0158:鈍器で刺す

 このなまくら様、今でこそこんなだが、元は聖剣様(あ。なんか様を付ける場所が判らなくなって来た)なだけに、魔力の通りが異常に良い。さっき掛けた「尖鋭」のおかげで、鈍いながらも、かなり切れ味がよくなっている。


 というか、使っているうちになんか、次第に「使い物」になりつつある……気もする。


 が。まあ、いいか。


 取りあえず、ヤツの周辺で「回復」を使用する。俺の「回復」は以前使っていた「治癒」を元にしている。魔力の練り=質、と注ぎこむ量によってかすり傷、擦り傷から、切断された脚の接続まで可能とする。


 まだ、やったことは無いが……魔力を注ぎ込めば、多分、それなりの欠損の修復も可能なハズだ。ただ、元から……ヒントになるようなモノが一切無い場合も修復できない。


 あと、時間が経過して、本人の記憶が薄れてしまっていると復元不可能となる。


 が。


 ということは。多分だが、致命傷を負って一度死亡した人間を、「復活」させることも可能なハズだ。回復系を司る光属性の神級呪文。これを使える者は勇者パーティにもいなかった。もの凄く昔にいた神の御業の代行……というヤツで、それが使える神官は即、神の使徒として認められてしまって大事になったと聞いたことがある……。伝説の御業ってヤツだ。


 って……あ。偽勇者の仲間達が……つい、うっかり、魔力を注ぎ込んでしまったようだ……。うーん。もう、どうにもならないかも。これでも、ぶっ潰した! と思いつつも、ギリギリ、本当にギリギリで生命線を繋いであったんだけどさ。


 まあでも、とりあえず、斬り落とした脚は敢えて放置して、血を止める。突きで空いた穴も当然、空いたままだ。既に尻を付けて座りこんで、意識が朦朧としているっぽい偽勇者を担ぎ上げた。そして。


(ということで、ここから先は企業秘密ってことで。任せてくれない? 処理してくるよ。あいつらは……放置でいいかな。パーティ解除するよ)


(い、いえ、我が主君マイロード、自分も最後まで)


(これはダメ。命令だ。後始末、お願い)


(は……で、ですが……)


 パーティを解除して、ゲートに向かう。まあ、どうにかして着いてこようとするわな。うん。でも無理。なんだなぁ。甲田さんと的場さんのこの迷宮での最終到達階層は53階層。それは聞いている。


 ゲートを使用する。目標階層を思い浮かべる。第58-1……58番目……第58階層の始端ゲートだ。ちなみに、担いでいる偽勇者は問題無くここへ跳べる。なぜなら。58階層のボスに尻尾巻いて逃げ出したのはコイツのパーティだからだ。


 つまり、ここは池袋迷宮の現時点でも最終到達点の一歩手前。最前線のゲートである。甲田、的場がうちの師範代に叩き潰されている隙に、一人で何度か潜って、転移点を更新しておいたのだ。


 こいつらの報告で、この後の第58階層はボス階層となっている。獲物はポイズンダークエルフ……らしいが、多分、こいつと仲間達はちゃんと良く見れてない。逃げ帰って来たらしいからね。なので、何が出てくるかは現状では分からない。


 が。大事なのは、その最終到達点、ボス階層ではなく、その一歩手前の57階層だ。57-2。57階層の終端に飛ぶ。うん。こないだ来た通り。


 枯れた森林地帯だ。何故枯れているかと言えば。人間にとって毒となる霧状のエキスを噴出するスライム状の敵、ポイズンダークスライムが出現するからだ。ここで現れる他の敵はポイズンダークフロッグ、ポイズンダークエルフ、ポイズンドライアド、ポイズンレイス……だったかな? もっといたかな? お漏らしがいれば、教えてくれるんだけど。


 あ。ちなみに、ダークエルフ。名前がそうなだけで……黒い小妖精というか、羽の生えた小鬼というか、見た目もかなりグロイ。期待したらいけない。


 ということで、朦朧として放心状態の偽勇者を投げ下ろす。枯れた森林。地面は土だ。ひんやりしている。


 57階層の次の階層への入口、つまり出口付近。当然だが、誰一人いない。というか、多分、この階層……上下5階層くらいは誰もいない。


「あ、ああ、こ、ここは……」


 うん。やっと転移させられてここへ来たことを認識したかな? うん。




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