第36話 シンデレラ効果を打ち消せるのは真実の愛だけである
出汁の効いた匂いで目が覚める。カツオ出汁の効いた味噌汁の匂いだ。
目を開けると見慣れた天井。
自室の布団で仰向けに寝ていたらしい。
酷い寝汗をかいている。夏だからと言い訳できないくらいの汗。頭から水でも被ったのかと思っちまう。
先程まで見ていた夢の内容を珍しく覚えている。
断片的だがね。
とにかく、物凄い美人と旅に出ていた。それを全て波がさらっていきやがった。
あ、なるほど。だから汗だくだってことか。
しかしまぁ、夢らしくない夢というか、妙にリアルだったというか。
だが、最後のオチが美人と結ばれるんじゃなくて、波で全部消え失せるだんてのは納得いかんな。
あんまりバッドエンドは好きじゃないんだ。ハッピーエンドで終わらせてくれよ。
だなんて、自分の夢に文句を垂れつつ、部屋を出る。
「おふぁ、よぉぉ、未来……」
大きな欠伸をしながら、キッチンで朝ごはんを作ってくれている未来へ朝の挨拶をする。
「今日は二度寝しなかったね。偉い」
「夢見が良かったというべきか、悪かったというべきか」
「どういうこと?」
「夢自体はそこまで悪くなかったけど、なぁんか汗だくでさ」
「そゆことね。シャワー浴びて来たら?」
「そうする」
眠気覚ましも兼ねて、朝シャンとシャレこむ。
シャーっとシャワーを浴びる。汗のべたつきはなくなってくれたが、頭はどこかスッキリしない。
なんだかモヤがかかっているというか。なにか悩みがあったけど、寝て忘れちまったかな。それなら大した悩みじゃねぇな。
朝シャンを終えて、制服に着替えると、居間には朝ごはんが並んであった。
「いやー、なんだか久しぶりの未来の料理な気がするなぁ」
「この前、未来お姉ちゃんの手料理を断って弾丸旅行なんかに行くから」
少しばかり膨れた未来が、可愛らしい文句を言ってくる。
「未来から電話が来た時は岡山だったからな。帰るに帰れないだろ」
「結局、島根まで行ったんでしょ?」
「あれ、俺、未来に言ったっけ?」
「正確には出雲に行くって言ってたけどね」
あ! と未来は思い出したような声を出して俺を睨む。
「お土産も、旅行の目的も聞いてない」
「ありゃま。忘れてたわ」
「むぅ。約束を守らなかった世津には、今晩ピーマン祭りが開催されるでしょう」
「ご、ごめん。それだけは勘弁してくれ」
「だったら、今、話してよね」
「話すったって大した話じゃねぇぞ」
「本当に女の子と旅行に行ってて、未来お姉ちゃんには話ずらいってか」
「いや、ひとり旅だよ」
「なんで急にひとり旅?」
「なんでって……」
なんだったかな。なにか大事な目的があったような……。いや、ないか。思い立ったから行っただけだった気がする。
「気がないひとり旅さ」
「ふぅん。シンデレラ効果のことでも調べているんだと思った」
「なんでそこでシンデレラ効果?」
「ほら、島根県の出雲大社って言えば、神様の集まる場所って言われているでしょ。シンデレラ効果のことで、神頼みに行ったのかと」
「ご利益ありそうだなー」
あれ。そういや俺って、なんでシンデレラ効果なんてオカルトじみたこと知ってたんだっけ。
ん?
なんで俺はシンデレラ効果のことを未来に聞いたんだっけか?
んん?
「ふっふっふっ」
こちらが内心で、自分自身に問いかけているところ、唐突に自慢げに笑い出す未来。
なんでドヤ顔で笑っているんだ。
「出雲大社まで行かずとも、この未来お姉ちゃんがシンデレラ効果のことを調べてあげたというのに」
「調べたの?」
「そりゃ世津が珍しくオカルト話に本気だったからね。暇だし調べてあげたよ」
「受験勉強しろよ受験生」
「ふっ。受験など恐るるに足らず」
「ナチュナル天才め」
少しでもこの従姉様の脳を俺にも分け与えてくれれば良かったのに。神様は残酷だね。
「それで、シンデレラ効果の調査の結果は?」
「慌てるな、後輩くん」
「ワトソンくんみたいなイントネーションで言ってくんな」
コホンと咳払いを一つすると調査報告をしてくれる。
「シンデレラ効果を打ち消せるのは真実の愛だけである」
ドヤドヤーっと言ってのけた後に沈黙が流れる。
「ん?」
「だーかーら。シンデレラ効果を打ち消せるのって、本当にその人のことが好きな人だけなんだって」
「へぇ。真実の愛ねぇ。それで掲示板に書かれた人を救えるってこと?」
「そういう噂があるだけで本当かどうかはわからない」
なんだか眉唾物だなぁ。そもそも、シンデレラ効果がそういう類だから仕方ないのかもしれないが。
「精神科医希望の未来としては、その見解はどう思う?」
「素敵だと思うよ。もし、本当にそれが真実なら、とてもロマンチックじゃない」
精神科医希望なのにメルヘンチックな脳内をしているな。天才の頭の中は凡人にはわからないか。
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