第40話 空っぽの夢

 夢、なんだと思う。


 これは俺が眠っていて、夢を見ているんだと思う。


 目の前で気になるあの美人が歌ってくれている。


 大阪梅田の歩道橋でストリートライブをしてくれている。


 その時、スカートの中からいちごパンツがこんにちはをしてくれた。


 かと思っていると、場面は海へと切り替わる。


 景色だけが変わって、波打ち際での単独ライブ。


 まるで編集が下手くそなMVみたいな光景は、やっぱり夢だと思う。


 彼女は周りの景色など気にする様子もなく歌い続けた。


 空っぽだ。


 この夢にはなにも詰まっていない。


 悲しいくらいに、なにも詰まっていない──。







 ふと目が覚める。


 寝起きは良かった。こんなにもあっさりと意識が覚醒する日なんてのも珍しい。


 寝起きだから、断片的に夢の内容が思い出せる。


「歌……」


 気になる彼女のストリートライブ。


 名前も知らない彼女の単独ライブ。


 左目から涙が流れて来た。


 しかしそれはなんだか空っぽな気がして。自分でもなんで泣いているのかなんてわからない。


「……って、今、何時よ」


 涙を拭いて時間を確認しようとする。


 こんなにも寝起きが良いなんて、もしかしたら寝坊の恐れがあるのではないだろうか。


 ドキッとしながらスマホの時計を見た。


「五時、って……。五時ってぇ……」


 どんだけ早起きなのよ、俺。スマホを握りしめて、ヘナヘナと枕に顔を埋める。


 冷静に考えれば、あの未来が寝坊を見逃すわけがない。俺が起きるまで叩き起こすはずだ。


「それにしたって五時起きなんて、早起きが過ぎるぞ、俺」


 まだ二度目ができる時間帯だ。でも、完璧に覚醒を果たしているために、二度寝をしようとする気など起きない。


「美人のいちごパンツで世津くん興奮したってか? 小学生かっ!」


 自分自身にツッコミを入れてみたりして。本当にいちごパンツで早起きなら自分自身に呆れちまうな。


「シンデレラ効果、か……」


 カフェで聞いた彼女の言葉。


 気になる美人が言った言葉が気になってスマホを操作する。


 次こそはシンデレラ効果を出汁に、彼女とお近づきになってやる。

そんな欲まみれな感情で検索エンジンに、『シンデレラ効果 歌姫』なんて打ち込んでみた。


 歌姫だなんてワードはどこから来たのか。多分、夢の内容からだろう。


 シンデレラ効果ならなんでも良いかと思いながら、掲示板のまとめサイトに入る。

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