第13話:フォレスト・ウルフ

 エマのレベルが格段に上がった事で大量の荷物を運べるようになった。

 ライアンとカインとアベルのレベルも少しだけ上がったので、その分だけ多くの荷物を運べるようになっていた。


 前回はたった一晩の大魔境夜営だった。

 だが今回は、二晩も大魔境で夜営する事になる。

 運ばなければいけない荷物も多く重くなる。


 そういう意味では、四人がレベルアップした事はとても大きかった。

 多く重くなった荷物を持っても、前回よりも楽なくらいだった。

 更にたった一度の冒険だったが、とても大きな経験となっていた。


 前回の冒険で持っていけばよかったと思ったモノを用意できた。

 狩ったアグーを持ち帰る時に有れば良かったと思った、天秤棒代わりに使える槍を四人全員が持っている。


 槍を杖代わりにも使えるように、石突の部分も工夫してある。

 敵、ロキの眷属や魔獣に不意を打たれたとしても、杖代わりに槍を持っていれば、抜剣するよりも早く槍を振るえる。


「無理をしなくても良いからな」

「俺たちが斃すから、発見と牽制をしてくれるだけで良いぞ」


「「「「「ウォン」」」」」


 貴重な経験をして格段に強くなったのは四人だけではない。

 猟犬見習たちも格段に強くなっている。


 ダンジョンでの鍛錬でも、自分たちで魔獣を狩るのではなく、ライアンに誘導したり時間稼ぎをしたりする事が大事だと仕込まれている。


 前回と同じ方向、同じ道なき道を進んでいるので、レベルアップしたのも有って、かなり早く東に進んでいた。


 これほど順調に進めるのなら、前回よりも東に行った場所で夜営すべきかと、四人で話しながら歩いていた昼前。


「「「「「ウォン、ウォン、ウォン、ウォン、ウォン」」」」」


「うぉ~ん!」


「「「「「うぉ~ん!」」」」」


 またしてもフォレスト・ウルフの群れに襲われた。

 しかも今回はとんでもない数の群れに襲われた。

 並の騎士団や冒険者クランでは全滅しかねない、九十四頭もの群だった。


「レベル上げの好機だ、エマは下がっていろ」


「任せましたわ」


「「俺たちにもレベル上げさせてくれ」」


「早い者勝ちだ!」


 遠吠えを聞いたライアンの行動は早かった。

 人並みにしか使えない槍を地に刺して、抜剣して遠吠えがした方に向かった。

 フォレスト・ウルフの群れを率いるリーダーを狩って、経験値にする気だった。


 普通は四頭から八頭で群れをつくる性質のフォレスト・ウルフが、リーダーの遠吠えに応えた数だけで三十頭を超えていたのだ。


 それだけの群れを統率できるフォレスト・ウルフは、とんでもなくレベルが高く、斃せば多くの経験値を得られるとライアンは判断したのだ。


 ライアンの考えた通りだった。

 この群れの長は、普通ならフォレスト・ウルフを飼い慣らして従わせる、リーダー・ゴブリンを喰い殺すほど強かった。


 ゴブリンの進化で言えば、リーダーやファイター級を超える強さを誇っていた。

 時に1000kg級のウシ系魔獣ガウルを狩り、同じく1000kg級のイノシシ系魔獣ダエオドンを狩って喰らう、強大なフォレスト・ウルフだった。


 あえて名付けるならファイター・フォレスト・ウルフだった。

 ライアンは多くの経験値が稼げるとよろこんでいた。

 とても成人前の少年とは思えない自信だったが、それだけの努力を重ねていた。


「運が悪かったと諦めろ!」


 ライアンはファイター・フォレスト・ウルフが直率する、親衛隊とも言える、強いホブ・フォレスト・ウルフたちを軽々と斃して咆えた。


 必要な事、正しい判断度と思い、自ら進んでエマのレベル上げを提案した。

 エマがとんでもなく強くなった事を心からよろこんでいた。

 一日でも早くアイリス様が解呪される事を願っていた。


 それに間違いはないのだが、同時に焦りも感じていた。

 常に横を歩いていたエマに置いて行かれた気がしていた。

 何としてでも追いつきたい、そう思ってしまう心もあった。


 軍神テュールの加護、身体強化されたライアンの剣は鋭く重い。

 ファイター級にまで進化したフォレスト・ウルフが張る魔力防御を、軽々と打ち破って首を斬り飛ばす。


 返す剣でファイター・フォレスト・ウルフの胸を骨ごと斬り裂き、心臓近くにある魔石を左手で取り出して自分の物とする。


 先に斃していたホブ・フォレスト・ウルフの胸も斬り裂き、並のフォレスト・ウルフよりは大きく魔力量も多い魔石を確保する。


 ライアンの狩りはそれだけでは終わらない。

 まだ斃していないフォレスト・ウルフを皆殺しにして、経験値と魔石を手に入れるまで、狂戦士バーサーカーのように戦い続けた。


「ちぇ、八頭しか斃せなかった」

「俺もたった八頭だよ」


 返り血を一滴も浴びずに、少し汗をかいただけのライアンが戻ってきたので、カインとアベルが文句を言う。


 エマを守る事を優先しなければいけないので、ライアンのようにフォレスト・ウルフを追い回せなかったのだ。


 とはいえ、ライアンが先手を打ってフォレスト・ウルフの群れに突っ込んだからこそ、九十四頭もの群に包囲飽和攻撃されなかったのだ。


「約束通り、神々の試練が終わったらカインとアベルのレベル上げに付き合う。

 まずは神々の試練を達成するのが先だ」


「ありがとう、ライアン。

 私たちだけレベルを上げてごめんさない、カイン、アベル」


「冗談だよ、四人で話し合った戦法だから文句はないよ」

「試練が終わったら美味しい魔獣をたくさん狩ろうぜ」


「それよりも、狩ったフォレスト・ウルフをどうする?」

「帰りじゃないから、金になると分かっていても持ち帰れないぜ?」

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