閑話 子悪党の辿る末路

 ローパーは王都内に幾つもの隠れ家持っている。元々敵の多い人間だ、この様な事も想定している。隠れ家には数日分の保存食が用意されており、暫くは身を隠せるだろう。彼はそこから私兵を使いにだして、ゴロツキまがいの冒険者たちを雇ったり、私兵に襲撃者たちを少しずつだが消す事に成功していた。


 「ふん、魔道具を持たせたところで所詮は素人、このままいけば数日中には片が付くだろうな。ところで、やつらを殺して奪った謎の魔道具はどうだ?やはり使えんのか?」


 ローパーは彼が一番信頼を置く凄腕の用心棒に尋ねるが、用心棒は僅かに顔を歪ませながら応えた。


 「ええ、何の反応もありやせんぜ旦那。魔法剣の方は問題なく使えたんですがね」


 「それだけは朗報だな。どんなタイプの魔法剣だ?」


 「オーソドックスな風の魔法剣と、炎の魔法剣、それと硬化の魔法剣の3本ですぜ」


 「硬化?」


 「ただ刀身が折れにくくなるだけの代物ですがね、これでもかなりの価値にがあるんですぜ」


 「お前が使うのか?」


 「いえ、アッシには雷の魔法剣がありやすから」


 「雷の方がその3本より上という事か?」


 「いえ、相性の問題でさぁ。アッシは早さ重視ですからね。掠めるだけでも相手の動きを鈍らせる事が出来る雷の魔法剣とは相性が良いんでさぁ。まぁ一番の理由は使い慣れているからでやすがね」


 「なるほどな、では今回手に入れた魔法剣は3本は私兵どもにでも持たせるか」


 「売らないんで?」


 「金はな、使うために稼ぐものだ。溜める為に稼いでどうする」


 「御尤も」


 「………ところで旦那、私兵に渡す前に風の魔法剣を貸して頂けやすか?」


 「ん?今か?」


 「へい」


 「……ほら、こんな所で魔法剣なんぞどうするのだ?」


 不断ならローパーは自分を殺傷しうる武器を、2人きりの時に貸与したりなどしない。だが用心棒に対してそれをしたのは、別に信頼関係からくるものではない。彼ならば素手でも自分を殺すなど簡単だと知っているからだ。

 後は金が繋ぎとめているとも。

 もし彼が自分を裏切り自分を殺すなら、自分は所詮そこまでだとも考えている。そうならない程の額を彼に渡しているとも。


 「アッシは雷の魔法剣を好みますが、魔法剣はそれぞれ得意としている事が異なりやす。例えば火の魔法剣ならば焼き切るのに特化しているので、植物系モンスター相手には絶大な効果を発揮する、とかでやすね。さて、風の魔法剣はどんな事を得意としていると思いやすか?」


 用心棒はそう言ってくるりとローパーに背を向けて、腰を深く落として風の魔法剣を上段に構えた。


 「……風の刃を放つことで遠距離の敵にも斬撃を浴びせられる事だな」


 「正解!!」


 用心棒は声に合わせて魔法剣を振り下ろした。

 そうして斬撃は風の刃となって放たれ、部屋の入り口の戸を吹き飛ばす結果となった。


 「……随分と手荒い歓迎だねローパー男爵」


 壊れた戸の向こうには有名人が立っていた。

 最近話題の人物である第3王子その人だ。

 風の魔法剣の飛ぶ斬撃を諸に食らった筈の彼には傷の一つも確認出来ない。一体どんなトリックを使ったのかと訝しむ用心棒の後ろではローパーがその人物の登場にただ驚いていた。また、ローパーが気になったの第3王子の登場だけでは無かった。

 以前演説で聞いた第3王子の声と、先ほど自分に話しかけて来た声がまるで違っていた事だ。つまり、あの男が前に見た第3王子とは別人か、そうでなければこの場にもう1人存在する事になる。

 ローパーがそう考えながら第3王子らしき男を警戒しながら睨みつけていると、その横からひょっこりと青年が顔をだした。


 「やぁ、初めましてかな?私はこの国の第5王子だ。いきなり攻撃されるとは驚いたよ」


 確かに、ローパーにはその青年をどこかで見たことがあるようにも思えるし、第3王子とそっくりな顔立ちな男も隣にたっている。そして偽証するだけで死罪もあり得る王家の紋章を掲げている2人が偽者である可能性は限りなく低いだろう。


 「……これは大変失礼いたしました。まさか王族ともあろうものが、人の家に無断で押し入るような方々だとはつゆ知らず」


 「おや?という事はここはローパー男爵の持ち家かな?」


 「………ええ、そうですね。まさか知らずに、それも無断で侵入なされたのですかな?」


 「まぁね。僕たちは強盗殺人犯を追ってここまで来ただけだからね、それがまさかローパー男爵だとは思いもしなかったよ」


 「強盗殺人?まさか、どこぞの馬の骨と勘違いなされているのでしょう」


 「そうかい?では一応聞くが、そこの彼が持っている風の魔法剣は何処で手に入れた物か、尋ねても良いかい?」


 「これは先日、冒険者がダンジョンから持ち帰った物を買い取ったものです」


 「そう?ちなみに、被害にあった魔法剣は全て柄に撒いている布の下に”4649”と刻んでいるのだけれど、確認させてもらっても?」


 「ええ、もちろんです。おい、殿下方に魔法剣をお見せしろ」


 「へい」


 用心棒の男は素直に魔法剣を第5王子に手渡す。第5王子はそれを受け取るとしゅるしゅると柄に撒かれた布を解いてゆく。


 「おや、どういうことかな?”4649”と刻まれているね」


 「なんと?!ではその強盗殺人犯とやらは私がその魔法剣を買った冒険者である可能性が高いですな。ただ申し訳ない。その男がどこの誰なのかは私も把握していないのです」


 「そうか、それは残念だね。ところで、同じく被害にあった遠距離攻撃用の珍しい魔道具があるのだけれど、そちらは知らないかな?」


 「……さて、どうだったでしょうな。覚えはありませんな」


 「その魔道具はね、魔力を登録した者にしか使えないそうだよ?また、魔石を内蔵していて暫くは魔力も無しに、起動し続けて、もう一つの効果を発揮し続けるらしいんだ」


 「ほう?そのもう1つの機能とは?」


 「録音。つまり、君らの今までの会話は全て録音させて貰っていると言う事だよ。魔法剣も合わせてアーバン=ネフィスの優秀な1番……いや、2番弟子かな?ああ、彼女は先生だからやっぱり1番弟子か。その1番弟子の男に頼んで作って貰ったんだ。もちろんきちんと代金は払ったよ」


 「なるほど、どおりで貧乏人共が魔道具を揃えられたはずだ」


 「ちなみに少し前にケーシー侯爵家にも家宅捜索が入ってね、君と交わした証文、その本物もばっちりと抑えさせてもらったよ」


 「……なるほど、ヌゼが持っていてのは偽物だったわけだ」

 

 「その他にも諸々と証拠を押さえている。さて、大人しく投降するかい?どんな選択肢を選んでも碌な最後は待っていないだろうけどね」


 「……質問よろしいですかな?」


 「何かな?」


 「なぜ王族がたった2人でおいでになったのですかな?見たところ護衛の姿が見受けられない様ですが?」


 「必要ないから、かな?」


 「……殺れ」


 「正気ですかい?相手は王族、例えこの場でこの2人を殺してもどうせアッシどもは終いですぜ?」


 「では大人しく捕まるのか?捕まればどんな未来が待っているのか、想像出来るぐらいの道は歩んで来ただろう?私もお前も」


 「……そうでやすね」


 「どんな理由があるかは知らんが、ノコノコ2人でやってきた己の間抜けさを呪うんだな」


 「今この国で最も間抜けなのは、アーバン先輩を敵に回す行為をっている輩だとおもうけどね」


 「ほざけ」


 用心棒の男は雷の魔法剣を構えて、再び腰を落とした。


 「まぁ、そうなるようね。それじゃあ兄上、出番ですよ」


 「やっとか、最初から制圧すれば良いものを、お前は無駄な事を好むな」


 「まぁまぁ、良いじゃありませんか。それよりほら、早く片付けちゃって下さい。兄上がアーバン先輩のお役に立ちたいとおっしゃっるから態々機会を設けたんですよ?」


 「それもそうだな――――装・着!!」


 第3王子がベルトに手を当て魔力を流しながらそう叫ぶと、彼は光に包まれて、やがてその光が収まるとそこにはヨルレア・フェーレを彷彿とさせる鎧が姿を現した。


 [システムの、リンクを、確認しました。これより、サポートを、開始します]


 「ああ、宜しく頼むぞエボ」


 [了解]


 「……いやいや、どう考えたって必要無いでしょう?エボのサポートどころか、そもそも装着型ゴーレムが」


 「何を言う。私はワーゲル殿のような剣術の腕があるわけでも、ガステア殿の様に巧みにゴーレムが扱えるわけでは無いのだ。最初から全力で事にあたるべきだろう?」


 「……微妙な戦果が続いた上に、周りが化け物だらけで、自己評価が変な事になっているようですが、今の兄上ならば生身の状態でもお一人で騎士団を壊滅できるほどの力があると思いますよ」


 「はっはっは!お前も案外冗談を言うのだな。もし私にそんな事が出来るのであれば、ガステア殿はゴーレムに乗っていれば1人で世界が征服出来てしまうな!」


 「……ええ、そうですね。ただしネフィス家が敵に回らなければ、という条件付きでですけどね」


 「……本気か?確かにガステア殿は凄いと思うが、まさかそこまでは――――」


 「変な鎧を着て、いつまでグダグダおしゃべりしてるんですかねぇ。来ねぇならこっちからいきやすぜ!」


 用心棒の男は地面を蹴り、一気に第3王子との距離を詰め、目にも留まらぬスピードで魔法剣を振り抜いた。

 そう、常人の目には留まらぬスピードで。


 「なんだ?そんなにゆっくりと歩み寄って?まあ良い、折角だからこのスタンロッドとやらの性能をお前で試させてもらおう。確か敵に押し当ててから魔力を流すのだったな―――せい!」


 パァン!!


 第3王子が装着したパワードスーツゴーレムが、用心棒の胸にスタンロッドを押し当てると、魔力を流すよりも前に、用心棒の上半身は弾け飛んでしまった。


 「「……へ?」」


 第3王子とローパーの声が重なる。


 「まぁそうなるか」


 第5王子だけは当然とばかりに、動揺は無いようだ。


 「な、何がどうなっているのだ?このスタンロッドなる武器は相手を無力化する為の武器では無かったのか?い、いや無力化はしたが――え?無力化とは?そ、そもそも私はまだ魔力を流していないのだが?」


 [対象が、武装との、衝突の衝撃に、耐えれなかったのが、四散した原因と、考えられます]


 「そ、それはつまり、ただ殴ったらから、その威力で体が飛び散ったという事か?」


 [肯定します]


 「「ええ~………」」


 再び第3王子とローパーの声が重なる。


 「兄さん、暫くは手加減の練習をしましょうか。それと、確かワーゲルの話だとアーバン先輩は装着型ゴーレムを足枷の様に感じているようだったと報告を受けているから、もしかしたら今の兄さんも装着型ゴーレムを着て戦うより生身の方が強いかも知れません。その辺は今度アーバン先輩に相談しましょう。ああ、そうだ、殺しちゃったことは気にする事は無いですよ。中途半端が嫌いで王族使いの荒い婚約者様から追加で実験用の虹の薬を沢山預かっていますから。ローパー男爵も、お前たちが殺したと思っている者たちは全員生きている、罪が本の少しだけ軽くなってよかったね。さて、というわけなんだけどローパー男爵、死体となって運ばれるのと大人しく連行されるの、どっちが好みかな?」


 「……と、投降する」


 「おや?そうかい。それじゃあ兄上、睡眠魔法銃の方を試しておいてもらえますか?そちらなら身体能力は関係無いはずですから」


 「あ、ああ。分かった」


 「……結局意識は奪われるのか」


 「当然でしょ?」


 ぱしゅりと放たれた魔法銃は、簡単にローパーの意識を刈り取り、ローパーはどさりとその場に崩れ落ちた。


 「さて、帰りましょうか兄上。死体とローパー男爵は外で待機させている部下に運ばせましょう」


 「そ、そうだな」


 [状況、クリア、サポートを、終了します]


 「私にはエボが兄上のサポートをしていたようには見えなかったけど?」


 [……………]


 「冗談だよ」


 [……第5王子は、冗談のセンスが、皆無、記録しました]


 「ええ?酷いなぁ。はは」


 上半身がバラバラに吹き飛んだ男の遺体がある凄惨な現場では、そんな穏やかなやり取りが行われたのだった。

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