第259.1話 使用人たちの戦い(1)
アーバン・ネフィスによる艦内放送が流れた直後のネモフィス艦内には張り詰めた空気が流れていた。それはもちろん初の実戦である事や、街の中にまでモンスターが入り込んでいるという事実によるところも大きいだろう。
だが、最たる理由は――
「口調はいつものようにお優しいアーバン様だったけれど……」
「明らかに怒気が含まれていらっしゃったわね」
「直接会ってお話をされているわけでもないのに、威圧感のような物を感じたわ。まるでアーバン様にお会いになる前のヌゼ様のような…いえ、それ以上ね」
「……ごめん、以前のヌゼ様が思い出せないわ」
「あはは、確かに、変わり過ぎだものね」
「ふふ、おかげで緊張が解れたわ、ありがとう」
当然緊張が完璧に緩和されたわけでは無い、だが、明らかに先ほどまでの刺すような空気感は和らいだとそのタイミングで、この場では最年長の家令である執事が声を上げる。
「それでは皆さん、ゴーレムの装着を」
「「「はい!!」」」
使用人たちは一斉にパワードスーツゴーレム装着する。
「「「装着!」」」
【降下部隊1】
アーバンの指示のもと、使用人たちは幾つかの部隊に分けて降下した。
最初の10人は全てメイドで構成された部隊だ。
10機のパワードスーツゴーレムが降下しながら目的のポイントを目指す。
「-------------------------ぁ-------」
1機のゴーレムから何やら声のようなものが漏れ出ているが、距離もあり、また風を切る音が邪魔をして、他の者たちにはそれがほとんど聞き取れない。
『聞き取れないわ、通信機を使いなさい』
『うひゃ!な、なにこれ!?耳元から声が?!』
『馬鹿、声がデカい。アーバン様に説明されたでしょ?念話が使えない者同士でも通話が出来るようにしたって』
『き、聞いてないよ?!』
『……後で使い方を教えてあげる。それで何か言ってたでしょ?何?』
『そ、そうだった!下!モンスターと騎士の人が戦ってる!!』
『望遠の魔道具はちゃんと使えているのね。見えているわ。騎士の方が圧されているわね。援護射撃をしてあげたいけど…』
『私たちの腕じゃ騎士の人に当てちゃうよ~』
『そうね……』
『……私が先行するわ』
『へ?どうやって?』
『ジェットパックを切って降下する』
『ええ~っ?!多分まだ100メートル以上はあるよ!?』
『ギリギリで再度噴かせるわ。それじゃあお先!』
パワードスーツゴーレムのうちの1機が宣言通りにジェットパックの噴射を切って自由落下に身を任せる。
ゴーレムは降下するスピードをぐんぐんと上げ、あっという間に他の9機を引き離していく。
『ほ、本当に切ったぁ!?』
『あ、あの子、あんなに肝が据わってたかしら?』
『……確か、あの子の実家がこの辺りだって聞いた事がある気がする』
『あっ……そ、そうなの?』
『……私も続くわ』
『ええぃ!仕方ないわね!!』
1機、2機とゴーレムがジェットパックの噴射を切って降下のスピードを増していく。
『ご、ごめん。わたし無理ぃ!』
『強制はしないわよ。後から来た人は上空から離れたモンスターを射撃して!出来たら街に入り込まれるより前に撃破して数を減らして!』
『りょ、了解!!』
先行した最初のメイドがドスンと大きな音をたてて着地し、それに近くに居た騎士が反応する。
「な、何者だ!?」
「ネフィス家の使用人です。加勢しに参りました!」
「や、やはり先ほどの空飛ぶデカい金属の塊のような物体はネフィス家か!?相変わらず滅茶苦茶だな!しかし使用人?加勢は助かるが……」
「今は問答をしている時間はありません。勝手に戦わせて頂きます!!」
メイドはパワードスーツゴーレムの太もも辺りのホルダーから短剣を取りだして、それをくるりと手の中で遊ばせて逆手に構えると、モンスターに向かって突っ込んでいった。
「は、速い!!」
騎士は驚き声を上げる。
パワードスーツゴーレムは一瞬にしてモンスターとの距離を詰め、そして手に持った短剣で馬型モンスターの喉元を切り裂いた。
そう、確かに切り裂いたのは喉元であった。しかし、ゴトリとその首が地面に転がる結果になった。
「ば、馬鹿な、エレメントホースはA級指定のモンスターだぞ……それを…」
驚く騎士の後ろに、またドスンドスンと音をたてて、次々とパワードスーツゴーレムが着地してくる。
「こわかったぁ~」
「……終わったらどこかで替えの下着買わないと……」
「あんた、まさか――」
「……ちょっぴりだけ……」
「うわぁ……」
降りて来たパワードスーツゴーレムは全部で6機。残り4機はジェットパックを使いながらゆっくりと降下している。
「こ、声から察するに全員女か?ネフィス家はどうなっているんだ……」
「騎士の方、被害はどれほどでしょうか?」
「え?あ、ああ、俺が把握しているだけで怪我をして後方支援の者にに回復魔法を施して貰いに一時戦線を離脱した騎士が10名、戦死者が4名だ」
「もう戦死者が……平民の被害は?」
「遠方にジャガーノート達の姿を確認した段階で、外周近くの住民たちは中央付近の広場に避難するように指示を出している。確認出来ている死傷者は居ない」
「……騎士が平民の命を助ける為に動くとは、正直意外でした」
「俺たちを何だと思っているんだ、と言いたいところだが、これは第5王子殿下の命令だ。出来るだけ平民から死者をだすなと」
「なるほど、そうでしたか。ではその戦死者の場所に案内してください」
「は?何故だ?」
「おそらく助けることが可能だからです」
「馬鹿を言うな。重傷などではない、確実に心臓が停止していた。助けられるわけなどない」
「ネフィス家の秘蔵のドロップアイテムを使います」
「……ま、まさかあの噂は本当なのか?本当に生き返らせる事が可能なのか?」
「死して3時間以内なら、という制限付きですが」
「わ、分かった、案内する!付いて来てくれ!」
「はい。みんな、ここは任せるわよ」
騎士について走りだした直後、そのメイドのパワードスーツゴーレムの内部スピーカーが別のメイドの音声を届けた。
『ちょっと、薬をその騎士の人に渡しちゃえば良いじゃない。態々戦力を減らす必要はないでしょ?』
『そうしたい気持ちもあるけど、この薬はネフィス家の物だし、他人には任せられないわよ。もしこの騎士の人が、仲間の命よりこの薬を懐にしまう事を優先するような人物だったらどうするのよ』
『流石にそんなわけ―――』
『分かっているわよ。でも、使用人としてその選択肢は取れない事も分かってくれる?』
『……ええ、そうね。分かるわ』
『モンスターは任せるわ。大丈夫、さっきのあの子の戦闘を見たでしょ?敵は大したことない。皆なら簡単に殲滅できるって信じてる』
『はいはい、任されたわよ』
通信を切ったメイドは先に戦闘を始めているメイドが駆るパワードスーツゴーレムの戦いを見て確信を持った。
「確かに、山羊頭と比べると怖くもなんともないわね」
メイドが覚悟を決めて短剣を構えると、上空から街の外へと向かた魔法銃の攻撃が開始された。
「あっちも攻撃を開始したわね。皆さっさと街に入り込んだモンスターを殲滅して、上空の部隊と合流するわね」
「「「ええ!」」」
地上に降下した残りのメイド達も一斉に短剣を引き抜いて、モンスターに向かって駆けだした。
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