第53話 ドラゴンの背に乗って

「オレは――――」


 なんと答えればいいのかわからず、言葉が続かない。その時だった。


『うむ! そのお力はまさにイフリート様のもの! セレスティーヌを誤魔化せても我が目を誤魔化すことなどできんぞ、イフリート様の遺志を継ぐ者よ?』

「えー……?」


 グレンプニールが後ろを振り返るようにしてオレたちを見ていた。


 それ、お前が言っちゃうの?


 オレが必死にイフリートとの約束を果たそうとした意味はなんだったんだ?


「やはりレオンハルト様は、イフリート様のご遺志を継ぐお方なのですね!」

『うむ! そうである!』


 セレスティーヌが手を合わせてキラキラした瞳でオレを見て、グレンプニールが得意げに頷いている。


 イフリート、ごめんよ。セレスティーヌに知られちゃったよ……。


 なんだかものすごく不本意だ。


「わたくしはイフリート様に、そしてレオンハルト様に守られていたのですね……」

『うむ。敵国でセレスティーヌを守り通したこと、まことあっぱれよ! セレスティーヌよ、これは褒美の一つでも渡した方がよいのではないか?』

「はい! ですが、わたくしはなにも持っていません……」

『持っているではないか。そなた自身を褒美に渡せばいい』

「えぇっ!?」

「それって……!?」


 オレとセレスティーヌは、驚いてお互いを見つめてしまった。


 そして、無性に恥ずかしくなって、どちらともなしに視線を逸らす。


『先ほどまでのセレスティーヌの態度。レオンハルトを好いておるのだろう? 人の目は誤魔化せても我が目は誤魔化せんぞ? 好いた男ならばお前に否はなかろ? それに、レオンハルトはイフリート様の力と遺志を継ぐ者だ。ルクレール王家で囲った方がよい』


 このドラゴン、なんてこと言いやがる!


 たしかに政治的な話をすればそうなるのかもしれないけど、まずセレスティーヌが本当にオレのことを好きなのかもわからないだろ! セレスティーヌの気持ちはどうするんだよ! オレはセレスティーヌの望まないことはしたくない!


「オレはセレスティーヌ様の望まぬことはしたくない!」

「ですが、レオンハルト様がわたくしのことを好きになってくれるかわからないではないですか!」

「「え?」」


 あれ?


 オレの予想では、こんなデブは嫌とか言われるかと思ったんだけど……?


 驚いてセレスティーヌを見ると、セレスティーヌも驚いた顔をしてオレを見ていた。


「「それって……」」


 またしても言葉が被る。


 でも、セレスティーヌはオレが自分を好きになってくれるかわからないって言っていた。嫌とかの拒絶の言葉ではない。もしかして、脈がある……?


 顔が熱い。意識してしまうともうダメだった。セレスティーヌの顔がまともに見れない……。


『我にはお似合いの二人に思えるのだがなぁ? それに、今回のことでよくわかった。次代を任せられる者がいると心強いとな。我には番《つがい》がおらぬので難しいが、お前たちならばそれも叶うだろう。人間はすぐに死んでしまう。バンバン子作りに励むとよい』

「「こづ……!?」」


 このドラゴン、なんて直接的なことを言うんだ!


 破廉恥ドラゴンめ!


 ぶっとばすぞ!?


 そっとセレスティーヌの様子を確認すると、セレスティーヌは顔を真っ赤にしてオレをチラッと窺うように見ていた。そして、視線が交わると急いで顔を逸らす。


 なにこのかわいい生き物。


『なにを二人して顔を赤らめておるのだ?』


 このドラゴン、自分が爆弾発言をした自覚がないのか!?


『まぁよい。それよりも、今はどこに向かうか決めてくれ。一応、これ以上ヴァッサーを刺激せんようにルクレールに向かっておるが……』

「ああ……」


 なんだか、このドラゴンに遊ばれている気さえしてきたぞ……。


 その後、さっきまであんなにくっついていたのに、オレとセレスティーヌはお互いモジモジと体を震わせるだけで、会話もなく空の旅は続いていくのだった。



 ◇



「陛下、ヴァッサー様がトカゲを追い払ったようです」

「うむ」


 朕は臣下の言葉に重々しく頷く。


 それにしてもルクレールのトカゲめ。いったい何用でこの王都に姿を現したのだ?


「陛下、ヴァッサー様とトカゲの戦闘に生徒が介入した模様です」

「生徒の名はレオンハルト・クラルヴァイン。クラルヴァイン侯爵家の長男ですが、後継ぎは次男とされている生徒です」

「生徒たちに事情を聴いたところ、このレオンハルトがトカゲを庇うようにヴァッサー様に歯向かったようでして……」

「その実力はヴァッサー様を上回っていたとの声も……」

「レオンハルトですが、銀髪の少女を奴隷として学園に連れてきていたようです」


 朕の疑問に答えるように時間を追うごとにさまざまな情報が臣下たちからもたらされた。だが、ルクレールのトカゲの意図はいまだ見えない。


 それどころか、バカげたホラ話まで聞かされる始末だ。


 聞けば、そのレオンハルトという少年は、トカゲの背に乗って姿を消したという。


 まっことバカバカしい。嘘を吐くにしてももっとまともな嘘を吐くがよい。


 しかし、嘘を吐いたものを処罰しようとしたところで、娘のアンネリーエに止められてしまった。


 なんと、アンネリーエまであのバカバカしい話が真実だと言うのだ。


 だとすると、そのレオンハルトという者、何者だ?


 これはクラルヴァイン侯爵を召喚して確認せねばなるまい。

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