たそがれ探偵事務所2。〜蜉蝣の街〜

猫野 尻尾

第1話:微妙な関係。

たそがれ探偵事務所2。〜蜉蝣の街〜(かげろうのまち)


横浜の都心から少し離れた港の倉庫街の一角に、小さな探偵事務所がある。

その探偵事務所の名を「たそがれ探偵事務所」と言った。


俺はしがない一匹狼の探偵。

一匹狼なんてもう死語だな・・・。

・・・狼って呼べるほど、カッコよくもないし・・・。


名前は「神楽 陽介しがらき ようすけ

歳は30才ジャスト・・・。


探偵って言ったって素行調査や浮気調査、離婚問題、近所の雑貨屋のばあちゃんち

の行方不明になった猫を探したり・・・スズメバチの巣を撤去したり

ちょこっとした家の修理したり、そんな何でも屋みたいな仕事ばかりしている。

探偵事務所ってのは名ばかり。


いつ事務所を畳んでも不思議じゃない。

夕日が沈んでいくように、もしかしたら明日は日が昇らないかもしれない

ってんで、いつのまにか、ダチや知り合いから、「たそがれ探偵事務所」

なんて呼ばれてるようになった。


本当の事務所の名前は俺の「神楽って」苗字から、しがらき探偵事務所

だったんだが・・・

いつのまにか、たそがれてしまったみたいだ。

今じゃ、たそがれのほうが知れ渡ってしまったから名刺も「たそがれ探偵事務所」

になってる。


俺はずっとひとりでやってきてたんだが、ひょんなことから相棒「パートナー」

ができることになったんだ。

相棒って言っても、男じゃなく、金髪ギャル・・・しかも未成年ときたもんだ。


その子の名前は「花咲 鈴蘭はなさき すずらん

俺は鈴蘭を「スズ」って呼んでる。

で、俺はスズから「ヨーちゃん」って呼ばれてる。


「ねえ、ヨーちゃん・・・暇だね」


「まあ、そんなもんだろ 、スズ・・・」

「探偵なんて仕事の依頼がなきゃプ〜太郎みたいなもんだからな」


「食べていけるの?・・・こんなんで」

「大丈夫さ・・・まあそれなりに蓄えもあるしな」

「これで食っていけなかったらショーちゃん「柏原って反社の人」が経営してる

店にでも雇ってもらうさ 」


「ダメだよ、あんなヤクザ屋さん」

「そんなことになったら、私が働く・・・」

「バーカ・・・おまえにそんなことさせられるか」


「私、髪伸ばそうかな・・・ヨーちゃんどう思う?」

「ヨーちゃんの好みってどっち、ロング?それともショート?」


「ロングでもショートでも似合ってりゃいいんじゃねえか?」


「そか・・・」

「ねえヨーちゃん・・・私のことどう思ってる?」


「なんだよ藪から棒に・・・」

「そりゃ、おまえ・・・ズズは俺のよきパートナーだし・・・そういう意味で

言えば当然、好きだよ・・・じゃなきゃ一緒に仕事してねえわな」


「それだけ?」


「他に俺が何て言えば、お嬢様はご満足なんでしょうか?・・・」


「もうふざけて・・・不満だよ・・・ちゃんと答えてないし・・・」

「私が未成年だからってことがダメなの?」


「なにがダメなんだよ」


「私が未成年だから手を出しちゃいけないって思ってるんだ・・・」


「手を出すって・・・」

「まあ・・・まだ好いた惚れたには、ちょっと早いかもな」

「だから10年後まだおまえにいい男ができてなかったら俺が貰ってやるよ 」


「そのセリフ、前にも聞いたけど・・・」

「で、私が言ったの・・・10年待ってたら、おばちゃんになっちゃうよって」


「27歳でおばちゃんってのは全国の27歳女子に対して失礼だと思うけどな」


「そんなことより、10年は長すぎだよ・・・」

「今、ヨーちゃんが私のことどう思ってるかが問題なの?」


「なにが問題なんだよ」


「私は、ヨーちゃんの気持ちが知りたいの」


「なんでだよ・・・俺は高校生みたいに校舎の裏に呼び出して「好きです」

って無理にでも告らなきゃいけないのか?」

「俺は、そんなガキみたいなことは嫌いなの、論外」

「それに・・・17歳って微妙な年齢だよな」

「見方によっちゃ、まだ子供だし、まあ見方によっちゃ女かもしれねえけど・・・」


「なに?私が中途半端だって言うの?」


「そうだな・・・」


「ふざけないで!!」


「ん〜まあ正直言ってスズは俺のタイプってのはたしかかな?」

「で、パートナーとしても今んところ不服はないし・・・」


「そやって、ちょっと人を褒めておいてずるずる答えを伸ばすつもりでしょ」


「分かった・・・俺はスズが好きだよ」


「それって友達みたいって意味で好きってこと?」


「あのな・・・俺を困らせるなよ・・・おまえをん〜してるなんて言える

わけないだろ? 」


「ん〜してるって何?」

「もう、じれったいはっきり言いなさいよ・・・」


「だから・・・分かるよな・・・な?、そういうことだよ」


「分かんない・・・」


「あ、そうだ・・・また雑貨屋の婆ちゃんちの猫、脱走したらしいぜ」

「探してくれって頼まれてんだよ」


「え?また?・・・また行方不明なの?」


「あの猫、もうボケが来てて放浪癖があるみたいだからな・・・」

「暇だし、探しに行くか 」


「もう、誤魔化して・・・」


「そうだな、これだけは言っておいてやるよ、なにがあっても俺にはおまえが

必要・・・それが俺の答えだって、スズ」


つづく。


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