第44話 世界から彼女を救えたのなら、反省文くらい書くわ

「で、できた……」


 ばたりと生徒会室の机に突っ伏す。


 感覚的には頭から湯気が出ている気分だ。


「お疲れ様。頭から湯気が出てるよ」


 未来が笑いながら言ってくる。どうやら本当に頭から湯気が出ていたみたいだ。


 俺が生徒会室で頭から湯気を出しているのには、もちろん理由がある。


 屋上の鍵を勝手に使って屋上に入った罰として、反省文を書くことになった。


 俺だけ。


 八雲に反省文を書かす訳にもいかない。


 ここは彼氏らしく、「ここは任せて先に行け」てきなことを八雲に言ったら、「そ。よろしく」だってよ。


 おいおい、さっきまでの甘い時間は幻かよ彼女様って思ったが、事情が事情だからな。甘んじて受け入れるさ。


「んー……。世津、これってなにを書いているかわかんないよ?」


「そんなわけ……」


 手渡された反省文を見てみると、字が汚すぎて読めなかった。


「てへっ☆」


「やり直し」


「ノオオオオオオ」


 生徒会長の従姉様より無慈悲な言葉をもらい、世津きゅんもう立ち上がれないかも。


「……なぁ、未来」


「未来お姉様でしょ。ここ、学校だよ」


「お前はそう呼ばれたいのか?」


「わりと」


「それじゃ、未来お姉様」


「あ、うん。世津如きが様付けで呼んでくるのムカつくからやめて」


「どうしろと?」


 あははと笑われて、未来が話を戻す。


「冗談だよ。それで? どうかした?」


「いや、シンデレラ効果なんだけどよ」


「そういえば朝っぱらから、『俺の真実の愛を見せてやる』って言ってたね。見せたの?」


「ああ」


「誰に見せたの?」


「日夏八雲」


 彼女の名前を言った後で、唐突に不安になる。

 

「なぁ未来。日夏八雲って知ってるか?」


 もしかしたら、俺だけが思い出しただけで、周りの人は思い出していないかも知らない。


 そう思うと強い不安がのしかかる。


「そりゃ知ってるよ。屋上の鍵を貸したことある女の子だからね」


 そう言われて俺は大きく息を吐いた。


「どうかした?」


「んにゃ」


 この瞬間、俺は世界から彼女を救い出したのだと実感した。


「実はさ、八雲がシンデレラ効果の影響を受けていたんだ」


「日夏さんが?」


「ああ。八雲の周りの人も、八雲の両親も、未来も俺も、八雲を忘れていた。それを未来が教えてくれた、『真実の愛』で救い出した」


「なるほど。だから世津はシンデレラ効果を調べていたのか」


「まぁな」


「それで、そのまま日夏さんと付き合ったの?」


「まぁ……」



「そっか、そっか」


「なぁ未来。シンデレラ効果ってなんなんだろうな」


「精神的な病の一種って言う人が多数だろうけど、私はやっぱり、この世の中は摩訶不思議なことで溢れている。大事なのはそれと向き合うこと」


 そう言って未来は、ニコッと微笑んでくれる。


「それに世津と日夏さんは向き合って乗り越えた」


 パチパチと拍手を送ってくれる。


「おめでとう。シンデレラ効果を乗り越えたこと。ふたりが付き合えたこと。ふたつの意味のおめでとうを送るよ」


「ありがとう」


「ま、だからって反省文なしってわけにはいかないけどね」


「ですよねー」

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