追う男、追う女〜想いを胸に駆け抜ける〜

子午蓮

第1章 輝き

第1話 出会い

「おい! 他のメンバーはどこだ!」


「僕たちが魔物に囲まれている間にはぐれてしまって! この先にいると思います!」


「君たちはすぐに森から出るんだ、俺が見てくる」



 囲んでいた魔物を一掃したカイは森の奥へと駆けていく。



 見つけた!



ザンッ



 少女が戦っていた魔物を一瞬で撃退し、少女に振り返る。



「これを飲むといい、よく耐えたな」



 随所に傷を追い疲弊している少女にポーションを渡す。



 深手は負っていないのが幸いといったところか。



「あの! 助けて下さってありがとうございます!」


「あぁ、一先ず森から出よう」




その一連の出来事の少し前に遡る——




 あのパーティ、軽装すぎじゃないか?



 街道を歩いていたカイは前方に見えるパーティを目で追っていた。



 4人パーティか、バランスは取れていそうだけど身のこなしから考えると……どうなんだろうな。



 カイが歩いている街道はノアベルト王国東部の街、ゼストを出てまだそう離れていない場所。



 そこで前を歩くパーティが街道から逸れて森へと向かって行くのを目にした。



 ゼスト近隣にあるアスの森は奥へとは進まずに外周付近なら少し経験を積んだパーティなら問題はない。

 ある程度の経験を積んだ冒険者ならソロでも訓練が出来るような場所だ。



 ただカイの目に写ったパーティはそれぞれの身のこなしが定まっておらず、何よりもパーティのぎこちなさを感じ取れた。



 依頼を受けている最中なので目的地に向けて少しずつ森から離れ街道を進んでいくカイであったが、



 「あんなのを見て放っておけるわけないじゃないか!」




 1人言葉をもらし、すぐに引き返して森の方へと駆けて行く。




 そして森へと入って間もなく戦闘音を聞きつけ、即座に戦闘に割って入り魔物を斬り伏せ、先行していた者も無事に助ける事に成功していた。




そして現在——




 カイは救出したパーティに向けてどうしても言わなければいけないことがあった。



「君たち、ランクは何だい?」


「4人全員がEランクです」



 パーティのリーダーだろうか? それにしても……。



 この国では5歳になると神からの洗礼を受け、適性を見出されるとそれに従って将来を考える者が多く、剣の才能の持ち主は騎士や冒険者を目指し、魔法の才能の場合だと宮廷魔導士や冒険者などを目指す。

 それ以外にも商才なら商人へといったように授かる適正は多岐へと渡り、さまざまな道へと進んでいく。




 そしてギルドに冒険者として登録出来るのは15歳以上でなくてはならない。


 冒険者ランクはFから始まり最高がAランクとなり、カイはBランクの冒険者である。




「アスの森の外周付近なら、Eランクのパーティでも狩ることが出来る魔物は多数いるし実際に活動しているパーティも多い」


「3人は外周付近にいたが、1人だけ先に進んでいたのはなぜかな」



「それは……」



 リーダーらしき男の子が言い淀むが、カイはそれを許さない。



「はっきりと言ってほしい、これは大事なことだ」


「僕たちは外周付近から少し奥へと進もうと斥候の彼女を先行させました」



「はぁ……」



 とカイは思わず深いため息を吐いてしまう。



 自分たちの実力を把握していないどころか、それははぐれたとは言わないだろう。



「冒険者登録の際に君たちは講習を受けているはずだ、そこで生き抜く知恵や行ってはならない事など叩き込まれたはずだろうに」




 ノアベルト王国では魔物を狩り資源を回収して国を豊かにする一旦を担う冒険者の死亡数を減らそうと、厳格な講習を行うなど様々な施策を行っている。


 また誰でも登録が出来るがゆえに力を持って犯罪を犯そうとする者や、それに加担する者が増加しないように始めの内からしっかりと叩き込み被害者が出ないようにも気を配っている。




「はっきりと言う、君たちは冒険者として活動する事や魔物に対する認識などが甘すぎる。他の者たちが地道に適した場所で活動する中で自ら手に余る場所へと向かった」


「俺が助けに入らなければ君たちは全員死んでいた」


「講習で口酸っぱく言われたはずだ。準備は怠るな、力を過信するな、驕るなと」


「依頼があるから俺はもう行くが、街へ帰って頭を冷やして自分たちの行いを振り返ってみるといい」



 カイは去っていく中、1人思う。



 先輩冒険者として伝えないといけない事とはいえ、本当に嫌な役目だな。

 相手のためとは言え、最悪な事態を避けるためにきつい言葉を投げ掛けないといけないのはきつい。

 俺に対して負の感情を持つことはいいのだけど、これから先をどうするかを決めるのは彼ら次第でしかないしな。



 今後は無茶すぎる行動なんてやめてくれよ。



 カイはそれなりに冒険者歴は長い、その中で若い冒険者たちが亡くなった事を聞いたりするのは決して少なくはない。


 冒険者はいつも危険が付き纏い命懸けの職業には変わりない。

 だからこそカイは意味もなく自ら死ににいくような行動を取る事を避けてほしいと思っていた。




 それから数日後に依頼を終えて街へと戻ってきたカイとアスの森で出会ったパーティが再会する。




「先日は助けて頂き、ありがとうございます! 僕の名はマルク、このパーティのリーダーを務めています」


「カイだ、元気そうで良かったよ」



 それからマルクから講習を受け直した事を聞き、相談を持ちかけられた。



「カイさんに鍛えてもらえないでしょうか」


「その申し出を受けてやりたい気持ちはあるが受ける事は出来ない。俺は街にいる事の方が少ない」


「マルクたちに必要なのは先ずは見晴らしの良い平原などで弱い魔物相手に戦い、パーティの連携を高める事だ」


「そうすれば連携を高める事が出来るだけでなく、各々の戦闘の訓練にもなる。パーティで活動するための講習も別で用意されているはずだから先ずはそれを受けてみるといい」



 マルクはカイに礼を言い、去ろうとするが。



「あの! 先行していたところを助けて頂いた斥候のハンナです!」


「無理を言っているのはわかっているのですが、それでも街にいる時に少しでもいいので私たちの訓練を見てもらえないでしょうか」



 ハンナから必死さが伝わる、1人で死にかけたのだからそうなるのも不思議ではなかった。



「それなら構わない。お互いの予定もある以上そう機会は多くないと思うが、時間が合う時は頼ってくれればいい」


「ありがとうございます! それでは失礼します!」



 ハンナは笑顔で礼を言い、マルクは少し申し訳なさそうな顔で頭を下げ去っていった。



 経緯はわからないがマルクたちはかなり幸運な方だな。


 カイが幸運だと思った点は4人でパーティを組めている点にある。

 冒険者に成り立ての頃はなかなかパーティメンバーが集まらないのが現状だ。


 パーティを組む際には3人から5人を目安として、特に4人か5人で組むのが最適とされている。

 戦闘を行う際に安定する事やそれにより挑める選択肢が増える事などから示された人数である。


 しかし、FやEランク冒険者の場合はメンバーを募集してもなかなか集める事も出来ない上に加入するにもCからなどの条件が多く、よっぽどタイミングが合わないと集まらない。


 これは15歳を超えればいつでも冒険者になる事が出来るためギルドは門扉をいつでも開いている事が一因でもある。

 それでも年1回や年2回など登録日を絞る愚は犯さない。

 すぐさまお金を必要としている者も多くいるし、魔物相手ではなく飢えなどで亡くなってしまうからだ。


 そういう理由もあり、ソロ活動で実力を上げてDやCに上がってから新たに募集する者や加入先を探す者が多い。



 栄誉や地位、名声や一攫千金を得る可能性があるかわりに厳しい世界に立ち向かう必要があるのが冒険者。



 それでもそれらを求めて、また広い世界を見ることを望んで冒険者へとなる。



 カイにはカイの目的があるように、ハンナはハンナであの日の光景が忘れられずに胸の高鳴りのままに動かずにはいられないように。




 全ては己が夢を掴むため、手を伸ばし突き進む。

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