閑話 ゴーレムンジャーと【西のダンジョン】の踏破(2)

【ウルド】


 驚いた。


 自分たちが強くなったと自覚はしたが、まさか生身で20階層まで苦も無く来れるとは。

 が、流石に生身での探索は此処までだな。


 「もう上昇した身体能力の確認は十分だろう。明日からは普通に装着型ゴーレムでの探索に戻ろう」


 「そうね、アーバン様は別に気になさらないだろうけど、探索が遅れるのは頂けないわ」


 一度脱出の魔道具で離脱し、宿に戻る。

 これも今更だが、深層を探索しているのに毎回ダンジョンを出て宿に宿泊するなんて、普通に考えられないよなぁ。


 宿の1階の食堂で夕食をとっている間、ひっきりなしに声を掛けられる。


 「ファ、ファンです。サイン下さい!」


 「サイン?そんなもんねぇよ」


 「あ、握手してください」


 「食事中だ。勘弁してくれ」


 「一杯奢らせてくれよ」


 「奴隷に酒を勧めんじゃねぇよ(寮の個室に設置された魔道具にいつの間にか用意されてたけどな)」


 つ、疲れる。


 「なぁイブ。やっぱり個室で食事が取れる高い宿に変えねぇか?」


 「前にも言ったでしょ?私たちのお金はアーバン様の物よ。無駄使いしない」


 「せめてアーバン様に宿を変えて良いか聞くぐらいなら良いだろ?これじゃおちおち落ち着いて食事もとれねぇ。それに……」


 俺はちらりとエファンの方を見やる。


 「ねぇ~エファンくぅん。お姉さんたちと良い事して遊ばないぁい?」


 「お姉さんたちエファン君と仲良くなりたいなぁ~」


 胸元を大きく開いた服を着た化粧の濃過ぎる女が2人、体をくねらせながらエファンに絡んでいる。


 「僕ねぇ、お仕事中だから遊んじゃダメなんだぁ。ごめんねおばちゃんたち」


 「お、おば?!」


 「それとおばちゃんたち何か変な臭いがしてくさいよ?」


 「く、くさ?!」


 「エファンの教育にも良くないだろ?ここは」


 「……それを言われると痛いわね。わかったわ、今回の探索中は無理だけれど、帰ったら私からアーバン様にご相談してみる」


 「おう、たのむわ」


 出来れば飯が美味い宿だと尚有難い。

 【試しの遺跡】産の肉を食いまくってた所為か、舌が肥えちまったようだ。

 昔は美味いと思ってたここの飯も、今じゃ硬いし臭いしで不味く感じちまう。


 「こ、このガキ!!ちょっとお貴族様に目を掛けられてるからって調子に乗って!!奴隷の分際で!!」


 「ちょ、ちょっと、手をあげるのはマズイって!下手したらお貴族様の奴隷を傷つけたって理由でこっちまで奴隷落ちよ」


 「くそ!アンタなんてダンジョンでくたばっちまえ!クソガキが!」


 「もう行こう。所詮ガキに大人の魅力なんて分からないのよ」


 女たちは怒りながらこの場から去って行った。


 「やっと消えたか。イブ、物騒だからテーブルの下で作っているその魔法で生み出した風の玉を直ぐに消してくれ。今のイブの魔法を一般人に何か使ってみろ、一瞬でひき肉になっちまうぞ」


 「失礼ね。今日のダンジョン探索でちゃんと加減を覚えたわ。吹っ飛ばす程度に威力を抑えてあるわよ」


 テーブルの下から魔法の気配が消えたのを確認出来た。


 「エファン、あの匂いは香水って言って、あのおばさんたちはアレが良い匂いだと思って態と付けているのよ?」


 「ええ~?アレが良い匂いなの?凄くくさかったよ?」


 「そうね、くさかったわね。でも好みなんて人それぞれなんだからそれを否定するのは、私は良くない事だと思うな」


 「う~ん?」


 「例えばエファンだって自分が格好良いと思ってる装着型ゴーレムが人からダサい、格好悪いって言われたら嫌な気持ちになるでしょ?」


 「……うん」


 「それと同じよ。分かった?」


 「うん、僕さっきのおばちゃんたちに酷い事言っちゃったんだね。謝って来る」


 「ふふ、良い子ね。でも今回はその必要は無いわ」


 「なんで?」


 「そもそも食事処に臭いのきつい香水をしてくるのはマナー違反だからよ。エファンにはあの香水、くさく感じたでしょ?」


 「うん」


 「くさい臭いを嗅ぎながらだとお食事も美味しく無くなるもの。だから食事を楽しむ場所にはあまり匂いのキツイ香水を付けて行っては駄目なの。その約束事を守らなかったあのおばさんたちも悪いの、だから今回は謝る必要なんてないわ」


 「そっか、わかった!」

 

 「……やっぱお母さんだろ。」


 「お姉さんよ。ところでさっきのおばさんたち、前にウルドにも言い寄ってきてなかった?」


 「あん?……覚えてねぇなぁ」


 「あらあら、女なら誰でも良いウルドさんも、くさいおばさんたちは眼中に無いってわけね」


 「もしかしてアタイ達もくさい?」


 アノーレが服の胸元を引っ張ってクンクンと臭いを嗅ぐ仕草をする。


 「……そのネタ、まだ引きずるのかよ」


 「ふふ」


 「ごめんごめん、ちょっとしつこかったよね」


 「まったくだ。さっさと食事を済ませて部屋に戻ろうぜ」

 



 宿で一夜を明かし、早朝、直ぐに宿を出て【西のダンジョン】へと向かった。


 今回は入って直ぐに今までの最高到達階層に設置していたわーぷポイントに移動する。

 それと豹型のカボも次元収納から取り出す。

 ちなみにカボは【試しの遺跡】にもいて、そちらはコピーでコチラがオリジナルなのだとか。


 [……予定ヨリ1日、次元収納カラ出シテ頂ク日ガ遅レテイマス。理由ノ説明ヲ求メマス]


 「あら、いじけさせてしまったかしら?」


 [……説明ヲ求メマス]


 罠の探知やマッピングなど大変重宝するカボだが、ここまで人間っぽくする必要があったのだろうか。

 やはりアーバン様の考える事は俺には理解出来んな。

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