ブラッドスペクターの基地へ

 Side 辻沢 風花


 =昼・ステルスヘリ内=


 ステルスヘリの内部。

 そこに辻沢 風花がいた。

 真正面には谷村 亮太郎でも北川 舞でもなく、藤崎 シノブと言う少年がいた。

 任務の都合上、谷村 亮太郎とは別行動。

 辻沢 風花は突入犯の一人として配属された。


 完全武装の悪の秘密組織の基地を制圧と言うここまでの規模の大捕り物は辻沢 風花としても未経験の領域だ。

 だが目の前の素人に見えるカジュアルな背格好をした少年がいる手前、弱気な姿を見せるのはイヤだった。


「ここはヒーローとして手本を見せてあげます。アナタがどれ程の実力かは知りませんが、アナタの出番なんて来ませんよ。指を咥えて私の活躍を間近で目に焼き付けておきなさい」


 あえて辻沢 風花は突き放すように言う。

 藤崎 シノブはと言うと――「でも、危なくなったら助けに入りますんで」と困ったように口を出す。

 まるで子供の我儘を聞いている保育士のようだった。


 その態度に風花はムカッと来たのか、


「必要ありません! これでもアナタが想像できないような数々の修羅場を乗り越えてきたヒーローなんです! ベテランなんです!」 


「そうなんだ」


「そうなんだって何ですか? 私の活躍知らないんですか?」


「いや、昔はともかくちょっと日本空けてた時期とかあって、最近のヒーロー事情には詳しくなくて――」


 怒った子供を宥める様な態度で、正直に答えたシノブ。

 シノブの態度にいらつきながらも風花は冷静になる。


「まったく、君はまだ高校一年生でしたよね?」


「はい」


「もっと世の中の事を勉強しておくべきです」

 

「努力はしてるんですけどね。学校の勉強と政治、経済の勉強とか歴史とかの勉強するのって難しくて」


「ふ、ふーん」


 今時の高校生男子はどうなのかは分からないが、学校の勉強と分けて、別の分野の勉強云々を言う辺り、勉強の種類についても理解していると言う事だ。

 そもそもにして、こうして自分のパートナーに選ばれたのだから遊んでばかりのだらしのない高校生と言うワケではないのだろう。



 =昼・ブラッドスペクターの基地=

 

 ブラッドスペクターの基地は遠くから見れば何もない。

 人里離れた山だった。

 だがステルスフィールド、偽の風景を映し出す膜のような物を抜けるとそこにはだ立派な工場が建築されていた。


 既に闇乃 影司や谷村 亮太郎が破壊工作に回っているらしい。

 上手く行っているのか迎撃システムの類が作動していない。

 完全武装のSF映画に出て来そうな兵士が銃を発射してくる。

 ステルスヘリから降りたディフェンダーズの兵士も同じく、応戦していた。


「これだけの戦力がこんな場所にあるなんてな――」


「どうしたんですか? 怖気付いたんですか?」


 呆気に取られるシノブをからかう風花。

 ニヤニヤしながら周囲を観察する。

 戦争映画のような激しい戦闘だが、状況は此方が優勢。

 だがこのままディフェンダーズの手柄にあやかるのは借りが増えてしまうようで面白くもない。

 自分はナンバー1ヒロイン。

 ここはスタンドプレイと行く。



 屋内に突入。

 敵兵士次々と黄金の銃で無力化していく風花、流石現役のヒーローである。

 そして特に疲れた様子もなく、西洋剣片手に次々と敵の兵士を無力化していくシノブ。

 やはりと言うか、何と言うかタダの高校生ではなかったらしい。

 

「ふ、ふん、中々やるじゃないですか」


「そっちもね。アメコミ映画に出て来るようなヒーローって本当にいるんですね」


「当然です。私はレイガンスリンガーなのですから」


 褒められて悪い気はしなかったので何時もの調子で返す風花。

 だが突然シノブに抱えられて外に出る。


「と、突然どうしたんですか!?」


「ごめん、あの場に留まるのはヤバかったから!!」


 屋外に出て――現れたのは大きな毒々しい紫色の蠍の機械だった。

 形状から見てオートボーグ。

 ブラッドスペクターの切り札の一つ。

 今迄の偽ロボルガーのような粗悪品ではない正真正銘のオートボーグ。

 世界最高峰のヒーローとマトモな戦いが成立する驚異的な戦力だ。

 機体後部、尻尾の付け根らへんにあるコンテナが開き、ミサイル。

 両腕のハサミからビームが飛んでくる。


「意外と多芸だな!?」


「それはそうと降ろしてくれませんか!?」


 シノブはミサイルを電撃で迎撃。

 翼もブースターも持たない身でビームを回避。

 物陰に隠れたところで辻沢 風花を降ろす。 

 今も蠍型オートボーグを中心に破壊の嵐が吹き荒れ、尻尾の先端からビームで周辺を焼き払っている。

 

「また増援が?」


 物陰からそっと見る。

 オートボーグの背後から昆虫モチーフらしき漆黒のフルフェイスヘルメットにプロテクターを身に纏った連中が現れた。

 数は6体。

 人に近いシルエットからコンバットボーグだと風花は考えた。

 少なくともこの局面で偽ロボルガーのような粗悪品を投入してくるとは考えにくい。

  

「倒すだけならどうにでもなるけど、被害が――まあ行くしかないか」


 などと言いながらディフェンダーズの隊員を助けるためにシノブは飛び出す。

 

「ちょっと!?」


 レイガンスリンガー、辻沢 風花も後に続く。

 蠍メカの攻撃。

 更には新手の6体が突っ込んでくる。常人離れした素早い動きだ。

 コミックの忍者みたいな動きでグルグルと此方を囲んでくる。

 

「この人数で守りながらだと――」


「辻沢さん! 俺の事はいい! 自分の身を第一に考えるんだ!」


「剣一本で何言ってるんですか!?」


 流石の風花もコンバットボーグなのかオートボーグなのか分からない相手に接近戦を挑む事はできない。

 対するシノブはと言うと相手の攻撃を的確に弾き、時にバリアの様な物を発生させたり、まるで魔法のように電撃を出したりしている。

 どう言う類の能力だろう? 片手の剣といい、まさかセイクロスト帝国の関係者だろうかなどと風花は考える。


「えっ!?」


 驚く風花。

 突如として敵が爆発に巻き込まれていく。

 味方の援護だろうかと思った。

 遠方から影が近づいてくる。

 重戦車のような厳ついフォルムの巨大なバイクに乗ったシロとブラックの仮面のヒーロー。


『スタンモード解除。ファイア』


 派手に蠍型のオートボーグを轢き飛ばし、手に持った光線銃で次々と撃ち抜いていき、バイクから降り立つ。

 

「羽崎さん――」


 シノブがボソッと呟く。

 風花はえっとなった。

 

 大阪日本橋で偽ロボルガーを撃破し、動画で大パズリした人物。

 その本人が目の前に現れたのだ。

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