強硬手段
Side 堺知事 黒ヶ崎社長
事態は一時期最悪と言ってよかった。
正直海外の高飛びとかも考えたが奥の手や、自分達がブラッドスペクターと共に築き上げた表と裏のネットワークは健在だ。
だからこう言う手段に出た。
「黒ヶ崎コーポレーションは会社ぐるみでブラッドスペクターに潜入捜査をしていた」
「レッドセイバーも同じく潜入捜査をしていた」
と言うカバーストーリーをでっち上げる。
幾ら証拠を提示しても民衆は都合の良い真実、嘘を信じる生物だ。
そこに国の保証が入るのなら例え犯罪でも正義になる。
そこへダメ押しして次の手を打った。
「その捜査情報を元に、大阪日本橋に巣食う悪の手を官民一体となって、対処するつもりです」
警察や自衛隊、ヒーローなどを投入して大阪日本橋に戦力を送り込んで治安維持と言う名の占領をし、異世界の門を開く。
異世界の門を開いたのは偶然を装えばいい。
ホロスコープを抑えられたが、それは一時的な物だ。
ディフェンダーズなどと言うワケの分からない、国連の組織をブラッドスペクターとグルだったとか色々とでっち上げてから公的な手続きを踏んで取り返せばいい。破壊されたとしても作り直せばいい。
異世界利権をチラつかせれば幾らでも金は巻き上げれる。
日本政府も警察も自衛隊もここまでくれば一蓮托生にするつもりで巻き込むだけ巻き込んだ。
それに今更国連に「自分達は黙れていたんです。信じてください」などとは言えまい。
=夜・黒ヶ崎コーポレーション私室=
「正直強引かつ無理矢理な手口ですが、国民は黙って従うしかないでしょう。所詮、ネットで愚痴を漏らすか、お行儀のよいデモしか出来ませんからね」
黒ヶ崎社長は堺知事に言う。
その堺知事は一先ず落ち着きを取り戻したのか葉巻を吸ってソファーに座り、リラックスしている様子だった。
「国連と本気で事を構える事になるが……まあそのためのEー00ファイルと新たな異世界のゲートなのだからな。どうとでもなる」
それに国連だって一枚岩ではない。
自分達のような輩は何処にでも、幾らでもいる。
上手く行けば国連だって引き込める。
これもそれもEー00ファイルさまさまだ。
「ロボルガー失墜計画はまあ一定の成功はしただろう。レッドセイバーのプロデュースは幾らでも巻き返せるしな」
堺知事と黒ヶ崎社長、ブラッドスペクター残党達による日本乗っ取り計画、新たな異世界の門によるビジネス。
多少の失態は重ねたが、世の中は正義よりも利益を選んだ。
☆
Side 辻沢 風花
まさかまさかのどんでん返し。
会社ぐるみでブラッドスペクターの潜入捜査。
レッドセイバーもブラッドスペクターに潜入捜査。
さらにこの事件解決のために協力してくれたディフェンダーズもブラッドスペクターと繋がっていて、先程踏み込んだ大規模な工場の制圧作戦は自作自演。
証拠も何もなく、ただ各種メディアで大声で叫び続けている。
民衆も馬鹿ではない。
ネットは大荒れの大炎上状態だ。
だがそれで終わるんだろうなと、何となくだが風花は思った。
嘘か本当かは正直どうでもいい。
普通の人間と言うのは世の中の大義とか正義のためじゃなくて今日の飯や今月の給料とかが大事なのだ。
だが、ここまで日本と言う国が腐敗していたのは風花も想定外だった。
ブラッドスペクターの残党が日本で大手を振って活動しているワケである。
風花の状況も最悪。
孤立無援状態に逆戻りだ。
☆
=夜・大阪日本橋、メイド喫茶ストレンジ=
辻沢 風花はメイド喫茶にいた。
関係者以外貸し切りであるらしい。
カウンター席に座り、隣には北川 舞がいる。
呑気に二人とも夕食を食べていた。
他の面々もそれぞれの席で夕食を食べている。
「で? どうするんですか?」
自分達の敗北を受け入れらず、少しやさぐれモードの風花は縋るように舞へ尋ねた
「ディフェンダーズの活動は制限されて手助けは出来なくなりつつあるが――ここまで来たらEー00ファイルを抑えてこれまで得た情報をネットにぶち捲けるしかない」
苦境に立たされているようだが北川 舞は呑気に飯を食べている。
この手の店の料理はレトルトだが、基本はメイドの手作りらしい。
一部料理の調理作業に闇乃 影司が可愛らしいミニスカメイド服姿で調理に参加している。
「そう簡単に言いますけど、それ世界に混乱が起きませんか? 特に日本」
「まあ確かに日本は間違いなく、政府や警察、自衛隊も破滅級レベルのダメージを追うだろうね。報復の連鎖で何人死んだり、自殺したりするか分からないレベルの規模になるが、ここまで来たらそうも言ってられんだろう。このまま放置すれば日本はブラッドスペクターの傀儡国家になり、誰も手を付けられなくなる」
北川 舞の言う事は冗談ではない。
現に、そうなりつつある。
このままでは異世界の利権も日本と言う国も、ブラッドスペクターが手中に収める事になるだろう。
「それに、気休めだが希望もある」
「希望?」
「奴達の手段はその場凌ぎの強行策だ。腐っても日本は独裁国家ではなく、民主主義の国だ。手順を踏んで扇動者になる度胸があれば覆せる」
「現実分かってるんですか? それができないから困ってるんですよ」
辻沢 風花がとんでもなく知名度も人気もあるヒロインならひっくり返せたと風花は思ってはいるが、どう頑張っても今回の事件の黒幕Bぐらいのポジション。
黒幕Bがどんなに頑張っても黒幕Bの言う事など世間は信用しないだろう。
「まあそれにしても、ネットと言う媒体は便利だな。その気になれば地球の裏側へでも情報を発信できる」
「どうしたんですか突然」
「なあに、民主主義的にこの国に生きる人間全員に問いかけてみようと思うのさ」
「民主主義的にですか? どうやって?」
そこで風花のスマホから連絡が来る。
このタイミングで誰だろうかと首を捻りつつ、スマホの画面に表示された名前を見てみると青峰 せいなだった。
この街の何処かで監視しているのだろうかと思いつつスマホにでる。
『あ、出てくれた』
「何の用ですか?」
『そんなムカムカしないで――ねえ、私達仲直りしない?』
「はあ?」
ここまでお互いやったりやられたりしておいて何を言っているのだろうか。
風花は一瞬、(何を言ってるんだこいつは)と思った。
『私達が勝ったらもう貴方達に居場所なんてない。ヒーローなんて当然続けられなくなる』
「それで貴方達の軍門に降れと? ブラッドスペクターに尻尾を振れと?」
『言い方が悪いな~ヒーローなんて適当に金儲けのことだけ考えてれば美味しい仕事なのに』
「――何を焦っているんですか?」
ふと風花は切り出した。
「状況は貴方達の情報工作で有利のはずです。にも関わらず、私にお優しい助けの手を伸ばすなんて――何を企んでいるんですか?」
『ッ――!』
何やら自分の声を押し込むような、そんな動作を感じる声なき声が聞こえた。
「ネットの反応が世の中の全てだとは言いませんが、あんな無茶苦茶な論法を信じる人間は少数派ですよ。ただそう言う人間に限って声が大きいので人数が多く感じるのが世の常ですけど」
風花は畳み掛けるように青峰 せいなに現実を突きつけた。
『まだ何か企んでるの? ここからどうやって逆転するつもり?』
「それをアナタに言う必要はありますか?」
そもそも、その方法が分からないから教えようがない。
それと風花としても思わぬ収穫はあった。
北川 舞が言う通り、相手も強引な手段を使い過ぎて追い詰められているのだ。
政治かも官僚も警察も自衛官も、ヒーローだって何かしらの犯罪を犯す世の中。
国の発表を真に受ける人間は少なくなっているのだろう。
なんならネットの発表だって疑われている。
そんな世の中で名探偵不要の雑な嘘をつき続ければ国民は疑いを持つ。
日本国民は外国に比べて大人しいと言われているが――とうとう我慢の限界に、堪忍袋の尾がキレてしまったのだろう。
『そんなに強がってられるのも今のウチだから!』
「ちなみにこの会話は録音されています」
『え? 嘘?』
嘘である。
咄嗟に思いついたハッタリだ。
「私は今、日本で有名なテロリストなワケですし、出すとこ出せば上手い事大炎上して大逆転なんて事もありえるでしょうね? 貴方何て言いましたっけ? ヒーローなんて適当に金儲けしていれば――」
ブチッと切れた。
「一応、ウチの人間が会話を録音しているが本当に録音してたのか?」
北川 舞が悪びれる様子もなく、盗聴の真実を明かして風花に尋ねた。
「嘘ですよ。私にそんな趣味はありません。まあこれで――少なくとも何とかしようと青峰 せいなが動きますね」
「弱味を握って脅迫か、物理的に口を封じるかだな」
舞は二つ、青峰 せいなの今後の行動を予測する。
風花は「後者ですね」と言ってこう付け加えた。
「単純な時間の問題です。私はテロリストですし、もし本当に出るところに出たら青峰 せいなは致命傷になります。そんな彼女をタダで養う程、お優しい人達でしょうか?」
「まあ、道理だな」
ネットは大炎上状態だ。
そんな時に燃料が投下されればどうなるか?
青峰 せいなは社会的に死ぬ。
そうなればブラッドスペクターに口封じで殺されるのならまだいい方だ。
せいなが「殺してくれ」と懇願するような目に遭うかもしれない。
「それに彼女は、言い方はなんですが赤城 レツヤの替えの効く都合の良い女Aでしかありませんし――」
「君にコンタクトを取った理由は――まあ大方、他の変身ヒロイン絡みの人脈目当てだろうな。芋蔓式にアウティエルやホワイトクイーンが助けに来る構図が目に浮かぶ。その二人を助けにまた他のヒロインがと言う感じで入れ食い目当てなんだろうけど」
舞に言われて自分が黒ヶ崎ビルで、どうして殺されずに済んだか納得がいった。
ただ単純に殺すだけなら幾らでも機会はあった。
道中に拳銃で至近距離から不意打ちでもすれば確実だっただろう。
だがそれをせずに、生かしたのには理由がある。
ブラッドスペクターと言ってもピンキリだ。
中には女の敵のような奴もいる。
そう言う連中からすれば辻沢 風花の人脈は魅力的だろう。
「その話はそこまでにしておいて――民主的な手続きとは、いったいなんですか?」
話をそこに戻すか「失礼するよ」と谷村 亮太郎の声が響いた。
ドアから現れたのはフードを被った人物だった。女物のバッグをぶら下げている。
胸が大きく、スカートを履いてる事から女性であることが分かる。
大きなバッグをぶら下げていた。
「それっと」
フードを亮太郎が取ると、そこから現れたのは青髪のツーテルの髪型、可愛らしい小悪魔的な印象を抱く顔立ちの女の子。
どう言う状態なのか目が虚ろの状態だ。
カジュアルな上着にミニスカート、ブーツと服の上から足元までファッションに力を入れているようだ。
風花は見覚えがある。
と言うか昨日出会ってばかりで今日の朝、拳銃を突きつけられて殺されそうになったばかりだ。
「青峰 せいな――」
赤城 レツヤ、明智 誠二と一緒に自分をビル前で嵌めた少女。
眼前に早くも現れ、風花は目を見開き、その名を告げる。
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