのか?」


 俺もつられて声量を絞りつつ会話をする。


「……いや。それはないだろうな。マージファスリーの人間が俺達に一発逆転を狙えるような重要な情報を教えたりはしないだろうし、仮に教わったところで、俺達にはその魔法陣を魔法陣たらしめる魔力液とやらも造れなければ、魔道具を動かすための魔力もない――」


「……方法は幾らでもあるだろう? 誘惑、誘拐、洗脳、薬漬け――魔力液とか言うヤツの方なら、横流し、横領、密輸……」


「……星団の上層部の奴等が考えそうな事過ぎて怖いな……ないとは言えんが……それで得られ力が、マージファスリーの戦力を上回らると判断されない限りはないだろうな。まぁ、どちらにしろ一作業員である俺には関係のない事だ」


「……馬鹿言え。今こっちの世界に居るのは俺等なんだぞ? 偉い奴等がそうすべきと判断した場合、駒になるのは俺達だろう」


「……それこそ馬鹿を言え。向こうとの連絡手段はマージファクトリーの奴等だけが握っているんだぞ? 仮に俺達を駒にするなら、出立前に既にそういう奴等を潜り込ませるよな? そして、俺はそんな命令は受けていない――だから少なくとも俺には関係のない事さ」


「……同僚の誰かがやらかしたら、俺達だって作業員なんざ続けられんだろ。下手すりゃ全員怪しいからとクビが飛ぶかもしれんぞ? リアルに――」


「……その時はその時さ。死ぬ事ぐらい、ずっと昔に覚悟したさ。最後にこんな美味いもんが食えたんだ。悔いはねぇよ」


「……俺は嫌だね。折角戦争なんぞしなくて良くなったってのに、どっかの馬鹿の巻き添えを食らって死ぬなんざ。それこそ、こんな美味い飯を今後も食えるんだ。今まで不味い肉を食ってきた分、少なくともその分の肉を食うまで死にたくねぇ」


「……言い始めた俺が言うのもなんだが――生きる理由が飯ってのも、虚しい話だな」


「なら言うなよ……俺まで虚しくなってくるだろ? じゃあ女か? それとも金?」


 同僚の声のボリュームが元に戻る。

 それに合わせて、俺も声を潜めるのを止める。


「安直な奴だな。う~ん……女なぁ……今この職場の男女比って知ってるか? ちなみに俺は知らん」


「9:1――言うまでもないが男が9で女1な」


「それで彼女が欲しいってのも、無理な話だな」


「マージファスリー人ってどうなのかな? 噂じゃ美人が多いって聞いたが――」


「その噂が本当だとして、俺等にお近づきになる機会なんてあると思うか?」


「……ないな」


「だろうな――さて、ご馳走様。俺は午後の作業に戻るよ。お前も急がないと、休憩時間が終わるぞ?」


「折角の上手い飯だ、味わって食いたいんだよ」


「意識をおしゃべりに持っていかれてただけだろ? じゃあな」


 俺は空になった食器を乗せたトレイを持って席を立った――

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