drizzle
野宮麻永
第1話 夜の学校
教室の中には誰もいないはずだった。
試験期間中は部活もなかったし、夜遅くまで好んで残る生徒もいない。
一旦は家に帰ったにも関わらず、再び学校の、その教室に戻ったのは、明日の試験に欠かせないプリントを忘れてしまったからだった。
世界史の先生は「ここから出す」とご丁寧に試験に出る問題をプリントして配ってくれた。
それをうっかりロッカーに忘れてしまった。
そのことに気がついたのは夜の7時を回った頃だった。
指定校推薦で行ける大学を狙っている身としては、試験の出来は大きく左右する。
取りに行くしかない。
冷静に考えれば、夜の学校に忍び込んでいるところを見つかった場合の方がリスクが大きいというのに、そんなことはこれっぽっちも思い浮かばなかった。
正門は生徒の下校と共に施錠されている。
それで、「近道」を利用した。
高校の隣は公園になっていて、学校との境はブロック塀になっている。
公園側には、そのブロック塀に沿ってベンチが置かれている場所がある。
だから、そのベンチを足場にブロック塀を乗り越えることができる。
昼休憩に、男子達がその「近道」を使って、よく近所のコンビニまで行っているのを何度か見たことがあった。
それを、今日は自分が利用するだけのこと。
計画通り校内に足を踏み入れ、手前の校舎の横を通り過ぎる時、職員室の電気が消えていることに気がついた。
まずい。
もしかしたら、ここまで来ておいて校舎内に入れないかもしれない。
それでも、もしかしたら、という一縷の望みにすがって、3年の校舎の出入り口ドアに手をかけた。
意外なことに、ドアはスッと開いた。
締め忘れなのか、誰か先生がまだ残っているのか……
急ぎ足で自分の教室に向かった。
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