第4章 血族 第20話
アスルの牙から注ぎ込まれたバンパイアの血が黒傷の全身に行き渡り身体を硬直させ見開いた眼が真っ紅に充血すると、胸に空いた風穴から紅い泡が溢れ出し傷口は貝殻が口を閉じるように徐々に塞がっていった。
黒傷「ガハッ!……俺は…」
黒傷が口から黒濁した血をイッキに吐き出すと乱れていた呼吸も整い少し落ち着いたのか眼球だけを動かし辺りを見渡す、するとヴィンスの顔が映る…自分を抱きかかえているのだろうと感じた。
次に心配そうに覗き込むアスルの小さな口からバンパイア特有の牙が突き出し紅く染まっているのが見えた…なるほどアレで俺を眷属化したのだろうと思った。
アスル「黒傷…アタシ…どうしても…」
黒傷「言わなくて良い、大方の察しはついている…まぁなんだこれからはお前の眷属として…」
アスル「眷属だけど!眷属じゃなくて良いから!アタシの命令なんてきかなくて良いしテレサって人の処に行って今度こそ幸せになりなさいよ!アンタは一回死んだ様なものだし!ペインなんか辞めて、これからは自由に生きれば良いじゃん!」
黒傷はポカンと口を開いてアスルを観ていた。
組織を難無く抜けられる訳はないしテレサとは既に死に別れている…しかし何も知らずともこの女は俺の為に一生懸命考えてくれたのだろう…
それに…それにこの女はテレサと同じ事を言ってくれた…
黒傷は『フッ…』と微苦笑するとゆっくりとアスルの前に歩み寄り膝をつく。
黒傷「テレサは既にこの世には居ない…だが折角お前が助けてくれたこの命直ぐに捨てるは勿体ない、お前の為に使わせてくれ…其れが今の俺の幸せの形だ!マイマスター…」
アスル「……えーーーっ!!」
ワンチーム「……えーーーっ!!」
黒傷はアスルの眷属として生きる事を希望した、ペインと言う生業に嫌気が差していた事も事実だったのだ。
これで未完のバンパイア王アスルはケルルこと上級魔獣ケルベロスと上級魔族とも渡り合える黒傷の二人(一人と一匹)を使役する事となる…
ヴィンス「…お前…コレじゃあスナイパーじゃなくテイマーだな…」
ラヴ「テイマーなんて可愛い呼び名は似合わないわよね…そう!猛獣使い!猛獣使いの方が似合ってるわよ!」
黒傷「おいおい!俺を獣扱いするなよ!殺っちまうぞ!」
ケルル「ガウッガウッガウウッ!(こんな弱っちぃ猿と一緒にするな!)」
ローサ「良いなあ私もペット欲しい!」
アスル「……………」
なにはともあれ魔族軍来襲の脅威は去った…破壊し尽くされた街の復興は簡単なものではない、だがナルバの街はこの者達に救われたのである。
〜〜〜〜〜
翌日になり激戦の疲れから夕刻頃まで官庁舎で泥のように眠っていたワンチームの面々はバンパイア達に起こされ揃って官庁舎の中庭へと案内された。
ベルナルド「皆さん揃われましたね!」
中庭には幾つも並べられた長テーブルにシーツを掛けられ現状で出来うる限りの豪勢な食事が用意されていた、街に残っていた人達がせめてもの御礼にと瓦礫の中から掻き集めた物資でワンチームの面々を饗したいと用意されたものだった。
ローサ「わぁ!どれも美味しそう!」
ラヴ「アンタの美味しそうはお酒に向けて…だわよね…」
ヴィンス「あまり呑みすぎるなよ」
テーブルには荒廃した街からは想像出来ないようなオードブルや各種アルコール類がバンパイア達によって並べられていた。
黒傷「しかしバンパイアの雌は綺麗どころが多いな」
アスル「アンタ、雌って!」
ステイサム「あははは…アスル様お気になさらず!我々バンパイアのみならず魔族は全般的に雄・雌と呼びます、男・女で呼び分けているのは人族位ですよ!」
昨日の戦闘で腰から下を斬り落とされたステイサムだったがオリビアの血を吸ったお陰で上下半身の再接着に成功していた、しかしまだ下半身に痺を感じる為に大人しく椅子に座らされていたのだ。
ステイサム「それにバンパイアにはサキュバス程では有りませんが人族を惑わす為に誘惑のアビリティがあります、その作用の一環で雄は人族の女に好まれる様に筋肉質でスマートな身体へと雌は男に好まれる様に美しく性を感じる風体へと成長するのです」
黒傷「成る程な、それで胸がでっけぇねぇちゃんが多い訳だ!」
場の空気が一変し戦慄が走った…しかし人とは見てはいけないと解っている物ほど見てしまう生き物なのである、場の空気を理解しているヴィンス隊の面々はそっと気付かれぬ様に横目で見てしまう…しかし何も知らない者達は…
黒傷「おや?でもマスターは混血とは言え小っせぇ…ゴフッ!!」
アスル「お前!やっぱり今すぐ逝くか!?」
一同「…………」
ヴィンス隊の面々はいつもの事だと見てないふり…被害者である黒傷は
オリビア「はしたないねぇ…オラダニアからアンタを観ていて合点がいったよ!それは自業自得と言うものだ…」
オリビアが説明を続けた。
離乳し幼児期を迎えたバンパイアの子供達は両親や周りの大人達から生きる為に人族の垂らし込みなど必要な事を教わり実践教育を受ける、その実践教育での人族からの吸血が成長期の栄養補給にも繋がるのだ(人族は雑食なので他の種族に比べて栄養豊富と言われている)。
オリビア「お前は是迄人族の生き血を吸った事が無いのであろう…成長期に栄養失調なのだ!その体も致し方あるまい!」
アスル「じゃ!じゃあ今からでも沢山栄養補給すれば!?」
オリビア「…………」
ステイサム「アスル様…バンパイアの成長期は産まれてから約20年と言われてます…其の後は不老期に入ります…其処からの過剰摂取はお肥りになるだけかも…」
アスル「ガーーーーーン!!」
ローサ(ガーーーーーンて自分で言ってる……)
ケルル「ガウっがうッがウッ(僕は今のままのお姉ちゃんが好きだよ)!」
黒傷「お!俺もちっ!!…俺もマスターはマスターのままで!!」
流石は眷属達である…慌てながらも何とかフォローするのだがその声は膝が崩れ項垂れ廃人のように落ち込んだアスルの耳には届かない…
『がんばれアスル!』
『負けるなアスル!』
この世にはそんなアスルだから良いと言う男が必ず居るはず!
その場に居る者達はナルバの街を救った英雄に幸あれと祈らずにはいられなかった。
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