第30話 リラの経緯(ランス視点)
「本当に久々だな、ランス」
騎士団見習いで一緒だったロイは俺の肩を叩いてそう言った。見習いの頃から思ってたけれど、相変わらず豪快な感じだな。
「ロイも元気そうで何よりだよ。聖女様、ずいぶんと幼い感じだけど大丈夫なのか?」
チラ、とセシル達の方を見ると、セシルとリラが楽しそうに話をしている。リラは少し緊張気味のようだが、セシルが優しく笑顔で話しかけているようだ。きっとセシルなら問題ないだろう。
「あぁ、それなんだが……あの見た目で年齢は19なんだと」
えっ、あれで19歳?どう見ても14歳位にしか見えないけど……ベル様も見た目よりはるかに若いし、聖女というのは年齢不詳なのか?
「19ならセシルとひとつしか変わらないか。歳が近いしすぐに打ち解けられるといいのだけど」
そう言うと、ロイは軽くため息をついた。
「かなりの人見知りな上に色々とわけありみたいでな……俺も最近ようやく話ができるようになったばかりなんだ」
「……わけありって?」
確かに見るからに人見知りなことはわかる。ずっと俯いてばかりだったし、ずっとロイの後ろに隠れていた。それを見てロイには心を開いているのかと思っていたのだけれど。
「騎士団本部で聖女の本当の役目について説明された時、生贄にならずに生きていられると知ったとたんに泣き出してな。最初は生きていられることが嬉しいのかと思ったんだか、そうではなく死にたかったと泣きわめかれてしまった」
死にたかった?生贄になることを自ら望んでいたということなのか?
「教会へ迎えに行った時におかしいと思ったんだ。あまりにも劣悪な環境で育ってきたらしい」
ロイの話だと、リラがいた教会ではリラへの態度があまりにも悪かったそうだ。
『おい!騎士様が迎えにきたぞ!さっさと支度をして出ていけ!』
教会の人間はそう言ってリラを床に突き飛ばしたという。
『聖女様に対してなんてことしてるんだ!』
ロイは教会の人間にそう言ってリラへ手を貸したが、リラは首を横にふってロイの手を取らず自ら立ち上がった。
すると、教会の人間は生意気だとリラの頬を平手打ちし、リラはまた床に倒れ込んだ。
「いい加減にしろと怒鳴ったが、教会の人間は生贄になる奴の扱いに口出しをするなと言ってきてな。あれは本当に腹が立った」
たとえ聖女だろうとなんだろうと、生贄になる人間はどうせ死ぬのだからどう扱っても構わない。それがその教会の方針だそうだ。
「正直言って教会からリラを連れ出すことができて本当によかったと思っている。あんな場所にいたら、そりゃ早く死んで楽になりたいと願うだろう」
怒りがおさまらないロイの顔を見ればどれほどひどい場所だったのか予想がつく。
「生贄になって死ぬことを望んでいたのに、よく契約を結んでくれたな。どうやって説得したんだ?」
「あぁ、それはユーズ団長とベル様のおかげだよ」
泣きわめくリラに困っていると、突然ドアがノックされてベル様がやってきた。
どうやら、隣の部屋で待機していたらしい。リラがいた教会の様子を事前に情報で得ていた団長が、リラの状態を気にして念のためにベル様を本部に呼んでいたようだ。
「ベル様が部屋に入ってきた瞬間に部屋の雰囲気が和らいだのがわかった。そしてベル様はそっとリラの両手をとって大丈夫、安心するようにと微笑んだんだ。するとリラは徐々に泣きわめくのを止めていった。本当にベル様はすごいよ」
落ち着いたリラはベル様にずっとくっついたままだったが、ユーズ団長から聖女の役目について聞いた時も力分けについて聞いた時も真顔のままで表情ひとつ変えなかったそうだ。ただ、こう言った。
「ベル様、今幸せ?リラもベル様のように、誰かを笑顔に、できる?」
真っ直ぐにベル様を見てリラはそう質問し、そしてその質問にベル様は混じり気のない純粋な笑顔で答えた。
「私はとっても幸せよ。そしてあなたがそれを望むのなら、あなたにもそれができるわ」
その言葉だけでリラはロイと契約を結び、正式にロイとロイの白龍の聖女となったそうだ。
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