閑話 移民たち(3)

【移民:とある女性】


 素敵……

 

 私の眼を楽しませてくれているのはお城だ。

 多分お城だ。

 私が知ってる武骨で守りの事しか考えていないデザインの物とは大きく異なるそれが本当にお城なのかは自信が無いが、多分お城だ。


 全てが洗練された完璧なバンラスを保ったデザインのその城から、私は目が離せなかった。

 尖塔の1つ1つが城をシャープに見せ、またそのとんがり帽子の淡い差し色が城全体を美しく見せている。

 複雑に掛かる梁は強度を増すための物なのだろうが、それがデザインの為だけに存在しているのでは無いかと思う程美しい。

 

 少々残念なのが周りの景色だ。

 立ち並ぶ四角柱の建物を背後にしてみれば、城を眺める際にそれらが邪魔になる事はないが、見えるのは荒野のみ。

 きっと緑や小川が似合うのに、こんな場所に在ってはそれらの中に建つあの城を眺める事は叶わない。

 それとこの曇天…これがもし青空の下ならば、この城はさらにその美しさを増すだろう。


 「綺麗な城だろ?あれはコーネリア城というそうだ。コーネリアとはこの土地の領主であるアーバン様の奥方にあたる方の名前だ。覚えておくと良い」


 ヨハンがそう教えてくれる。


 あんな素敵な城を造らせた上に、それに自分の妻の名前を付ける何て…素敵すぎる。まるでおとぎ話見たい。って、そんな事を考える歳でも無い筈なんだけどな、私。

 

 それにしても、そのアーバン様とやらは一体この土地の開発にどれだけの人材と費用と歳月を掛けたのかしら?

 …待って?

 どうやっても計算が合わなくない?

 ここってカドゥレーンの土地なのよね?

 戦争で負けたから土地を取られたのよね?

 え?それってついこの前の話しよね?

 なんで城が建ってるの?

 四角柱の建物も、良く分からない施設も、いつ建てたの?


 もしかしてアーキセルはカドゥレーンが戦争を仕掛けるずっと前からカドゥレーンの土地に手を出してた?

 この辺はモンスターが強力過ぎてカドゥレーンの人間は近づけないし、好き勝手をやってもバレないものね。

 それにしたって他国でここまで好き勝手やるかしら?

 それに場所も…こんな場所に大枚叩いて街を築いて、一体どんなメリットがあるのかしら?


 「色々と思うところはあるだろうが、この街に住めば自ずと答えは見つかると思うぞ?」


 「は、はぁ」


 「さて、これからお前たちの住む場所に案内するわけだが、アーバン様からは希望する者には1人暮らしを認めると仰られていた。もちろん1人では心細いという者には複数人で生活できる部屋も用意してある。私の見立てでは最大で10人は暮らせると思うが、アーバン様曰く最大4人暮らしを想定している部屋だそうなので、アーバン様の設計意図に合わせ1部屋に4人までとする。そして今から配るのがその部屋内部の写真だ。良く考え、また話し合って決めてくれ」


 ヨハンはそう言うと紙を配り始めた。

 その紙には信じられないぐらいの精度で描かれた部屋内部の絵だった。

 それが何枚かある。

 リビング、寝室、調理場、浴槽付きの浴室、船内にもあった魔道具のトイレ……


 「あ、あの…配る絵を間違えている様ですが……」


 私の隣の女性がオズオズと手を挙げながら、申し訳なさそうにヨハンのミスを指摘した。

 

 そう、どう考えても間違えている。

 アーキセルではどうか知らないが、カドゥレーンでは大金持ちでさえこんな暮らしは出来ない。

 まして働き手として連れてこられた移民がして良い暮らしでは無いと思う。


 「ん?…いや、間違えていないな。それで合っている。最初は色々戸惑うだろうが住めばなれるだろう。ちなみに男性と女性で住むフロアが違うが同じマンションに住んで貰う予定だ。えっと…こんしぇるじゅ?管理人カボが各フロアに1体ずついるらしいから困った事、分からない事があればカボに聞いてくれ」


 間違えて無かった。


 それにしても、まんしょん?こんしぇるじゅ?知らない単語だらけだ。

 まんしょんは集合住宅かな?


 色々考えながらヨハン等に案内されたのは、例の四角柱の建物が立ち並ぶエリアだった。

 近くで見れば高価なガラスが大量に使用されており、ただの四角柱でない事も分かる。

 その建物の中の1つの前でヨハンが足を止める。

 彼の横には丸っこいフォルムのゴーレム。ここに来るまでに何度か見たカボと呼ばれる自動で動いて喋る摩訶不思議なゴーレムが立っていた。

 ヨハンの話しでは私たちはこのカボより立場が下らしい。

 思うところはあるが仕方ないと割り切ろう。


 「まずは魔力を登録してくれ。この登録をした者以外は扉を開けない仕様になっている。マンションの共有の扉は全員で、後は各部屋ごとにも別途登録が必要だ。登録を行えるのはカボだけだ。私にも登録は出来ない様になっている」


 [オ一人ズツ前ヘオ進ミ下サイ。魔力ヲ登録致シマス]


 カボに言われるままに登録作業を済ませる。


 全員の登録が完了したところで一番最後に登録した私がカボに呼ばれた。


 [デハコノパネルニ手ヲ触レテ魔力ヲ流シテ下サイ]


 言われた通りにする。

 魔力を流すと、横にある全ガラス製の扉が左右に開いた。


 [デハ皆サンオ入リ下サイ。男性ハ2・3階。女性ハ30階デス。野郎共ハ階段ヲオ使イ下サイ。女性ハエレベーターへドウゾ。マタ男性ガ許可ナク30階ニ立チ入ッタ場合、警告無ク雷ノ魔法銃ヲ打チ込ミ、強制退場願イマスノデゴ了承下サイ]


 お、男に厳しい。


 [ヨハン様モ例外デハアリマセンノデゴ注意下サイ]


 「ああ、心得ているよ」


 …もしかしてカボってヨハンより偉い?

 口調を考慮すればそんな事ないか。


 途中でヨハンと兵士2人と分かれ、私たちの案内はカボだけになった。


 案内された部屋は絵で見た通りの場所だった。


 「…ほ、本当にここに住んで良いのかな?」

 「多分……」


 [ソレゾレノ部屋ヲゴ案内スル前ニ、先ズハ皆サンコノ部屋ノ中ヘオ入リ下サイ。幾ツカ説明ガアリマス]


 カボが説明してくれたのは主に魔道具の使い方だった。

 家具の多くが魔道具化されており、どれもカドゥレーンでは見ないものばかりで驚いた。

 特に私が衝撃を受けたのが服だ。

 クローゼット、と呼ばれる備え付けのチェストの様な場所に入っていた多くの種類の服はどれもドロップアイテムなのだと言う。


 [アマリ可愛イ服ガ無クテ申シ訳アリマセン。ドロップアイテムノ中デモ可愛イ物ヲ選ンダツモリナノデスガ…ソレト種類モ、今ハ全15種類シカ無ク……ソレゾレノオシャレヲ楽シンデ頂ケルノハ当分先ノ事ニナルト思イマス]


 何故か申し訳なさそうに語るカボだが……


 私…服なんて5着しか持って無かったんだけど?

 クローゼットに用意されていたのは上下それぞれが15種類。それが4セットずつ。

 ダンジョンドロップはどれも高価な物で総額が幾らぐらいになるかちょっと分からない。


 ここで気が付いたのだが、集められた女性は皆背格好が似ている。

 もしかして服のサイズに合わせて選ばれた?まさかね……


 「十分すぎるわ…ます。ところで、カボ…様は私たちの上司?に当たるのですよね?そんなに丁寧に接して頂かなくとも構わないと思うのですが?」


 [私ハコノ喋リ方ガ気ニ入ッテイマスカラ]


 「は、はぁ」


 「本日ハオ疲レデショウカラオ休ミ下サイ。明日朝8時ニオ迎エニ上ガリマス。ソレデハ皆様、オ休ミナサイ]


 「はい、お休みなさい」


 …ん?8時?

 随分とゆっくりなのね。

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