閑話 (2)

【とある魔道具師の老人】


 長く面倒な手続きを済ませ、私は王家に爵位を返上し、新しい領主に引継ぎも済ませた今は領地も離れ、王都の郊外に移り住んだ。


 何もなくなってしまった今の私には、1つだけやりたいことがあったからだ。


 アーバン=ネフィスと話しがしてみたい。

 それだけだ。


 まだ爵位を持っていたころに、何度も手紙を出した事はある。

 その度に面会は難しい、あるいは、機会があれば、等の曖昧な返事が返ってくるだけだった。


 爵位も持たぬ平民の身となった今となっては、顔を拝む事すら難しいだろう。

 それでも、私はどうしても彼と会って話しがしたかった。

 会って何を聞きたいのか自分でも良く分からない。

 ただ、彼がどんな人間で、どんな考えを持っているのか、心底興味があったのだ。


「またアンタか……悪いけど、何度来てもアーバン様にお会いさせる事は出来ん。帰った帰った」


 今日も門前で見張りをしていた兵士に門前払いを食らってしまう。

 最近の日課だ。


「そこをどうにか……10分でも良いんだ。アーバン様と話しをさせて欲しい」


「ええい、しつこいしつこい。帰ってくれ」


 私が門番の方に両手を置いて懇願すると、彼は肩を振って私の手を払った。

 それだけだった――


 ドゴン!


 気が付けば、私は吹き飛ばされ、近くの木に背中を打ち付けられていた。

 激痛に襲われ、口からは血が噴き出した。


「が―――は――――」


「し、しまった! まだ手加減が――ぐはっ!」


 ドゴォン!!


 血を吐く私に動揺していた見張りが、何者かに蹴り飛ばされ、私が背を預けている木の隣に木に頭からめり込んだ。……そう、めり込んだ。

 木はそこからゆっくりとへし折れる。


 あれは死んだ……


「いたいけなお年寄りをイジメちゃだめだろ?」


「失礼しました! まだ加減が上手く出来ず!!」


 見張りはひょいと起き上がり、背筋を伸ばして彼を蹴り飛ばした男に返事をした。

 生きていた……というか無傷だ……彼は本当に人間なのだろうか? そういえば、蹴り飛ばした方もとても人間とは思えない脚力だった。


「以後気を付けるように」


「はっ!」


 男は見張りに注意すると、こちらに歩み寄ってきた。

 そして、私に回復魔法をかけてくれる。


 ……回復魔法が使えるのか。


「ありがとう――」


 礼を言いつつ、改めて彼の顔を見て私は驚いた。

 平凡で目立たない顔立ちの青年。

 私は彼を知っている。

 何度も話しをしてみたいと思い願った人物だ。


「うちの者が失礼いたしました。よろしければお詫びにロボット――ミニゴーレムを幾つか差し上げますよ。如何ですか?」


 そう、それはアーバン=ネフィスその人だった。

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