第17話 守る技術

「なんだこれは………」


開発部への異動日。昼頃に教会の職員5人が技術者達を迎えにきた。………が、研究室へ続く廊下で奇妙な物に遭遇した。


『みんなのラボへようこそ。わたしはあんないにんのロボくんです』

「うわ!喋った!」


見上げるほど大きなロボットはあちこちに謎の筒やらアームやらがついている。ちなみに顔はなぜかネズミである。


「案内人って。私達は技術者達を連れにきただけなんだが」


戸惑う職員達に対して、ロボは一言喋ると完全に沈黙してしまった。このまま対峙していても埒があかないと1人の職員が前に出る。すると………


ベチャッ


「は?」


透明で気づかなかったが、ロボくんと職員達の間の床に何か液体が塗られている。


「え?ちょ、これ、くっついて取れない」


液体を踏んだ足はぴったり床にくっついて離れなくなってしまった。



ラボの一室に技術者達とロウが集まっている。ロボくんに仕掛けたカメラで職員達の様子を伺っていた。


「ははははは。見事にひっかかったな。それはうちのノリさんが開発した超強力接着剤だ!空気に触れても3時間はかたまらず、物質と物質が触れた瞬間にくっつける優れものだぞ!しかも一度くっつくと専用の液体でしか剥がせない!」


アサギが人格が変わったかのような高笑いでもがく職員を見ている。隣では接着剤を開発したノリさんがマッスルポーズをしていた。


「お、接着剤は突発したみたいだな」


他の職員達は床を注意深く見て接着剤のない所を通っている。最初の職員も床にくっついた靴を脱いで後に続く。


「なら次の作戦だ」


アサギがコントローラーのボタンを押すと、ロボくんのお腹についている筒から煙が出てきた。



「煙幕か?そんなも……う、クサ……」


ロボくんから出ているのは、嗅いだこともないほど臭い煙だった。たまらず職員の1人がダッシュで引き返す。


「クソ。何なんださっきから」


ロボくんは煙を出し終わると凄い速度で後退していく。なんとか臭いに耐えた職員でそれを追いかけた。

しかし続いて、当たっても大して痛くはないがやたらと跳ねるボールを大量に投げつけられたり、地味にイライラする音を延々流されたり、空から虫が降ってくる映像の中を進まされたり。

怪我をさせられるわけではないが、徐々に精神をすり減らされる攻撃に職員達は疲弊し、ついに撤退していった。



「やった〜!」


職員の去って行く姿を見て、技術者達はハイタッチで勝利を喜んでいる。


「なんというか。まさかこんな馬鹿馬鹿しい作戦で立てこもりが成功するとは」

「馬鹿馬鹿しくなんてありませんよ。うちの技術の粋を集めた作戦です」

「君達は普段どんな研究をしてるんだい。まあ作戦が成功したのは喜ばしい事だ。次は私が頑張る番だね」


ロウがネクタイを締め直して扉へ向かう。アサギも後ろについて共に部屋を出た。



職員達の撤退から1時間後。ラボの入口でロウとアサギが待っていると、教会の幹部3人がやってきた。武器開発推進派の人間だ。後ろには銃を持った警備員のような人間を数人引き連れている。


「ロウ!お前の仕業か!どういうつもりだ!」

「おやおや、私はアドバイスしただけですよ。何やら彼等が言いたい事があるようなのでね」


ロウがアサギの肩をポンと叩く。


「僕たちは武器開発はしません!上の人間が無理矢理にでも武器を作らせようとするのなら、全力で闘います!」


一切の迷いのない、強い言葉だった。対する幹部達は技術者達の思わぬ反乱に怒りを隠そうともしない。


「技術者ごときが偉そうに!お前達孤児をここまで育てたのは誰だと思ってるんだ!教会に仇なすつもりか!」

「技術者ごときではありません。彼等はその技術を持って教会に多大な貢献をしています。そしてその技術をここまで育て上げたのは彼等の努力です」


ロウの冷たい声が響く。普段優しく話しかけられたことしかないアサギは、相手を威圧するロウの態度に少し驚いた。


「だいたい武器の提供については軍から断りの話がきているはずです。それを無視して開発を推し進めるなら、あなた達こそ教会に仇なす存在なのではないですか」


ロウの最もな意見に幹部達の堪忍袋の尾が切れた。


「話にならんわ。お前達2人を始末すれば他の奴らも黙らざるをえんだろう」


幹部の1人の指示に、警備員が銃撃体勢にはいる。


「やれやれ。これだから武力で何でも解決できると思ってる奴は」

「みなさ〜ん。お願いします」


呆れるロウの横で、アサギがラボに向かって叫んだ。

途端に地面から透明な壁が出現し、アサギ達を囲んだ。


「撃ちたければ好きなだけどうぞ。この壁は加わった力と全く同じ力で物体を跳ね返します。方向も100%同じです。ご自身の撃った銃で怪我をしたいならぜひ試してみては」


笑顔で説明するアサギに警備員達がざわつく。中には銃を下ろしてしまう者さえいた。


「おい。お前達、なにをして……」

「そちらが武力で脅しをかけるなら、こちらはそれを全て無力化します。これが人々の生活を守るために研究を続けてきた僕らの技術です」


アサギの迫力に幹部達がたじろぐ。


「くそ!そう簡単に思い通りにいくと思うなよ!」


捨て台詞を吐いて幹部達は退散していった。アサギはホッとして肩の力を抜く。


「ご苦労様。名演説だったじゃないか」

「今になって足が震えてます。でもうまくいって良かった」

「そうだね。でもまだ一つやる事が残ってる。最後の仕上げのために、彼に気合いを入れに行こうか」

「へ?」


何を言ってるのかわからないアサギに、ロウは少しイタズラっぽく笑いかけた。

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