閑話 カドゥレーン

 カドゥレーンという国には、国民たちから神のように崇められている1人の男がいる。といっても彼が人前に出る事はなく、彼の存在を疑う存在も少なくはない。

 彼と会話を出来るのは各機関の長を務める6人をはじめとする極僅かな者だけだ。


 「キージェンイェン様にご報告申し上げます。強化ジャガーノートが討伐されました」


 真っ白な部屋で、黒い服に身を包んだ初老の男が地面に片膝をつき頭を下げながら、白い衝立に向かって話しかける。彼の横にはそれぞれ青、赤、緑、紫、橙の服を着た者達が同じ様に膝をつき頭を下げている。真っ白な空間にあって、それらは馴染まず溶け込まず、まるでぽつりぽつりとついた染みのようだ。


 「…………例の巨大な騎士の仕業か?それとも報告にあった3体目か?」


 「そのどちらでもありません。王国は新たな化け物を投入して参りました。その大きさは強化ジャガーノートをゆうに上回っていたそうです」


 「…………強化ジャガーノートすら上回る力か……ジャガーノート強化用の魔道具の量産は可能か?」


 黒い服の男は黙り、代わりに青い服の男が返答する。


 「魔道具自体は核さえあれば可能で御座いますが、ジャガーノートに核を取り付ける作業が問題で御座います。また、ゴブリンと違い制御が難しく、仮に取り付けが上手くいっても、その後、ジャガーノートが成長しすぎる前に上手く王国に向かわせるにはかなりの数の兵が必要です」


 青い服の男の返事を引き継いで、赤い服の男が話し始める。


 「前回のジャガーノートの時は200名の兵士を動員し、37名が負傷、2名が殉職致しました」


 「…………ゴブリンの時のようにオーヘイムにやらせるのは?」


 今度は緑の服の男の出番のようだ。


 「オーヘイム帝国では通常のジャガーノートを捕らえる事すら難しいように思います。例え我が国でジャガーノートを捕らえ、魔物の門に封印して送り届けた所で、オーヘイム帝国ではジャガーノートに魔道具を埋め込めるかどうか、仮に埋め込めてもそれをアーキセル王国に向かわせるのは難しいでしょう。また、あまりに過度な力を得れば、分不相応の欲にかられるやも知れません。帝国にはその前科がございますし」


 「…………今のところ手詰まりか」


 最後は自分の出番と、紫の服の男が喋り始める。他の者たちに比べると彼はまだ若い。


 「キージェンイェン様、無理にアーキセル王国を攻め落とす必要があるのでしょうか?仮にあの国の領土を手に入れても、今の我が国にはあまりメリットが無いように思います。ここ数百年は色々な魔道具が出回り、食料も安定して生産供給出来ており、疫病などの蔓延も防ぐ事が出来ております。今は他国を攻めることなどよりカドゥレーンをより発展させる事に力を注ぐべきだと考えます」


 …………


 その場が静まり返った。

 紫の服を着た男はその理由が分からない。


 ただ、他の男たちは信じられない物を見るような目で紫の服の男を見ていた。


 「…………盟約は忘れ去られたか………」


 「も、申し訳ございません!!」


 黒い服の男が咄嗟に地面に額を付けて叫ぶ。


 「前任者が急逝であったために後任の者への引継ぎが不十分だったようで御座います!!この者は直ぐに処分し、新しい者へと引き継がせます!どうぞ、どうぞ平にご容赦を!!」


 「しょ、処分?!な、何を言っている!私は貴方とは同じ立場な筈だ!勝手に私の処遇を決めないで頂きたい!」


 「黙れ!!ここにいる全員の総意だ!あいつめ……いくら急死だったとは言え、後任になるであろう者に最低限の教育も出来ておらんとは」


 「私は間違った事など言っていない!この国の事を思うなら当然の発言では無いか!それが理解出来ない貴方の方が余程教育が足りていない!!」


 その時、赤い服を着た男が、ガシっと紫の服の男の頭を握り、思い切り地面に打ち付けた。


 「ぐげぃ!!」


 「この国の事を思うなら、もう黙れ。俺の口からも言うが、お前の処分は此処にいる全員の総意だ。お前の意志、意見は関係ない」


 「な、何を―――」


 ガタリと、衝立の向こうから音が聞こえた。


 「…………久しぶりに友たちに顔を出してくる。その後に。私が戻ってくるまでに選んでおいてくれ、盟約の破棄か、継続か」


 「考える時間など必要御座いません!我々が盟約を破るなど、あり得ません!!」


 「…………では行ってくる」


 「ご武運を」


 衝立の向こうにある気配は、次第に男たちから遠のき、そして消えていった。

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