閑話 ネフィス家のメイド達

 メイド服に身を包んだ美しい女性が5人。横並びになって立っている。

 その5人が一糸乱れぬ動きでスカートをふわりと靡かせると、美しくきめ細かい肌の脚が露わになった。その足には魔道具であるベルトが巻かれている。

 5人は同時に手でベルトに触れると、これまた一瞬の差も無く綺麗に声をハモらせた。


 「「「「「装着!!」」」」」


 全くの同時、まるで何かのショーのような洗練されたタイミングだ。


 彼女たちは光に包まれると、その光が消える頃には全員がパワードスーツゴーレムを装着した状態だった。

 やや黒部が多いモノクロで、どこか女性らしさも感じるデザインのそのパワードスーツゴーレムは全機背中にジェットパックを装備している。


 「総員、飛翔!」


 「「「「飛翔!!」」」」


 中央のメイドが声を張ると、残りの4人がそれを復唱する。

 少しして全機がふわりと浮かび上がった。


 これは訓練では無い。しかれどもここは戦場でも無い。そう【試しの遺跡】で山羊頭を相手にしているわけでは無いのだ。

 では彼女たちが何処で何をしているのかというと、場所はネフィス家の屋敷だ。

 そして彼女たちが何をしているのかは、パワードスーツゴーレムが手に持っている物を見れば分かってもらえるだろう。

 全機は手にデッキブラシを装備しているのだ。

 そう、彼女たちがこれから行うのは屋敷の屋根の清掃だ。

 このデッキブラシ、アーバンの手製の魔道具で、水の魔道具と風の魔道具と次元収納が組み込まれている。要するにバケツは必要無いし、使い方によっては高圧洗浄機にもブロワーにもバキュームにもなる。


 本来屋根の上の清掃は外部の専門の人間に依頼していたが、メイド達の中には常々”清掃”というテリトリーを犯されている様で、それに少々の不満を持っている者も多かった。


 「やっぱりメイドとしては隅々まで自分たちの手で掃除出来るのは嬉しいわね」


 「ワーカホリックめ」


 「あぁ、良い眺め~!」


 「そう?私はまだちょっと高いところは怖いなぁ」


 「山羊頭と初めて対峙させられた時に比べたら怖い事なんてそう無いわよ」


 「ええ?あの時はゴーレムンジャーの皆様が前衛をなさってくださってたじゃない。別に恐怖なんてほとんど無かったわよ?」


 「アンタ、あの人たちが奴隷だって忘れてない?」


 「忘れてないけど、皆様アーバン様の懐刀みたいな立ち位置でしょ?正直私たち一般メイドよりネフィス家での立場は上なんじゃない?」


 「ええ~?私たちの立場って奴隷より下なの?」


 「多分アーバン様はどちらが上とか、どちらが下とか、そういうの嫌うと思うな」


 「確かに。でもイブお姉様になら命令されたいかも」


 「あなたって………」


 「ほらあなた達、おしゃべりしない!清掃を開始するわよ。アーバン様お手製の魔道具まで使わせて頂いているのだから、出入りの業者なんかより綺麗にしてみせなさい!」


 「「「「はい!!」」」」



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 使用人たちの休憩室で、5人のメイド達が昼食を取りながら談話をしていた。

 ちなみに、ネフィス邸ではメイド達の食事は当番のメイドが厨房を借りて作る事になっている。今日のメニューはサンドイッチとカボチャのスープ・ダンジョン肉入りだ。


 「……ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」


 1人のメイドが神妙とは言えないが、気軽でもない雰囲気でそう切り出した。


 「なに?」


 「あなた達って回復魔法を使える?」


 回復魔法、それはメイドにとって憧れの魔法だ。なにせ回復魔法が使えるだけで給料が倍以上に跳ね上がると噂されているものだし、それだけ使い手も少ない魔法なのだから。

 当然、一般メイドと呼ばれる彼女たちにはそんな魔法は使える筈が無いので、本来ならばこの質問に何の意味があるのかと皆が首を傾げるような質問なのだが……


 「その質問をするって事は、もしかして?」


 「ええ、私も”山羊頭の試練”を乗り越えたら回復魔法が使えるようになったの。今までどれだけ練習しても使えなかったのに」


 「えぇ~良いな~。私は山羊頭後も回復魔法は使えないのに」


 「私も、でも回復魔法が使えるようになった使用人は多いみたいね」


 「私は使えるようになったわ。大体全体の3割ぐらいが使えるようになったみたいね」


 「やっぱり魔力値が上がった事と関係があるのかしら?」


 「う~ん、どうだろう?もしそうなら全員が回復魔法を使えるようになっててもおかしく無いと思うんだけどなぁ」


 「それで?回復魔法を使えるようになった事を旦那様に報告してお給金を上げてもらうつもりなの?」


 「……ううん、やめておく」


 「理由を聞いても?」


 「だって、一気に回復魔法が使えるようになった使用人が増える事になるでしょ?そうしたら使用人を雇うのに必要な経費が大変な事になるじゃない?で「ウチではそんなに雇えないし、必要も無い。回復魔法が使えるメイドなら働き先に困る事も無いだろう」って屋敷を追い出されるかもしれないじゃない」


 「私も同じ理由で報告はしたけど給金については今のままでお願いしますってお願いしたわ。正直この職場に慣れちゃったら別の職場で働くのとか想像するだけでもゾっとしちゃうもの」


 「え?報告はしたの?」


 「当たり前でしょ。不義理は出来ないわ」


 「不義理……そっか、そうだよね。うん、私もそうする」


 「それが良いわ。ちなみに私の時は給与額を上げさせろ、結構です。の攻防が30分ぐらい続いたから、それは覚悟してね」


 「……普通逆じゃない?」


 「それだけ良い主に、いえ、主たちに恵まれたって事よ」


 「そうね」


 「さ、早く食べて、その主様たちの為にお仕事をがんばりましょ」


 「「「「は~い」」」」



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 長い廊下で2人1組で掃除をしているメイド達のうちの1人、窓ガラスを拭き上げていたメイドが、床の掃き掃除をしていたパートナーに話しかける。


 「でも不思議だよね」


 「何が?」


 「だって聞いた説明だと魔力値と一緒に私たちの身体能力も凄い事になってるんでしょ?」


 「そうね、この間試しに全力でジャンプしてみたら屋根ぐらいまで跳んで正直自分でも引いたわ」


 「……それは怖いわね」


 「それで、何が不思議なの?」


 「それなのにどうして普通に窓の拭き掃除が出来るのかしら?」


 「ん?どういうこと?」


 「だって、ちょっと力を入れただけでも窓ガラスを割っちゃいそうなものじゃない?」


 「ああ、そう言えば。普段の生活では自分の身体能力が上がってるって実感はほとんどないわね。強いて言えば疲れにくくなったぐらいかな?」


 「別に筋骨隆々になってる訳でも無いし、私って本当に凄く強くなってるのかな?」

 

 「お願いだから今ここで試したりしないでよ?さっき言ったけど、私の身体能力は間違いなく凄い事になってたんだから、あなただってきっと同じよ」


 「まぁ別に、メイドにそこまでの筋力が必要なわけでも無いし、別に良いんだけどさ」


 「そう?意外に便利だと思うわよ。重い物を運ぶ時に男の人に頼らなくても良かったりとか、長時間腰を曲げての作業をしても腰が痛くならなかったりとか」


 「……地味な使い道ね」


 「メイドに派手さを求めないでよ」


 「それもそうね」

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