第22話 買い物②

「ふむ……」


 オレは無数に並べられた指輪の中で悩む。


 かれこれ三十分は悩んでいるだろうか。


 オレがこれだけ悩む理由。それは、予想外に品揃えがいいからだ。ゲームではダンジョンでしかドロップしなかったアイテムまで店で売っているのである。きっとダンジョンに潜って指輪を手に入れた冒険者が売ったのだろう。


 さすがに最終装備候補の指輪はなかったが、それでもそこそこいい指輪なら置いてある。だから悩んでしまう。


「よし、決めた!」


 オレはMPを大きくブーストする指輪を二つと、火属性の魔法を強化する指輪を一つ手に取ると、いそいそと会計を済ませる。


 そして、なぜかソワソワした様子のセリアに三つの指輪を贈った。


「セリア、よかったら受け取ってほしい。オレの気持ちだ」

「あの、三つもあるんですけど……?」

「この銀色の指輪を両手に装備した後、こっちの赤い指輪を装備してみよう。その後はダンジョンで実験だ」

「実験……?」


 なぜか残念な様子を漂わせるセリア。だが、実験は必要だとオレは思う。


 ゲームでは指輪は左右の手で一つずつしか装備できなかった。だが、現実の今は当然だがすべての指に指輪を装備すれば十個の指輪を装備できる。その場合、ちゃんと指輪の効果が発動するのか。それともしないのか。これは疑問だ。実験して確かめる必要がある。


「オレはどうするかなー?」


 そう言って、オレは再び指輪たちとのにらめっこを始めた。深い溜息を吐くセリアには気が付かなかった。


「ありがとうございましたー! またのお越しをお待ちしております!」


 ホクホク顔の店主に見送られ、オレたちは装飾店を後にした。


 装備と聞けば武器や防具を想像しがちだが、指輪やネックレス、イヤリングなんかも大事な装備だ。むしろ、後衛である魔法使いにとってはそちらの方が恩恵が大きいまである。


「たくさん買われましたね。本当に私が貰ってしまってもよかったのでしょうか?」


 そう言うセリアの両耳にはイヤリングが揺れている。


「いいの、いいの」


 セリアには主にMPの最大値が増える装備を贈った。魔法の威力を高める装備にするか悩んだが、今のセリアはたくさん魔法を使って、魔法のマスタリーを上げた方がいいと判断した。マスタリーが上がれば、自然と魔法の威力も上がるからね。


 MPポーションがあるじゃないかって?


 たしかにMPポーションはある。けど、人はそんな大量に薬品を飲めないよ。ゲームじゃないんだ。セリアの体が心配である。


 MPポーションはいざという時だけ使う方がいいだろう。


 それに、ゲームのようにアイテムを無限に持てるわけじゃない。MPポーションは当然持つとして、お弁当も必須だろ? それに、HPポーションも必要だ。オレたちにはヒーラーがいないからね。


 実はセリアは光の魔法も使えるから回復魔法も使える。でも、隠しているみたいだからやっぱりHPポーションは必須だ。


 そう考えていくと、どんどん荷物が増えていく。


 ゲームの主人公は、あんなに大量のアイテムをどうやって持っていたんだ?


 そしてオレの装備だが、オレは主に素早さを強化する装備を選んだ。オレはもうセリアを守るために前衛として頑張るつもりだからね。目指すは回避盾ってところかな。


「じゃあ、これからダンジョンに戻――――」


 ぐ~!


 お腹が鳴ってしまった。ちょっと恥ずかしい。


 まったく、この体は燃費が悪すぎる!


「る前に腹ごしらえといこうか……。セリアも食べる?」

「では、私も軽食をいただけると嬉しいです」

「どこで食べようかな?」


 辺りを見るとここにある飲食店は飲み屋が中心のようで、今は開いてない店も多かった。


「安いよ安いよー!」

「焼き立てのライベクーヘンはいかがかねー!」

「こっちのポメスは揚げたて熱々だよー!」

「そこの旦那、まずはヴルストだ! そうだろ?」


 その代わりにあるのが多数の屋台だ。どこもいい匂いをさせている。お腹が空く匂いだ。


「今日は屋台で食べてみようか」

「かしこまりました」


 なんだかお祭りの縁日みたいで楽しいな。なんだか急に焼きそばやたこ焼き、イカ焼きが食べたくなってくる。でも、無いんだよなぁ……。


「セリアはなにを食べる?」

「では、私はライベクーヘンを」

「オレも食べようかな。一緒に並ぼうか」

「はい」


 ライベクーヘンは、ハッシュドポテトに近い屋台料理だ。日本人なら塩やケチャップでいきたいところだが、ここでは果物のジャムやソースを付けて食べる。ハッシュドポテトとパンケーキの間みたいな感じだね。


 他にもフライドポテトのようなポメスや、忘れちゃいけない国民食ヴルストなんかも買って、歩きながら食べていく。


 隣を歩くセリアがなんだか楽しそうにしていた。そんなセリアを見ていると、こっちまで楽しくなってくる。


「セリア、楽しそうだね?」

「はい。食べ歩きというのですか? したことがなかったものでとても新鮮です」


 セリアは元お姫様だもんね。食べ歩きの経験なんてないか。


 お行儀悪いかとも思ったけど、セリアにも意外と好評でよかったよ。

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