閑話 第3王子の特訓の日々

剣術の訓練


 「ぐっ!!」


 「これは酷いですな。これならまだ幼少の頃の貴方の方が強かったですぞ殿下」


 私に剣術の稽古をつけてくれるのは昔と同じ、元第1騎士団団長のワーゲル=ハーケン公爵。かつては王国最強の騎士の名を欲しいままにしていた男だ。

 まさか70近い年齢で再び私の指南役を買って出てくれるとは思ってもなかった。

 そして、その70近い人物に手も足も出せずに転がされるとも。


 「良いですか殿下?闇雲に剣を振るだけではだめです。先ずは型に忠実にある事を心がけるのです。剣の型は長い年月をかけて最も効率よく剣を振るために生み出されたもの。基本にして奥義です。なぁに、幼少の頃あれだけ叩き込んだのです。体で覚えた事は体が覚えているもの。後は錆びついてしまった引き出しをこじ開けるだけ。それには模擬戦が一番ですぞ。ささ、もう一勝負とまいりましょうか殿下」


 歳の割に元気過ぎる。


 でもそうだな。長年まともに動けなかった所為か人並みにである事に満足しそうになってしまっていた。ヨルレア・フェーレを操るにふさわしい人間になるためにはそれではだめだ。


 「ああ、もう1本だ!」


 「おお!その意気ですぞ!」





基礎体力づくり


 中庭を何周もぐるぐると走らされたあと、湯あみをし、部屋に戻った私の元に昼食が運ばれてきた。


 「殿下の体力作りの為に用意した特別メニューです」


 出されたのは肉、肉、肉。見ているだけで胃もたれしそうだ。本当にコレを食べたら体力がつくのか?ただの迷信じゃないだろうか?

 いや、迷信でもなんでも私は試すぞ!少しでも強い男にならねば。


 ベルトのお陰で何重もの毒見を介さずに温かい状態の料理を食べられるのがせめてもの救いか。






ゴーレムの操作訓練。


 今日は肉体作りは休みだ。


 今日の昼食は野菜を中心にした普通のメニューだった。肉は体を動かした後に取るのが良いんだそうだ。これも迷信の一種だろうか?


 午前に書類仕事を済ませ、昼食を取りゴーレムの操作の特訓の為に訓練場に向かう。


 訓練場に着くと、そこには第5王子が用意してくれたゴーレムの指南役と言う男が既に待っていた。どこぞの侯爵家から見つけた逸材なのだそうだ。


 「ガ、ガステア=ベクターと申します。よ、宜しくお願い申し上げます」


 「ああ。よろしく頼む。そう緊張しないでくれ。今日は貴殿は私の指南役なのだから」


 「せ、精一杯努めさせて頂きます」


 大丈夫だろうか?

 オドオドしていて自分に自信が無い事が前面に出てしまっている。貴族として良くない態度だ。貴族は常に自分に自信を持ち胸を張れと、俺が親なら叱っているかもしれない。胃が痛いのか鳩尾辺りを抑えているのもマイナス点だ。

 まぁ、第5王子の紹介なら問題無いだろう。あの子は人を見る目があるからな。


 訓練の準備の為に私はアーバンが用意してくれた装着型ゴーレムを着込む。

 

 対するガステアはゴーレムは装着せずに外から操作するらしい。本来のゴーレムの戦い方だ。模擬戦なら操縦者が狙われる事も無いしな。

 一瞬自分もそうすべきかと思ったが、少しでもヨルレア・フェーレに近い方が良いだろうと、やはり装着した状態で訓練を行う事にした。

 装着型ゴーレムは2メートル半程度の大きさで、小型ヨルレア・フェーレのような形をしている。色はくすんだ金色で、初めにこれに水の魔力を流すらしい。さっそく水の魔力を流すとゴーレムは黒く変色した。この状態だと装甲面などは脆くなるが消費魔力が極端に抑えられるらしい。模擬戦の時は黒で戦うと良いだろうと説明書に書いてあった。また緊急時には火の魔力を流し装甲を赤くすることで実戦でも使えるらしい。その時には武器を模擬戦用のものから実戦用の物に持ち替える必要があるらしい。


 装備はお互い同じ。右手に剣、左手に盾。背部にはすらすたー。換装用の武器として、腰に風の魔法銃がセットされている。

 ヨルレア・フェーレの装備に魔法銃は無いのだが?とアーバンに尋ねると、一瞬キョトンとした顔をした後、後日製作しお届けしますと言っていた。


 「そ、それでは、始めたいと思います。ご準備はよろしいですか?」


 「ああ、いつでもイケる。始めよう」


 「では、得点版をセットさせて頂きます。大きな音が鳴ったら模擬戦開始です。先に200ポイント先取した方が勝ちとなります」


 「分かった」


 私は剣を構え腰を落とす。対するガステアは剣は右手の盾の内側に納め、代わりに魔法銃を手に持っている。

 訓練場はそこまで広くない。遠距離攻撃の魔法銃より剣の方が有利に戦えそうなものだが……お手並み拝見だ。


 ビーーーーーーという試合開始の音が訓練場に響いた。


 ガステアは動かない。

 遠距離武器を選んだ上に私に初手を譲るつもりか?


 私は確かに素人で、相手は第5王子が推薦してくるほどの男だ。舐められても仕方ないのかもしれないが―――


 (少し……不快だな)


 私は背中のすらすたーを使い一気にガステアの操るゴーレムとの距離を詰める。

 剣を勢いよく振り下ろすとガステアのゴーレムはそれを横に躱し、私のゴーレムの蟀谷こめかみ部分に魔法銃を突きつけゼロ距離でそれを連射した。


 ガステアに一気に30ポイントが加算される。


 ……問題はポイントではない。これが模擬戦仕様の魔法銃で無ければ既に私は死んでいたかもしれない。魔法銃の威力とゴーレムの装甲の強度にもよるだろうが。


 舐めていたのは私の方だったようだ。


 私は直ぐに剣を横薙ぎに払いガステアのゴーレムの腹部を狙うが、ゴーレムは少しだけ後方に下がる事で最小限の動きでそれをギリギリ躱すと、その態勢のまま魔法銃を連射する。


 多少のダメージ(ポイント)は覚悟して、魔法銃の弾丸を浴びながら剣を振る。


 ガステアのゴーレムは私の剣が届く前に私の脇腹部を蹴り飛ばした。私は後方に吹っ飛ぶ。


 「ぐぅ!」


 私が体勢を立て直すと、ガステアのゴーレムは少し後ろに背中を反った。何をするのかと思うと、その姿勢のまますらすたーを使った。ゴーレムは角度を付けて凄い勢いで天井へ突っ込んでいく。

 

 (何をするつもりだ?)


 不思議に思っているとゴーレムは空中ですらすたーを切り、そこでくるりと回転。コチラを向くとその姿勢で魔法銃を一発放ってきた。

 私はソレをなんとか躱す。


 足から天井に着いたガステアのゴーレムは天井を蹴って側面の壁に向かう。天井を蹴る瞬間に一瞬だけすらすたーを噴かせて。

 また空中でくるりと回転、壁を蹴って別の場所に移動。それを繰り返す。

 まるで部屋の中を高速で跳ね回るボールのような軌道だ。時折コチラに魔法銃を放ってくるのも忘れない。


 あれは、本当に私が操作しているゴーレムと同じ性能なのだろうか?

 あんな動きが私にも出来るようになるのか?自分があそこまでゴーレムを自由に動かす姿を想像することすら出来ない。


 剣ではとても対応出来ないので私も剣を盾に納め、腰の魔法銃を装備する。

 銃口を向けるが、相手の動きがあまりにも早すぎて狙いがまるで定まらない。


 跳ね回るゴーレムを銃口で追っていると、視界の端にガステアが映った。

 先ほどまでオドオドしていた男とは思えないほど自信に溢れている。


 そうこうしているとポイントはいつの間にか180ー0になってしまっていた。


 最後に空中から一気に距離を詰めたガステアのゴーレムが空中で魔法銃を捨て、盾から剣を抜いて、私のゴーレムの腹部を薙いで模擬戦は終了した。


 あまりにも強すぎる。手も足も出ないなんてものじゃない。


 「ガステア。貴殿が強いのは十分に分かったが、あそこまで一方的では訓練にならないと思うのだが?」


 「す、すみません。初日は模擬戦で私の全力を第3王子に見せつけろと、第5王子に言われておりまして」


 なるほど……

 確かに、彼のオドオドした態度は多くの相手に舐められる事になるだろう。

 現に私も最初は舐めて掛かってしまった。

 そうなる事が第5王子には分かっていたのだろう。

 馬鹿にしている相手からきちんと学ぼうとする人間はいないからな。


 それにしてもガステアの操作技術は凄まじいの一言だった。

 もし彼がヨルレア・フェーレに乗ればどれ程の戦果をあげれるのか。


 おっと、イケない。ヨルレア・フェーレのメイン操縦者は私なのだ。

 しっかりしなければ。

 いつか絶対に彼のように自在にゴーレムを操れるようになって見せる。

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