閑話 ムーゼン強化計画
ムーゼンの最も致命的な欠点、それは乗り手の掛かる負担の大きさであると考える。
これは、操縦席の独特な形に起因するところが大きい。
せめて【ゴーレムダンジョン】のレンタルゴーレムの様に、立ったまま操縦出来る仕様に変更する事を強く希望する。
これは何も、乗り手の負担を減らす為だけの目的で提案しているわけではない。
負担を減らす事で、ムーゼンの機動力にさえ繋がる重要な事項であるし、また、視界の確保にも繋がる筈である。
次に、先に述べた機動力の問題について述べる。
ムーゼン自体の機動力の低さも問題だが、走る度に乗り手の体に負担がかかる為、どうしても足を止める傾向にある。
これは、武装に起因する原因も理由の1つだ。
射程、威力、ともに魔法剣とは比べ物にならないビームガトリングガンという魔法銃を主兵装に用いているため、それ一辺倒な戦い方となる。
スラスターが搭載されていない事も、機動力の低さの原因だろう。
スラスターを搭載する際は、乗り手の負荷を最優先に考慮して欲しい。
次に盾だが、これ自体は悪い物ではない。
とはいえ、大きさに起因する視界の悪さという欠点があるので、透過の魔道具の実用を急がれたし――
また、盾程の強度をムーゼン本体に持たせる事が出来れば、乗り手の保護に繋がると考えられる。
ムーゼンの装甲は、盾に比べて脆すぎる故に、盾を抜かれると一瞬で撃沈されてしまう事が、今回の遠征で判明した。
その他、細かい改善案も記載しておく。
まず、操縦席が蒸れる。アーバン=ネフィスが開発し、特許を取得しているエアコンの魔道具の設置を願う。
次に、拡声の魔道具の声が操縦席に響く。
外部スピーカー? なる魔道具を取りつけて欲しい。
操縦席の素材を木材からクッション性の高い物への交換を提案する。
これは本格的に操縦席が改良されるまでの繋ぎとしての提案である。
レーダーの搭載は必須だろう。
少なくとも、各隊に1体はレーダーを搭載したゴーレムがあれば、隊の生存率は飛躍的に上昇する筈である。
最後に制服への要望を2つ、これは男性騎士の考えであるが――
パイロットスーツという名の制服の股間部分に、男性器をカバーしてくれるパーツを追加して欲しい。今は自分達で創意工夫しているが、素人なので限界がある。
それと、女性騎士のパイロットスーツだが――
女性騎士のパイロットスーツ姿を見た男性騎士の士気が上昇する事を確認した。
適当な理由を付けて、パイロットスーツの露出を増やせば更なる士気の向上が見込めるだろう。
「これが報告書、ねぇ……」
先行量産型ムーゼンの騎士から送られてきた所感を書き記した報告書を確認した第5王子は、そっとその報告書を机の上に置いた。
「まぁ、言ってることは間違ってはいないのだけれど、これじゃただの愚痴だね」
そう溢す第5王子の後ろから、スッと伸びた手が、その報告書を持ち上げる。
手の主は元生徒会副会長であり、今は第5王子の側近を勤める男性だ。
「……最後の要望が酷いですね」
「頭の中がお花畑とは、彼等の為にある言葉かもしれないね。とは言え、試験運用を兼ねた先行量産型の乗り手の大事な意見だ。魔道具師達に渡して上げて」
「……王宮魔道具師達が気分を害さないと良いですが」
「むしろやる気になるかもよ? 一応、最後の一文だけは削除してから渡してね」
「かしこまりました」
数日後、2度目となる報告書に目を通していた第5王子は、少々驚かされる事になる。
ムーゼンの機動力に対する提案。
現行の先行量産型であっても、乗り手の総意工夫次第ではレッサーHMGと互角に戦えることが判明した。
体への負担は、我慢と、少しのコツでどうにかなってはいる。
常に腕と足に力を入れている態勢になるので、少々疲れるが、【ゴーレムダンジョン】で多少の経験を積んだ騎士ならば耐えれる程度だろう。
武装について、魔法剣の脆弱性は否めない。
盾と衝突すると、それだけで刃が欠けてしまう。
これは、騎士の間では攻撃魔法と言えば火球という考え由来の物かもしれないが、現状では、炎の魔法剣よりも硬化の魔法剣の方が有用性は高いように思える。
それは、整備に掛かる時間や労力の削減にもつながる筈である。
ビームガトリングガンは、現状不満点は上がっていない。
ただし、属性が1つである事がネックであるとも考えている。
連射できる魔法の属性を変更出来れば、多様なモンスターに対応出来る筈である。
スラスターについて。
現状の技術で搭載が難しいのであれば、ヨルレア・フェーレ用が使用する、搭乗型ゴーレム用のフライングボードの実用化を提案する。
フライングボードであれば、もともと魔導玩具であった事から、搭乗型ゴーレム用の物でも、スラスターよりは再現が簡単なのではと考えての提案である。
操縦席について。
……エアコンを切に願う。
操縦席の硬さに関して――アーバン=ネフィスよりアドバイスを貰ったと、第2王子殿下が伝えて下さった。
フライングボードを体の下に敷くと良いらしい。
ただし、普通の魔導玩具であるフライングボードをそのまま使うのは適しておらず、それ専用に多少の改造が必要なのだとか――
……この情報だけで申し訳ないが、王宮魔道具師の面々にはこのフライングボードシートの開発も願いたい。
最後に――
前回記述した女子用のパイロットスーツの改変について、お詫びし、取り下げたい。
彼女達は大事な仲間であり、邪な目で見た事を心から恥じる。
「……ふむ。本当に同一人物か疑いたくなるね。読むかい?」
第5王子は後ろに立つ側近の男性に、報告書を手渡した。
「では、拝見します…………なるほど、たった数日で随分と真面目になったもので――少々嘘くさいですが。今度は改善案を書いてきましたね」
「
「後は乗り手としての実力が伴えば、本当にアーバン殿の目に留まる事もあるかもしれませんね」
「まぁ、流石にそこまでは期待して無いけど、存外良いテストパイロットになってくれたかもね」
「テストパイロット、ですか?」
「アーバン先輩曰く、先行機や試作機の乗り手の事を指す言葉らしいよ?」
「なるほど、またアーバン語録ですか」
「覚えるのも大変さ。さて、これも王宮魔道具師達に届けてくれ、機嫌を損ねないですみそうだ」
「……前回は、随分怒っておりましたからね。文句を言うだけなら簡単だと――」
「文句を言うのもテストパイロットの仕事なんでしょ、多分」
「そうかも知れませんね。それでは、行って参ります」
「よろしくね」
ムーゼンは、アーバンに対するパフォーマンスの意味合いが強い。
特に第5王子の考えでは。
しかし、もしこのまま進化を遂げれば、表向きな理由である、”ネフィス家に頼らない独自の戦力”として、期待できるレベルまで昇華出来るかもしれない。
そんな風に、第5王子は、少しだけムーゼンに期待するのであった。
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