【完結】俺のスター列伝

湊 マチ

第1話 アントニオ猪木 〜不死身の闘魂〜

1988年、あの熱い夏の日。僕はまだ小学生だった。夕焼けが西の空を赤く染める頃、僕は家の小さなテレビの前に座り、アントニオ猪木の試合を観るのが日課だった。猪木の決め台詞「1、2、3、ダー!」が響く度に、僕の心は希望と興奮で満たされた。


彼の試合はいつも劇的だった。全身に漲るエネルギー、相手に向かう真剣な眼差し、そして何より、その圧倒的な強さ。猪木がリングに立つと、まるで一瞬にして空気が変わるような気がした。その姿は、少年の僕にとってまさに神々しい存在だった。


ある夏の夜、猪木がモハメド・アリとの異種格闘技戦に挑む試合が放送された。1976年の試合だが、再放送でその戦いを目の当たりにした。家族全員がテレビの前に集まり、固唾を呑んで見守った。猪木は自らの信念と誇りを賭けて、世界的なボクシングチャンピオンに立ち向かった。リングの上で繰り広げられる攻防戦は、まるで光と影が交錯するかのように、僕の心に深く刻まれた。


そして、忘れられないのは、1987年の巌流島での対決だ。猪木は巌流島での異種格闘技戦に挑んだ。舞台は、剣豪・宮本武蔵と佐々木小次郎が対決したと言われる歴史的な地。猪木の相手は、元プロレスラーのマサ斎藤。自然の中で行われたこの試合は、リングとは全く異なる緊張感に包まれていた。


試合は激しく、二人の闘志がぶつかり合う様は、まるで古の剣士たちの決闘を彷彿とさせた。猪木が倒されても立ち上がり、再び立ち向かう姿は、まさに不屈の精神そのものだった。彼が岩場で見せた力強いスープレックスは、今でも語り草だ。この試合は、猪木の精神力と肉体の限界を試すものであり、観る者すべてに深い感動を与えた。


猪木の強さだけでなく、その内面に秘めた熱い情熱と不屈の精神が、僕を魅了してやまなかった。彼は単なるプロレスラーではなかった。彼の闘い方や生き様は、まるで人生そのものを教えてくれるようだった。どんなに厳しい状況でも諦めず、最後まで戦い抜く姿勢は、今でも僕の心の指針となっている。


猪木が勝利した瞬間、部屋中が歓声に包まれた。家族全員で喜びを分かち合い、その夜の記憶は今でも鮮明に残っている。彼の勝利は、まるで自分自身が何かを成し遂げたかのような感覚をもたらしてくれた。


時が経ち、僕も大人になった。猪木のような存在にはなれなかったけれど、彼の言葉と姿勢は今でも僕の心に生き続けている。「1、2、3、ダー!」の叫びとともに、困難に立ち向かう勇気を持ち続けている。


アントニオ猪木、彼はただのプロレスラーではなく、僕にとって永遠のヒーローだ。あの熱き闘いの日々を思い出すたび、僕の心は再び燃え上がるのだ。

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