第260話 ニーナレーアはほぼ全ての使用人たちを戦場に送り出し、
ニーナレーアはほぼ全ての使用人たちを戦場に送り出し、そのまま王都の外にまで移動していた。
街の外周に平行になるように船体の向きを調整すると、街とは反対方向、左舷に配置したカボたちに向かってニーナが船内放送で話しかける。
『80~90番のカボちゃんたちは砲撃準備をお願い。合図をしたら一斉に発射して、街から離れた場所なら騎士を巻き込む心配はないわ。狙いはそこそこでいいからともかく手数を稼いで……それじゃあ、砲撃を開始して頂戴』
ニーナの指揮のもと、カボたちが一斉に砲撃を開始する。
ニーナレーアに搭載された大砲代わりの魔道具は、片面に5つの属性の物が2門ずつである。つまり全5種類、計10個の魔法が一斉に放たれる事になる。
一撃一撃がかなりの威力のそれは、かりに直撃しなくとも、モンスターたちの足を止め、時には爆風でダメージを与えていく。
そして、直撃したモンスターはたったの一撃でかなりの確率で戦闘の続行は不可能な状態に陥る事になる。
そんな砲撃の雨を確認したニーナは近くに控えていた、普段は御者を勤める使用人のソドに声を掛けた。
「ソド、ニーアレーアの操作を任せられるかしら?」
「へぁ?」
突如とんでもない事を言われたソドはつい素っ頓狂な声を上げてしまう。
「あなたが使用人のなかでは一番魔道車の操作が上手でしょう?暫くはここに船を固定してくれているだけでいいわ」
「し、しかし私はしがない御者ですし、こんな大きな空飛ぶ船を操作した事は……」
「私だって出来たのだもの、あなたに出来ないわけないわ。知っていますよ、最近は御者としての仕事が減って来て、魔道車の運転手としての仕事が増えて来たあなたが、アーバン殿に頼んで魔道車を借り受け、時間を作っては運転の練習をしている事を。そんな努力家のあなただから安心してニーアレーアの操舵を任せられるのです」
「お、奥様……やります!やらせて下さい!!」
「ええ、お願いね」
「はい!……あ、し、しかし、この手の大型の魔道具の大半は、魔力を登録する必要があるのでは?」
「ふふ、あなたの魔力はアーバン殿に頼んで既に登録済みです」
「……必ずご期待に応えて見せます!!」
「あまり肩に力を入れ過ぎないように」
ソドにニーアレーアの操舵をまかせたニーナは船首に近づき、自身の姿を模した像を眺めていた。
「……さて、アーバン殿の性格を考えると、間違いなくこの像にもなんらかの仕掛けをしていると思うのだけれど」
「本人を問いたださなかったのですか?」
ニーナの後ろに控えたメイド長が尋ねる。
「ええ、殿方の遊び心をなんでも全て暴くのも、淑女としてどうかと思って止めておいたのだけれど、こんな事になるならば聞いておけば良かったわね」
ニーナはとりあえずと、ニーナ像に魔力を流して見る。
すると自分の意識で両手だけが動かせる事が判明した。
可動域は広くない様で、腕を前面に突き出す様に動かせるだけのようなのそれをゴーレムと呼ぶのは少々違和感を覚えつつ、ニーアナはそれが何を意味するのかが何となく理解出来た。
「……おそらく手のひらから魔法を放つ仕組みよね……アーバン殿の好みを考えると主砲代わりの強力な魔法を放てると考えるのが正解かしらね……でも、それだけかしら?あのアーバン殿が……」
目視で確認する限り、その像の素材はアーバンが好んでよく使う名前すら分からないその金属のように思える。
だとすれば、その特徴はニーナの耳にも報告として届いている。
ニーナは試しにと、魔力に火の魔力を乗せて流してみた。
すると髪の毛の部分のみが、みるみる色を変えてニーアと同じ鮮やかな赤い色へと変貌した。
しかし、それ以外の変化は見受けられない。
「……」
「私は好きですよ?ニーナ様の美しさを良く表現出来ていて」
なんのフォローなのか、メイド長が気を使いながらニーナにそう告げた。
「……それはありがとう」
念のために他の属性の魔力も流してみるが特に変化も無く、ニーナはがっくりと肩を落とした。
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閑話(2)
アーバンから許可をもらったオリビエは、他のネフィス家の使用人とは別行動をし、1人、実家のパン屋へと急いでいた。
パワードスーツゴーレムに身を包み、街の上空を全速力で飛ばしつつ、一直線で進む彼女の目に映ったのは巨大なオーガが氷漬けになり、砕ける瞬間だった。
「え?!あ、あれってお母さんがやったの?!」
オリビエは母が並みの貴族などよりよほど強い事は知っていたが、もしや心配して駆けつけている自分の行動は無駄に終わるのでは?などという考えがオリビエに浮かんだ。
もちろんそうである事に越したことはないのだが。
オリビエはそのままのスピードで実家の上空に到着しする。すると眼下には懐かしい変わらぬ母の姿があった。
オリビエは降下しつつ叫ぶ。
「お母さん!無事!?」
声に気づいたオリビエの母は上空を見上げる。
「その声……オリビエ?」
ドスンとパワードスーツ姿のオリビエが母の眼前に降り立った。
「そう私!心配だから様子を見に来たの。大丈夫?」
「全然平気よ。それよりオリビエ、そのロボットのコスプレみたいな恰好はなに?」
「ろぼっと?こすぷれ?なんの事かよくわからないけど、この恰好はアーバン様が開発した着るゴーレムだよ。これを着れば誰でも強くなれるの」
「ゴーレム?え?ゴーレムって、こう、岩が集まったごつごつした人型の、岩人形?みたいな感じのヤツの事じゃ無いの?」
「ああ……世間一般ではそれがゴーレムだね。というかお母さん、第3王子殿下がゴーレムで戦ってる事とかしらないの?世間じゃ結構話題になっていると思うんだけど?」
「全く知らないわ。スマホもネットもテレビも無いのに皆どうやって情報収集してるのかしら?」
「”すまほ”とか”てれび”とか、お母さんの話しには時々出てくるけど、結局それってなんなの?」
「説明が難しいからパス」
「もう、魔法の事とかはどんなに難しい事でも丁寧に教えてくれるのに。ところでお父さんは?」
「邪魔だから店の中で震えてもらってる」
「相変わらずだなぁ。店の方も。かなりの額の仕送りをしてるのに、お店、建て替えたりしないの?」
「そうだ!その事よ!額が大きすぎて怖いのよ!!お願いだから一旦仕送りを止めて!心臓に悪いから!」
「なんでそんなところは小心者なのよ」
「あんな額、誰だって怖いわよ!」
「……今度、トイレの魔道具の特許を申請するから、仕送りの額はもうちょっと増えるかも」
「なんでよ?!減らしてよ!!……ん?トイレ?」
「そう、排泄物が消滅する魔道具、凄く便利なんだけど、アーバン様が特許は私との連名したいって、後、場合によってはチラズ様って貴族の方も一緒に」
「排泄物が消滅?……ちょっと、その話詳しく聞かせくれる?」
「え?う、うん、それはいいけど、お母さん?ちょっと、なんか迫力が―――」
この後、久々に再会した母娘は、たまに近くまで入り込んだモンスターを会話の片手間に倒しながら、1日中トイレの話しをする事になった。
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