異能学園の魔法少女(自称)!
ネコネコ大統領
プロローグ
0-1「魔法少女……?」
なんだか気力が湧いてこず……かといって、机に突っ伏すなんて根暗みたいな真似はしたくない……そんな昼休み。
スマホの画面を落としながら、私はため息を吐いていた。
星占いは1位だったし、通った信号はほとんど青だった。そんな素晴らしい朝だというのに、今日はいつにも増して気力が湧いてこない。
……取り敢えず何かしようと思って、適当にネットニュースを流し見してたんだけど……これも全然……というか、余計に気が重くなった気がする。
何故って……たまたま開いていた記事の内容……『徹底調査!
その内容自体はどうでも良かった。……ただ、それを見て、無性に意識してしまう。私が今いる場所……それが、その学園都市とやらの中にある、『第五特別高校』の教室だから。
なんともつまらない名前の学校だが……名前についている通り、この学校は特別。なんたって異能力者のみが入れる、異能力者のための学校なのだ。
『設備も充実! 校風も自由! さらに将来の進路まで安泰! 夢のような学校生活を送ることができる、最高の学校!』
……というのが、パンフレットだったか、広報だったか……もしくはネットの記事だったかで聞いた、プロパガンダじみた嘘っぱち。
まず将来の進路というのは基本的に軍関係ばかり。良くても民間軍事会社……とんでもない豪運があれば普通のところに就職できるが……予備役には必ず入れられる。
さらに自由な校風……これ、自由というより、弱肉強食と言った方がいい。
この学校では、より強い能力を持つ生徒が、スクールカーストの上位に君臨する。
学校側も、より優秀な能力者を出す事に必死で……強者から弱者への暴力や恫喝は、黙認されている。
……私のクラスにも、そういった事をする……いじめっ子がいる。
そして、私はそのいじめっ子の取り巻きをしている。つまりは、いじめに加担しているってわけだ。
……そりゃ、多少の罪悪感はあるけど、長い物には巻かれていた方が得だし……何より、そのいじめっ子に引っ付いているだけで私はおこぼれをもらえる。
クラスでの地位や、ちょっとしたお金……他にも色々。
強者に媚びへつらっていれば、それだけで学校生活は安泰だ。
……でも、最近は少し、罪悪感というか、不満というか……そういったモヤモヤが心の中で渦巻いて、燻って、どんどん溜まっていってるような感じがする。
いじめられている子の、今にも泣き出しそうな表情……握りしめられた拳……そしてバラバラに壊された、大切だっただろう腕時計……もし、私が助けに入っていたなら……止めていたなら……私は……。
……そこまで考えたところで、私はハッとして考えるのをやめた。
そうだ、私が助けたところで……私共々標的にされるだけ。そもそも、私みたいなクズは金魚の糞が関の山。救世主だとか、善人だとか、そんなの到底器じゃない。
……まあ、結局は、無駄なことで、無駄に悩んでいて、そのせいで調子が悪いってだけの話だ。
こんなことで悩んでいてもしょうがない……気分転換に、窓の外でも見ようかな……。
そう思い、私は窓の外——中庭に目を向ける。
なんてことはない景色だ。池があって、噴水があって、鳥がさえずっていて……。
鳥ってなんて素晴らしいんだろう。鳴き声を聞いているだけで心が安らいできた。
どこら辺にいるのかな……木の上とか……?
そう思い、そこら辺の木に目を向け——
「……んんっ!?」
——私は思わず声を上げた。
周りから奇異の視線が向けられるが……それどころではない。
その木に、人がよじ登っていた。桃髪の、二つ結びの、小柄な女の子だ。周囲には軽い人だかりが出来ていて、みんな女の子を見上げている。あの子、制服を着てるし、ここの生徒だろうけど……どのクラスの子だ……?
そして、その手には何かが、大切そうに乗せられていた。絶対に落とさないという強い意志を感じるくらいに。
……よーく目を凝らして、ようやくそれが鳥のヒナだと気づいた。
多分、何かの拍子でヒナが落っこちて、あの子はそれを木の上に戻そうとしている……といった感じだろう。
観衆の注目を浴びる中、その女の子はゆっくりと巣にヒナを近づけ……そっと、中に置いた。
遠目からでも、女の子が安堵のため息を吐いているのが分かる。
周囲にいた生徒たちは、歓声を上げたり、拍手をしたり、興味をなくして立ち去ったり……千差万別の反応をしていた。
……なんだこれ、当てつけか何か?
あの子はわざわざ木によじ登ってまで鳥の雛を助けられるような、優しさに満ち溢れた子なのだろう。……私みたいな奴とは違って。
せっかく気分がマシになってたのに……さっきまでよりずっと悪くなった。最悪……。
結局気分はちっとも良くならず、あっという間に朝の
◇
昼休み、私は中庭を訪れていた。
中庭の中でも、中央の活気に溢れた所からは離れた寂しい場所。
日陰のせいで薄暗く、微妙にジメジメしていて、かといって何か目ぼしいものがあるわけでもない。
おかげで、学校の喧騒から離れたい時にピッタリな場所になっているわけだ。
少し錆びたベンチに腰掛け、鞄から取り出したメロンパンを頬張る。
ふんわり甘くて美味しいのに、値段はたったの110円。
お財布に優しい、まさに学生の味方って感じだ。
……それにしても、こんな風にお昼を満喫するの、かなり久しぶりな気がする。
何せ普段は例のいじめっ子との付き合いがあるから、一人で食べるなんて中々できない。
今一人の時間を満喫できているのは、そのいじめっ子が体調不良で学校を休んでいるから。
朝、スマホに来たのは、『熱出ちゃってヤバい。今日は行くの無理そー……』というメッセージ。
私の属してる一軍グループは、そのいじめっ子を中心にまとまっているだけの脆いグループ。
そんなわけで、今日はそれぞれがバラバラに過ごしている。
やっぱり、一人昼食は落ち着いて食べれて良い。アイツと一緒だといちいち気を遣わなきゃだし、微塵も興味ない話を延々と聞かされるもんだから、美味しいご飯も不味くなる。
いちいち絡んできて鬱陶しいし、喋り方がウザいし、ノリもキモいし……。
……まあ、折角一人で食べれるんだし、今くらいあんな不快なヤツの事は忘れよう、うん。
そう気持ちを切り替え、また一口メロンパンを口に入れようとしたその時。
「美味しそうだね、それ」
いきなり背後から聞こえる声。私は驚きのあまり、メロンパンを喉に詰まらせそうになった。かなり盛大にむせ込みながら、後ろを振り返る。
そこにいたのは、桃色の髪が特徴的な女の子。
髪型を二つ結びにし、白いリボンを髪留めに使っている。
小柄なせいか、どことなく幼い雰囲気のせいか、小学生〜中学生くらいに見える。が、身につけている制服は……かなりボロボロだけれど、この子が高校生である事を雄弁に語っていた。
「あ、ご、ごめん、大丈夫……?」
女の子は申し訳なさそうにこちらを見つめながら、背中をさすってくる。
私はそれを払いのけ、女の子を軽く睨みつけた。
「いきなり、何……?」
「いや……そのメロンパン、美味しそうだなーって思って……」
「へえ……」
せっかくの一人昼食を邪魔された事に苛立ちつつも、それ以上に気になる事があった。
この子、どこかで見覚えがあるような…………いや、そうだ、確か今朝の……。
「……朝、木に登ってた子……?」
「あ、そうそう! あれ見ててくれたんだー!」
どう? かっこよかった? と自慢気に胸を張る女の子。
対する私は、朝の事を思い出し内心苦い表情になっていた。
「ああ……すごかったよ、うん」
「えへへ…… でしょ? まあ、何たってわたしは魔法少女『マジカル★あかりん』だからね!! 小動物を助けるくらい、なんて事ないよ!!」
「へえ…………?」
魔法少女……?
この子は、何を言っているんだろう……?
「その……魔法少女ってのは……?」
「んー? えっとね……強くて、可愛くて、かっこよくて、みんなを助ける正義のヒーローだよ! ほら、テレビで見た事ない?」
「あ、ああ……なるほど……」
全然なるほどじゃない。
これは……所謂、中二病ってやつなのか……?
いや、もしかしたら、魔法少女っぽい感じの異能力を持っているのかもしれない。
だとしたら……まあ、納得はするけど、やっぱり痛々しい気がする。
そんな私の心中など露知らず、女の子は言葉を続ける。
「で、わたしはその魔法少女だから、みんなの平和と笑顔を守るのが使命なの!」
「うん……」
「『闇の組織』がこの学校を脅かそうとしてるからね! 今だって、みんなの心を蝕もうと企んでるの!!」
「そ、そうなんだ……」
「あ、でも心配しなくて大丈夫!! このわたし、『マジカル★あかりん』がいる限り、みんなに手出しはさせないよ!!」
「そっか……すごいねー……」
ダメだ……全くついていけそうにない……。
これは……中二病なんて言葉で済ませて良いレベルなのか……? もはや、電波系とか……そういう領域に突っ込んでるように思える。
困惑する私をよそに、女の子の話は続いていく。
一体いつ終わるんだろうか……そう思い始めた矢先。
——ぐうぅ…。
はっきりと、音が響いた。……女の子のお腹からだ。
「……お腹、空いてるの?」
「あ、あはは……お弁当忘れちゃって……」
少し恥ずかしそうにしながら苦笑いする女の子。
そういえばさっき、「そのパン美味しそうだねー」みたいな事を言ってたような気がする。もしかして、最初からこのメロンパンが食べたくて私に話しかけてきたんだろうか。
……私は少し迷った後、口を開いた。
「……メロンパン、半分あげよっか?」
「えっ!? ……い、いいの?」
「お腹空いてるんでしょ? いいよ、あげる」
「あ……ありがとう!!」
嬉しそうに目を輝かせながら、女の子は千切ったメロンパンを受け取る。
少しだけメロンパンを見つめた後、大きくかぶりついた。
「……んん〜っ!! おいひい〜〜〜っ!!!」
「……良かったね」
飛び跳ねながら頬を抑え、満面の笑みを浮かべる女の子。
……取り敢えず、ちゃんと飲み込んでから喋ってほしい。カスが飛び散って汚い……。
「ほんとありがとっ! お腹ぺこぺこだったから、助かったよ!!」
「どういたしまして……」
「このメロンパン、めちゃくちゃ美味しいねっ!!」
「ああ、うん……私もお気に入り」
大袈裟な反応に、私は少し呆れてしまった。
菓子パン一つでよくここまで喜べるな……それとも、それだけお腹が空いてたってことなのかな……。
そんなことを考えていると、いきなり目の前に手が差し出された。
「わたし、
……相変わらずわけの分からない話は置いておいて……これは、握手を求められているんだろうか……。
「……
そうして、私は渋々と手を握り返した。
……まあ、どうせ大した付き合いにはならないだろうけど。
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