第3話 残念王子(1)
「断れるものならとっくにつき返している。上司からの命令なんだ」
第三王子シリアン・フォン・エリンゼルは、国王陛下が一目惚れしたという踊り子を母に持つ。
その母親譲りの色気のある美男子だと評判だが、どういうわけか不運を呼び込む体質で「残念王子」と呼ばれている。
おまけに性格もかなり残念だと聞いている。
どんなふうに残念なのかすら、わたしはまったく興味がない。
どうせ一生、接点のない人だ。
綺麗な王子様の見た目とは裏腹に相当クセの強い性格なのだろう。
その残念王子が突然「結婚したい」と言い出したらしい。
貴族の令嬢たちを集めて我こそはとシリアン様に直接アピールしてもらい、見初められれば婚約者になるのだという。
好きにしろと言いたい。
こんな方法をとらなければ恋人も婚約者もできない時点で、確かにいろいろと残念な人だと思う。
「これまで婚約者はいらっしゃらなかったの?」
第一王子のリチャード様と第二王子のルーク様はすでに結婚しているけれど、どちらも幼いころから婚約していたはずだ。
「上のお二人とは母親が違うからね。シリアン様はいろいろと疎まれているというか……」
父が困ったように言葉を濁す。
兄王子たちは正妻である王妃様の子であるのに対し、シリアン様は元踊り子の側妃の子だ。
年齢も上の二人とは離れている。
陛下が若い踊り子を見初めて召し上げた時にはすでにリチャード様とルーク様がいた。
つまりお世継ぎに困っていたわけでもなく、単純に己の欲望に負けただけといったところだろうか。
気が強いと噂の王妃様からしてみれば面白くないに違いない。
第三王子で王位継承権第三位の資格を有しているにもかかわらず、王妃様がご存命のうちはシリアン様が玉座に座ることはまずあり得ないだろうと言われている。
上流貴族の婚姻は政略的な意味合いが強い。
本人たちの恋愛感情は皆無で家同士のつながりが重視され、互いの立場をより強固で盤石なものにするのが目的だ。
王位継承権第一位であるリチャード様のお妃様の選定も、水面下でさぞ激しい攻防があったに違いない。
それに対して立場が悪く疎まれているシリアン様に娘を嫁がせたいと思う貴族は、たしかにいないだろう。
ヘタに婚約しようものなら謀反の疑いを掛けられる恐れだってある。
かといってシリアン様が平民と自由に恋愛や結婚ができるかといえば、王族という立場上これもかなり高い壁が立ちはだかることだろう。
ようやく父が上司に「娘を夜会に参加させろ」と強要された理由が見えてきた。
「誰もこの夜会に参加したがらないというわけね?」
父が苦笑しながら頷いてため息をついた。
「数合わせだと思って行ってくれないか。おまえにもずっと苦労をかけっぱなしだから、たまには楽しんでくるといい」
どうせどこをとっても平凡なわたしがシリアン様に見初められるはずもないし、美味しいスイーツの無料食べ放題に行くぐらいの気安さで参加してもいいかもしれない。
乗り気になりかけたところで、大事なことに気づいた。
「着ていくドレスがないわ」
その気になったわたしの様子にホッとしたのか、父が大丈夫だと笑う。
「ドレスは上司の奥様が昔着ていたドレスを貸してくださるそうだ。ただし、靴は自分で用意して欲しいと言われた」
そこまでして参加者を集めないといけないなんて、どんだけ人気が無いのよ、残念王子!
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