第38話:ダンジョン計画
エマとライアン、カインとアベルは再び決戦を覚悟した。
日暮れ一時間前に新しく定めた夜営地に戻り、迎撃の準備をした。
二十八個のカマドを造って三重のヴァンパイア除けを造った。
「今後の事を考えて、周囲の魔樹は全部切ってしまおう」
「そうですわね、これほど巨大な魔樹なら使い道も多いでしょう」
「今回の件が終わったら、新しく築く村の防壁に使おう」
「空壕も造りたいけれど、ダンジョンの地下一階にぶつかるかな?」
新しい夜営地は、亜竜を餌にするダンジョンの入り口にした。
四人は亜竜ダンジョンと名付けたが、地下一階に沸くモンスターは村のダンジョンと同じで、強大な亜竜を獲物にするダンジョンとは思えない弱いモンスターだ。
精霊たちの話を聞いていた四人は、ダンジョンが成長する生物だと実感した。
四人がレベル上げに使うようなエルダー・サブ・ドラゴンは、地下百階まで潜らないと沸かないが、中央の階段を使えば普通の人間も安全に地下百階まで行ける。
10トン級の亜竜を地下百階まで誘うための中央階段だ。
とてももなく広く高いらせん階段なので、家くらい平気で建てられる。
だから四人は、村人を亜竜ダンジョンに住まわせる気だった。
いや、沸きでるモンスターに勝てるなら、ダンジョン部分にも家を建てられる。
虫や小動物の命を狙うダンジョンの浅い階は、とても広大で支えの柱もとても少なく、草花が咲き乱れて泉まで点在しているので平原と変わらない。
つまり、ダンジョンの地面は軟らかい土と同じなのだ。
その気になれば作物、穀物を栽培できるのだ。
四人は村人をダンジョン内に完全移住させようと考えていた。
「このダンジョンなら、実力に合わせて徐々にレベルを上げられる」
「そうですわね、大魔境のように不意に強い魔獣に襲われる事はありません」
「ダンジョンの秘密を教えてもらえたから、普通なら村のダンジョンを育てようと思うのだろうけれど……」
「外から半日で来られてしまう大魔境の周縁部で、利用価値の高いダンジョンを育ててしまったら、辺境伯家や王家がダンジョンを奪いにやってくるだろうね」
四人は敵を待つ間に今後の事を話し合っていた。
四人が言っているように、村のダンジョンを育てたら奪いに来る者がいる。
「今の俺たちなら辺境伯軍でも王国軍でも勝てるだろうが……」
「そうね、できる事なら人殺しはしたくないわ」
「やらなければいけないなら人殺しも躊躇わないけど……」
「他に方法があるのなら、やりたくないよね」
「移動するのに、途中のダンジョンを活用すべきだと思うか?」
「その方が安全でしょうが、辺境伯家や王家が利用すると厄介よ」
「うん、俺もそう思う、誰かに利用されたらやっかいだ」
「俺たちが守りながら移動するなら、途中のダンジョンは利用しないでおこうよ」
「だけど、四人で赤ちゃんを含めた百人以上を完全に守りきれるのか?」
「猟犬見習たちもかなり強くなっているわよ」
「安全確実を期すなら、もう少しレベルを上げておくべきだね」
「それよりも他の人たちのレベルを上げればいいんじゃないか?」
「父さんたちのレベルを上げるのは良いけど、その間の守りはどうする?」
「それは猟犬見習たちにやらせれば問題ないでしょう?」
「う~ん、魔獣の血が混じった猟犬たちだからなぁ~」
「主人でもない、弱い人間だと襲うかもしれない」
「まあ、猟犬たちは危険な生き物だったのですか?」
「ちゃんと躾ければ絶対に人間を襲わないけれど、それは人間の方が強いからだよ」
「自分よりも弱い人間を主人とは認めてくれないからね」
「カインかアベルが一緒に村に戻ったら、大丈夫だろう?」
「それはそうだけれど、今となっては離れられないよ」
「そう、そう、完全同調を覚えたら、少し離れるのも怖いよ」
「それは、強大な敵の奇襲が怖いから?」
「だって二乗の攻撃も守りもできなくなってしまうんだぜ」
「昔の俺たちに例えたら、大魔境に裸で放り出されるようなもんだぜ」
「カインとアベルの言う通りだ、今回生き延びたとしても、油断はできない」
「そうそう、今回のプロウジェニタ・ヴァンパイアを斃して終わりじゃない」
「俺たちは悪神ロキに目をつけられているんだぜ、隙は見せられないよ」
「そうね、そうだったわね、ごめんなさい、だったら二組に分かれる?」
「そうだな、俺とエマ、カインとアベルに分かれて村人のレベル上げをしよう」
「俺たちもそれが良いと思うが、村の周囲でもレベル上げさせようぜ?」
「効率は悪いけど、少しはレベルが上げられるだろう?」
「そうだな、亜竜ダンジョンで最適なモンスターを斃すほどではないが、村の周りで魔獣を狩れれば、一つでも二つでもレベルが上げられる」
「今のカインとアベルなら蘇生魔術が使えますから、村の人が死ぬような事があっても大丈夫ですわよね」
「エマも厳しい事を言う、大人たちに死ぬほど厳しいレベル上げをさせる気か?」
「幼い子供たちを守るのが大人の務めですもの、当然ですわ」
「俺たちも当然だとは思うけれど、優しいエマがはっきりと言うとは思わなかった」「だけど、俺たちに任せると言った村長たちには少しだけ幻滅したよね」
村のために、自分たちで頑張って危険なレベル上げをする。
ヴァンパイアが村を襲撃しないように出ていく。
そんな決断をした事には後悔していない四人だった。
だが、そんな四人の決断を認めた大人たちを少しだけ幻滅していた。
厳しい大魔境での生活では仕方のない切り捨てだとは思ってはいるが、同時に、なぜ大人たちが命懸けでレベル上げをしないのかとも思っていた。
まだ成人もしていない自分たちが命懸けのレベル上げをしているのだ。
大人たちも命懸けでレベル上げをするのが、あれほど厳しく偉そうにしていた大人の責任だろう、と思っていたのだ。
「そうだな、当然の判断だとは思うけど、少しは幻滅した」
「父上様とはいえ、命を預けられる方ではありません」
「蘇生できるんだから、死ぬ前提で効率的なレベル上げをしてもいいよな?」
「俺の親父も死なせるから、村長も死なせていい?」
四人はプロウジェニタ・ヴァンパイアが現れるまで話し続けた。
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