第一章 ロックウェラ事件
第1章 ロックウェラ事件 第1話
炭鉱の街ロックウェラ、イリス王国の王都から北東に馬を丸2日程走らせると『ゴッズジャッジメント』と呼ばれる巨大な地割れが有った。
幅は数十メートルから2キロ程とバラバラだが全長は東西に10キロを越える巨大な地割れだ、この地割れの側面より掘り進むと鉄鉱石と石炭が豊富に採れ、更には稀少である魔石も採れるために100年近い昔から鉱山の街ロックウェラとして栄えていた。
※※※
ロックウェラの街が静かに眠る時刻、地割れ側面の無数にある出入口の一つから二つの人影が何者かから逃げる様に駆け出してきた。
アスル「ローサ!足場だ左へ進んで階段で上へ!」
相棒のローサを先に行かせたアスルは今出てきた坑道の奥に向かって指先を向けて叫ぶ。
アスル「ダークバレット!」
そう叫ぶやアスルの指先から黒い弾丸が飛び出す、弾の向かった先では悲鳴と共に追手の動きが一瞬だが止まった。
ローサ「アスル早く!」
階段を上まで上がれば地上(地割れの外)なのだ。
追手の男「クソ!これでも喰らえ!」
追手の男は階段の中頃を駆け上るアスルに向かって橋の向う側から詠唱を始めた!それに気付いたアスルは男に向かって指を向けた。
アスル「やらせない!」
アスルは男に向かってダークバレットを放つと黒弾は男の膝を直撃した。
追手の男「ファイヤーバーニ…ガアッ!」
膝を砕かれた男は詠唱を中断出来ずに後ろへ倒れたまま魔法を放ってしまっていた、アスルは倒れて動きの取れない男を見てこれ以上は追ってこれないとまた階段を登り始めた。
アスル「ローサ、帳簿は?」
ローサ「無事だよ」
ケラケラと笑いながら左手に持つ帳簿を振ってみせていると次の瞬間地響きと共に大きな爆発音が鉱山に鳴り響いた。
『ドオオォォォン!』
アスルとローサが地割れの方を振り返ると大きな火柱が上り周辺の木製足場を吹き飛ばしていた、追手の男が倒れながら放った火炎魔法が火薬に引火したのだろう。
ローサ「あちゃぁぁ……」
アスル「…………」
二人は青ざめて見つめ合い街の方へと振り返ると見なかったことにして再び駆け出した。
アスル「と……兎に角一度王都へ向おう」
ローサが頷くのを確認し街に向かって振り向いたその時!二人の目前に大きな火の球が迫ってきた!
ローサ「アスル!下がって!」
ローサはアスルと火の球の間に割込むと愛剣『ローズウッド』で火の球を一刀両断にする!
アスル「ファイヤーボール?!魔術師か?!」
二人が術の発動された方向に目を凝らすと、そこには数本の松明の明かりと等しく銀色の甲冑を装備した人集りが視えた。
ローサ「……王国騎士……?」
アスル(鷹の紋章が何故?!)
二人が身構え動きを止めた一瞬だった。
騎士らしき男「小汚いこそ泥が!放て!」
号令と共に複数人の魔術師達が一斉に詠唱を開始した。
アスル「ヤバイ!逃げろ!」
二人は今来た方向(地割れ)へ駆け出した。
逃げる二人の背面に様々な系統の魔法弾が放たれ迫ってきた!
アスル「ローサ底に飛んで!」
「ドゴゴォォォ!」
火・水・土・風すべての系統が各々を干渉しあい二人の背後で大きな爆発となった。
黒煙と土煙が舞い上がり落ち着いた頃には二人の姿は無く消えたその場所にはススで汚れた一冊の帳簿だけが置き去りにされていた。
騎士の長「取り逃したか……それは私が預かる証拠品になるやもしれぬ!他の者は二人の行方を追え!」
団長らしき男の号令で隊員達は散開して二人の行方を追っていった。
※※※
イリス王国は大陸の南半分を有する大国である。
北東には長年にわたり衝突と休戦を繰り返してきたムーア帝国があり、北西には幾つかの中小国があった。
イリス王国王都イリスノリアは大陸の中央を横断するカザフ山脈の南側(大陸のほぼ中央)に有り、山脈から流れる豊富な水は河や湖となり街に繁栄をもたらしている、人口は50万人を越える世界一の大都市で文化・経済の中心都市として長年にわたり君臨してきた。
王都の中央に位置する広場の一角にアスルとローサが所属する冒険者ギルドが有った、一階にある受付には依頼を受注する者達でごった返している。
その建物の二階にあるギルドマスター執務室のドアが来客を告げる為にノックされた。
マリー(秘書)「マスター失礼します、王国第一騎士団長フロイス様がお越しになられました」
フロイス「失礼するよ」
この王国にはおよそ1000名近くの騎士が居るがその頂点に立つ騎士団長三名のうち最強を謳われる男が今回訪れた男『ロイス・フロイス』だ。
ガルバン(ギルドマスター)「これはこれは、ロイス殿の様な高貴な方がこの様な下賤な処へいかようで?」
丁寧に話してはいるが何かを含んだ言い方をする。
ロイス「今日来たのは先日のロックウェラ鉱山での事件に関してだ」
ガルバン「何故ロックウェラの事でうちに?」
ロイス「大方の察しは付いているのだろう?」
ガルバンは何とか話をはぐらかそうとする、しかしソファに座りガルバンを正面から見据えるロイスの眼光は相手に一分の隙も見せない。
ロイス「ガルバン……お互い忙しい身だ!余計な事は考えずに正直に話せ……」
ロイスは騎士団で、ガルバンは冒険者ギルドで、両名共にその道では名の知られた人物であった、しかしこの二人が王都に住みつくまで同じパーティーで冒険者をしていたと知る者は少ない。
ガルバン「……変わらんな……わかったよ………」
ガルバンは一冊の記録書をロイスに渡し説明を続けた。
ガルバン「二人は七日前に別の依頼を終えた……その後の依頼受注等の記録は無い」
ガルバン「だが二人はその後何者かと話した後ロックウェラに向かった……その事は偶然みた数名の職員と一般市民から証言を得ている」
ロイス「…………」
腕を組み目を閉じたロイスは沈黙を続ける。
ガルバン「その何者かは身元も足取りも不明だが身なりはしっかりとした人物だったらしい、事件との因果関係も不明と手詰まりだ!ギルドとしても更に調査をするつもりでは有る、だが俺は何年もあの二人を観てきたがあの二人が金にならない事をするとは思えないし俺自身はあの二人が悪党だとは思えない」
ガルバンの話を一通り聴くと目を開いたロイスは立上りドアに向かって歩き出した。
ロイス「情報と言ってもそんなところか……お前には悪いが現状では悪党の可能性しかみえないな……たがお前が言うのなら……」
ロイスはドアノブに手をかけて立ち止まった。
ロイス「……イヤ……協力感謝する……」
ロイスは一礼して退室した。
ガルバン(相変わらずだなロイス……しかしあのお転婆共……)
ロイスは子供の頃から変わらず余計な言動を嫌う、事務的なロイスに呆れたガルバンは立ち去ってゆくロイスの後ろ姿を窓から見つめるのだった。
※※※
小窓からは森の木々を抜けて陽光が射し込んできていた。
黒髪の少女はベットに横たわり丸2日眠り続けている、ベットの横には赤い髪の少女が椅子に座り看病疲れの為かウトウトと船を漕いでいた。
アスル「……………………」
気が付いた黒髪の少女アスルはゆっくりと瞼を開こうとする、しかし窓から差し込む陽光が眩しく開ききれないでいた。
自由のきかない身体に不安を感じながらもひとつずつ体の状態を確認する。
アスル(指は……腕、脚……動く……痛みもな……?!!)「痛っ!!」
上体を起こそうとすると脇腹に激痛がはしった。
その声に反応して船を漕いでいたローサが目を覚ました。
ローサ「アスル!目が覚めたのね良かった!」
目を覚ましたアスルにホッとしたのかローサの眼には涙が溢れていた。
アスル「痛いっ!」
起き上がろうとするが身体を捻ると傷口が痛んだ。
アスルの肩をローサが優しく抑え横にさせる。
ローサ「動いちゃ駄目だよ!脇腹をケガしてるから!」
ロックウェラで無数の魔法弾から逃げ延びる為にアスルとローサは地割れの底を流れる水流に身を投げた、激流に流される中でアスルは脇腹を負傷したようだった。
アスル「帳簿……ローサ帳簿と証拠品は?」
ローサ「証拠品は何とか無事だよ……でも帳簿は……」
帳簿は爆風で飛ばされたときに手から離れた様だった、他の証拠品は革袋に入れてあったので無事だったのだ。
ローサ「それよりアスルは酷い裂傷だったんだよ!小屋のお爺さんに助けてもらえたから良かったけど!」
アスルの左脇腹には10センチ程の傷があるが丁寧に縫合されていた、小屋の老人は狩人で獲物に傷を負わされた時は自らの手で縫い付ける事もしばしばあると笑って話してくれた。
老人が用意してくれた温かなスープを頂き息をついたのも束の間、二人は今後について話し合わなければならなかった。
アスル「帳簿と証拠品を奪う所迄は問題なかった」
当時の事を順序立てて整理しようと思ったのだ。
アスル「証拠品としては暗号だらけの手帳と書類、それにレア鉱石……」
ローサ「それにしても結構腕のたつ奴等が多かったね……」
ローサは頬を膨らませながら難しい顔で当時の事を思い返していた。
アスル「鉱山を後にしようとした時に王国騎士団と鉢合わせた……」
ローサ「あいつ等容赦無くぶっ放してきたよね〜」
ローサはケラケラ笑いながら他人事のように話した。
アスル(何故あの時あの場所に騎士団が……ハメられた?)
現状では全ての人が敵にしかみえないアスルだった。
※※※※※
アスルとローサは鉱山へ向かう前日依頼者の代理人に面会していた。
代理人の話ではその日鉱山で極秘の取引が行われる事が判明した、取引には以前よりマークしてきたモーリスと言う男が現れる。
モーリスは鉱山での取引内容の管理や帳簿係を務める男である。
依頼はこの取引の内容を調べる事と、マークされていたモーリスが持っているであろう裏帳簿やその他の証拠品の奪取であった。
話の内容から煩わしい依頼以外に何物でもなかったが高額な前金と成功報酬が約束された事、それにローサがやるときかなかった事で依頼を受ける事となり今回の事件へと繋がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます