0181:足狩り
「足狩り」。足という身体器官が存在する相手に対して、その攻撃は非常に有効で効果的だ。ダメージを与えられれば、何よりも身動きが取れなくなる=機動力喪失、反応力低下。さらに戦意喪失に繋がるし、もしも人間相手ならそれで勝負が決まったりもする。
栄誉だと思わせてもらおう。綾口絹子はそう考えていた。彼女の所属するライナスというクランは、ほぼ女子で構成されている。どうしてもマイノリティになりがちな女性冒険者が集まることで人数的、実力的に業界五位と言われている……のだが。
リーダーがリーダーなので、何かと軽く見られがちだ。
とはいえ、アレがリーダーなのは事実なので、どうにも如何ともし難い。ライナスでは数少ない武闘派の絹子は数少ない大会参加者の一人だ。そもそも、五十以上の探索者が所属しているにも関わらず、大会予選に申し込んだのはたったの五名しかいなかったのだ。
(戦えない娘はしょうがない。うん。でも……「面倒くさい」って理由で不参加は……アイツら……許さん。他のクランと同じ舞台に立って戦うってことが何よりも大事なのに)
事実、ライナス所属の低ランク探索者達が襲われるという事件もそれなりに起きている。女性のみ……という肩書きはプラスにもマイナスにも働くし……探索者という職業の場合、マイナス部分が大きいのだ。
……迷宮という密室での出来事であり、「軽微」な身体的な損傷は全てポーションで治癒「されてしまう」。そもそも、犯罪行為が行われたという事実を立証する事すら難しい。
(「腕の立つ」ことが証明できれば、あの娘達を守ることにも繋がるのに)
絹子は小柄な身体に似合わない、大振りの薙刀を構えた。既に、合図を待つばかりになっている。長くストレートな髪に一重で切れ長の目。昔から顔立ちは日本人形に例えられることが多かった。本人的には日本人形って恐怖アイテムの一つでしかなかったのだが。
-第二試合、カウントダウンを開始します-
聞こえてくるのは音だけだ。3、2……最後は無音。対戦相手が距離を詰め始めたのを感じる。自分も、足場が安定しそうだと思っていた所まで近づいた。
いた。対戦者は確か元フェンシングのオリンピック候補選手だ。レイピア……彼が構えているのは、細剣なのだが……あれは侮れない。特に対人戦では凄まじい威力を発揮する。
レイピア、そもそもフェンシングは対人戦に特化されている。それこそ、剣道と比較されることが多いが、剣道の方がまだ、様式美や形式に拘りが残っている。薙刀などさらに、ってことになる。
単純な獲物の軽さによる剣速に加えて、さらにしなりを生かしたスピード。直線に拘らなくなった踏み込み。そのどれもが薙刀を凌駕している。
(魔物と戦う時は確実に、薙刀の方が楽だし、使えると思うけどねぇ……人相手っていうのは)
そうこうしているうちにも「細剣」はジワジワと制圧圏を被らせてくる。確実に彼の圏は自分よりも狭い。だが。それを動きで広くしているのは当然だろう。それにしても……長柄物を構えている相手に対してこうして、挑んでくるのは……かなりのプレッシャーだろうに。
速い! 天秤が傾き、一気に爆発された空気の渦とともに、「細剣」がフェイントを掛けつつも突っ込んできていた。その瞬間、もう身体は動いている。
それは想定済みだ。ギリギリだが、その範囲内だった。これなら……。
「細剣」の動きに合わせるように、「足狩り」はその流れを受け止めてさらに受け流す。対流が見事にズレた流れを生み出した……かのようだった。まあだが、仕掛けた「細剣」にしてみれば、自分の得意な流れ、攻撃をいなされてしまった……ということになるのだろう。
「「細剣」の突進は……防ぎようが無い……と言われたんですが。この程度ですか?」
「くっ! 「足狩り」の姫は意地が悪い。この程度のわけが無いじゃないですか」
「では、本気でお越しください。私が刀を使わなくては防げないくらいに」
当然、ギリギリだった……等とは言ってやらない。
でもこの人は良い人だ。来年三十路の女子に対して「姫」呼ばわりは……うれしい。最近特に親から結婚や生活、人生について説教されることが多い身としては、非常にうれしい。
さすが王子……やるな。さすが、ただ者ではないですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます