閑話 騎士たちの戦場 【北部】【西部】
【王都:北部】
「くぅ!どうして私がフローラ先輩と別の隊ですの?!納得できませんわ!!」
王都北部、比較的安全であろうその場所には、第3騎士団の中でも実力に乏しい物、または経験の乏しい騎士たちが防衛にあたっていた。
熟練の騎士と比べて、その力に遜色のないケイト=フェメルも経験の少なさからこちらに配属されたのだが、たったの1年の勤続年数の差でフローラ=サンは西側に配置された。
それがケイトには堪らなく納得できない。
「………俺の中のケイトのイメージがどんどん崩れていく」
ライジング=タスタがポツリと呟く。
「何か言いました?」
「いや……何でもない」
「まぁいいですわ。ところで、タスタはこちら側にも敵がモンスターが放たれると思います?」
「……さぁな、こんなイベントは知らないからな」
「イベント?」
「それも何でもない。忘れてくれ」
「変な方ね」
「お互い様だろ」
その時、北部を防衛する部隊の隊長を勤める冴えない中年の男がその場に居る騎士たちに伝える。
「あ~、今念話があった。新たに西に2カ所、東で3カ所、モンスターの侵入が確認された。こちらにもモンスターが放たれる可能性が高くなってきたと判断する。諸君、気を抜かないように」
「「「はい!」」」
「第3騎士団の質も上がってしまったなぁ……昔はもっと緩かったのに」
男は気怠そうに前を向き直る。
「西……大丈夫かしら」
「いくらフローラ先輩が心配だからって、持ち場を離れたりするなよ?」
「当たり前ですわ。流石にそれぐらいの分別はあります」
「……ケイトを見ているとその当たり前の分別が心配になるんだよ」
「失礼な、というか、さほど親しくも無いのにファーストネームで呼ぶの止めてくれます?」
「……俺、一応同級生だよね?」
「だから?」
「……何でもない」
「またそれ?言葉にしないと何も相手には伝わりませんわよ?私はそのことをフローラ先輩に教えてもらいましたわ」
「たまにいい事いうような、ケイトは」
「フェメル、ですわ」
「うぅ、ヒロインが冷たい……」
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【王都:西部】
西部の防衛にあたっているのは第2騎士団と第3騎士団の混合部隊だ。
第3騎士団と違い、第2騎士団では新米だろうが、こちらに配置された。
第3騎士団からは、一定の実力と経験がある者が配置されている。
「ナジェ!!」
フローラ=サンの悲痛な叫びが戦場に響いた。
騎士の1人がジャイアントオーガの振るう巨腕を諸に受けて数メートルほど宙を舞う。
「急いでナジェを後方の支援部隊のところに!回復魔法を受けさせて!」
「…………だめだ、間に合わない」
「そんな……」
「回復魔法が使える奴をもっと前に出せないのかよ!?」
「無茶言うなよ、彼らは戦闘能力なんてほとんど無いんだ。自衛すらままならない奴を前にだしてどうする。彼らが全滅したら回復が出来なくなるんだぞ」
「どけ!回復薬を使う!!」
男が回復薬を振りかけると、ナジェの顔色が若干良くなったのが分かった。
「お前、まだ回復薬持ってたのかよ」
「今ので最後だ。それより早くナジェを後方に……」
「ぐおぁあ”あああああ!!」
ナジェを救おうとする騎士たちに、ジャイアントオーガが雄たけびを上げながら、再びその巨腕を振りかざす。
「や、やばい!死―――」
「<火炎渦>!!」
フローラが咄嗟に放った炎の渦の魔法は、見事ジャイアントオーガの顔面を捕らえた。
が、しかし―――
ジャイアントオーガは一瞬怯み、体を仰け反っただけで、顔面から煙を挙げながら、拳を振りおろした。
だが、その拳は騎士たちに届く事無くゴトリと地面に落ちたのだった。
「ぎぃがぁああ!」
腕を斬り落とされたジャイアントオーガは痛みに耐えかねて、左腕で斬られた右腕を抑えながら、その場に蹲る。
その蹲り隙だらけになったジャイアントオーガの首も、ゴトリと地面に転がった。
誰がやったのかと騎士たちがその姿を確認する。
そこに居たのは2本の斧を持ち、見なられぬ黒い鎧を着た何者かが立っていた……いや、中にはその鎧に見覚えがある騎士もチラホラといるようだ。
ただ、この場では救世主だろうその何者かは、背が低かった。
50センチかそれ以下か、大体それぐらいだ。
「な、なんだあれゃ?」
「あれはおそらく、アーバン殿の販売しているHMGシリーズだ。俺が持っている物より随分大きいが」
「あん?えいちえむじーシリーズ?アーバンが売っているミニゴーレムといえば、ヨルレア・フェーレ型じゃないのか?」
「それ以前から売っていただろう。なんだ、お前持って無いのか?」
「ウチの子はまだ1歳だ。ゴーレムは早ぇよ」
「……自分用に、という意味だったんだが」
「あん?あんなの子供の玩具だろ?」
「それは聞き捨てならんな。結婚して女遊びを止めたお前は酒ぐらいしか楽しみがないだろう?俺がゴーレムの良さを教えてやろう。今度付き合え」
「遠慮しとくよ」
「先輩方、今はそんなことよりあのゴーレムの事です」
「そうだった。あれは誰のゴーレムだ?」
「あ、あの、あれ、俺のゴーレムです」
オズオズと手を挙げたのは第2騎士団の新人の……
「誰だ?」
「えっと……確か……誰だっけか?」
「お前ら、失礼すぎだろ。フル=ガーミット、そうか君は確かアーバン殿と同じ魔道具研究部の人間だったな」
「は、はい。あのHMGは在学中にアーバン先輩が部員に配った物で、本来なら部の備品なんですが、魔力登録されていて、俺にしか扱えないからと、卒業する時にそれぞれ持ち帰る事が許されたんです。元々は木製の武器だったんですけど、卒業後に趣味で鉄製の魔道具に変えたりしてて」
「非売品の50センチHMG……う、羨ましい」
「お前なぁ……というか、アーバン以外にも魔法剣、じゃなくて斧か。魔道具を作れる人間がいたのか」
「以前、アーバン先輩とチラズ先輩が、これとは違う型ですが、似たサイズのゴーレムでA級指定のモンスターを蹴散らした話を聞いた事があったので、もしかしたら役に立つかと思って持って来ていたんです」
「ではもしや、それより小さいとはいえ、市販されているミニゴーレムも戦力になるのでは?」
「あ、いえ、市販の物はリミッターが解除できないようになっています。アーバン先輩本人でもない限り。だから戦闘は無理です」
「そ、そうか。俺のHMGは活躍できないのか……残念だ」
「ブレないな、お前」
「しかし、あのジャイアントオーガの腕と首をいとも簡単に斬り落としたあの力、これは間違いなく戦力になるぞ」
「応援が来るまで持ちこたえるのが仕事だと思っていたが……フル、そのゴーレムで前衛を頼めるか?」
「や、やってみます!」
「残りの者は魔法で支援だ!良いか!無理に突っ込み過ぎるなよ!!」
「「「はい!!」」」
やがて空から鋼鉄の天使たちが救援に駆け付けるまでに、彼らはかなりの数のモンスターの討伐に成功した。
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