会社の温泉旅行で誰とも喋らずポツンとしている女性に声を掛けたら「あら?あなた私が視えるの?そりゃそうよね。だって私がこうなったのは貴方のせいなんだから!」と睨まれました

柳アトム

第1話 プロローグ

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【前書き】


 やなぎ アトムです。

 この度は私の小説に興味を持っていただきまして本当にありがとうございます。

 (⋆ᵕᴗᵕ⋆)


 新連載を開始しました!

 今回の題材は「温泉」です。

 有名な温泉地とタイアップできたらいいな~などと夢見ながら書いております。

 (⋆ᵕᴗᵕ⋆)


 第一話は少し文字数が多いですが、出だしと、ヒロイン(?)である温美あたみの記念すべき「初妄想」を書いております。

 最後までお読みいただいた時に「面白い!」と思っていただけたなら幸甚と存じます。

 また、そう思っていただけますよう頑張りますので、ご指導ご鞭撻&評価感想などいただけますと幸いです。

 (⋆ᵕᴗᵕ⋆)


 それでは宜しくお願い致します~!

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 うちの会社はブラック企業だ。


 アットホームな職場!!

 社員全員が家族のように!!


 ───というが、つまりそれは社員が朝早くから夜遅くまで会社で働き、自宅で自分の時間を満喫したり、家族と一緒に過ごすよりも、職場で同僚と働いている時間の方が長くなっているからだ。


 そんな長時間労働が常態化しているブラックなうちの会社が、温泉旅館を貸切って社員旅行をするという。


 会社としては良かれと思って企画したイベントなのだろうが、なんとも迷惑な話だ。


 社員旅行なんて興味のない旅行先に、一緒に行きたくもない同僚と無理やり行かされ、強制的に団体行動をさせられる苦行のようなものだ。


 社員旅行を喜ぶ社員なんてひとりもいない。

 みんな嫌々参加している───


 ───と思うだろうが、


 不平を漏らす社員はひとりもおらず、社員旅行の出発日には全員が言われるがまま、無言で粛々と会社がチャーターした旅行バスに乗り込んでいった。


 それは何故か?


 それは社員全員が過酷な労働環境にすっかりあてられ、「社員旅行なんて嫌だ」とか「それなら家でゆっくりしたい」などと考える思考回路がショートしてしまっているからだ。


 会社に命令されれば何も考えずにその通りに動く───。


 それがうちの社員だった。


 その為、どの社員も表情に生気はなく、死んだ魚のような目でバスに乗り込んでいった。

 その姿はまるでゾンビの群れが一列に並んでバスに向かって行進しているかのようだった。


 しかし、俺は違う。


 俺はそんなゾンビなどとは断じて違う。


 俺だけはこんな社員旅行に断固反対し、絶対に社員旅行になど行くものか。


 ───と、言いたいところだが、実はそれも違う。


 俺だけは他の社員と「違う」というのは、そういう意味での「違う」ではないのだ。


 では何が違うのか?


 それは、俺だけが社員の中でただ一人、この温泉旅行をという点だ。


 それは何故か?

 俺が生来の社畜で、会社のどんなイベントも楽しみにしているからか?


 それも違う。そんなことは断じてない。


 むしろ俺は、普段は会社の飲み会やレクリエーションには絶対に参加しない。

 どうにかこうにか理由をつけて参加を回避している。


「空気を読む? 同調圧力? 何それ? オイシイの?」


 ───というのが俺だ。


 そんな俺が、今回の社員旅行を何故楽しみにしていたのか?


 それはこの社員旅行が温泉旅行だったからだ。

 それも行き先が、温泉愛好家の中でも秘湯中の秘湯と名高い、まさに知る人ぞ知る温泉旅館だったからだ。


 俺は温泉が大好きだ。


 温泉が好きで好きで好き過ぎて、温泉饅頭と温泉卵を主食にしている程だ。

 就職先にうちの会社を選んだのも、俺の好きな温泉饅頭を製造・販売している会社だったからだ。


 そんな温泉好きの俺は、実はつい先日も、今回社員旅行で行く温泉旅館をプライベートで訪れていた。

 

 まさか会社がこんなマニアックな温泉旅館を社員旅行に選ぶとは───


 驚きを禁じ得なかったが、この温泉旅館を是非また訪れたいと思っていた俺には願ったり叶ったりだった。


 その為、俺はこの社員旅行を楽しみにしていたのだ。


堂悟 有真どうご ありまセンパイ。おつかれっス」


 バスの中でそう声を掛けてきたのは草都 温美くさつ あたみだった。


「なんだ草都 温美くさつ あたみ。なんでフルネームで呼ぶんだ?」


「そういう有真ありまセンパイもフルネームじゃないっスか」


「いや、それはお前がフルネームで俺を呼ぶから───」


 草都 温美は去年うちの会社に入社した2年目社員で、俺とは会社の先輩と後輩という関係だが、実は温美とは大学が同じで、その時分から長幼の序の間柄だった。

 その為、単なる「会社の先輩後輩」と違って親しいというか、学生気分を残したような関係になっていた。

 因みに温美がうちの会社に入社する際、俺に連絡や相談は一切なかったので、去年の入社式で温美が新入社員の中にいたのには本当に驚いた。


 温美は小柄で、いつもオーバーサイズのパーカーを着て、目深にフードをかぶっている。

 たまに小中学生の男の子かと見紛うが、うちの会社では数少ない正真正銘の女子社員だ。

 因みに俺が「なんでお前はいつもブカブカのパーカーを着てるんだ?」と訊くと「これがSSサイズで一番小さいんっス。SSサイズなのに服がワタシより大きいのが悪いんっス」とのことだった。


有真ありまセンパイ、はい、これ───」


 そういって温美あたみは俺にレジ袋を差し出した。


「おっ? これはアレかっ? 例のアレかっ?」


 温美の差し出したレジ袋を見て、俺は目を輝かせた。


「そうっス。うちの会社で作ってる温泉饅頭っス」


「でかしたぞ、温美っ!」


 俺は受け取ったレジ袋に早速手を突っ込むと、温泉饅頭を1つ取り出してかぶりついた。


「ほんと有真センパイは温泉饅頭が好きっスね。そんなに食べて飽きないんっスか?」


「ああ。まったく飽きないな。お前も1つどうだ?」


 俺はそう言って温泉饅頭を温美に差し出したが、温美は眉間にシワを寄せて拒絶した。


「有真センパイやめてくださいっス。ワタシは一日中その饅頭を何千、何万と検品してるんス。食べることはおろか、見るのも嫌っス」


 確かに温美は営業職の俺とは違い、工場内勤務で、しかも温泉饅頭の製造ラインで検品を担当していた。

 工場で生産される何千、何万という饅頭を目視で確認し、形が悪かったり、皮が破けてしまっているようなB級品───いわゆる「不良品」を取り除く業務をしているのだ。

 そして検品で取り除かれたB級品を廃棄せずにレジ袋に詰め、俺に持ってきてくれていた。

 温美曰く「棄ててしまうのはもったいないっス。食べ物は粗末にできないっス」とのことだった。


「それより有真センパイ。ワタシ、棒立ちなんスけど、隣、座ってもいいっスか? 席は空いてるっスよね?」


 温美は、俺が自分の隣の席に置いた荷物を恨めしそうに見て言った。


 ───おっと、これは気が利かなくて失礼した。


 いつも饅頭を持ってきてくれる温美には敬意を払わなくてはならない。

 俺は座席に置いていた荷物をどけて温美に座るよう促した。


 温美は静かに俺の隣に座った。


 会社がチャーターしたバスは大型といえば大型だが、昔懐かしいタイプのバスで、座席は小ぶりでゆったりとはしていなかった。

 しかし、小柄で華奢な温美が隣なら、ふたり並んで座っても窮屈ではなかった。


「しかし今日は大量だな」


 俺は饅頭がパンパンに詰まって丸々としているレジ袋を見てご満悦だった。


「さすがの有真センパイでも、それだけあれば社員旅行の間、温泉饅頭は持つっスよね?」


「もちろんだ。さすがの俺でも、これだけあれば3日間は持つ」


 これで3泊4日の社員旅行中に、温泉饅頭不足で喘ぐ心配はなくなった。

 いやー。持つべきものは頼れる後輩だ。


「しかしこれだけB級品が出るなんて、うちの工場は欠陥があるんじゃないか?」


 そういうと温美は左手の人差し指を突き出し、チッチッと舌を鳴らしながら指を左右に振った。


「有真センパイ、それは違うっス。うちの工場は優秀っス。こんなに最新鋭の機械が揃っていて、法令規則もしっかり守っていて、綺麗で無駄のない工場なんて他にないっス」


 温美はまるで自分の事のように誇らしげだった。


 確かにうちの会社は社員を安月給で奴隷のようにコキ使うが、そうして稼いだ金を工場設備には惜しげもなく投資していた。

 その為、ボロボロでヨレヨレの社員に比べ、工場はクリーンでピカピカで、SF映画に出てくるような近未来的な機械が24時間休むことなく稼働していた。


「じゃあ、なんでこんなにB級品が出るんだ?」


「それはワタシのチェックが完璧だからっス」


 そういって温美は胸を張った。

 その誇らしげでムフーとした様子を、俺は小生意気に思ったが、しかし、それは事実として認めざるを得なかった。


 うちの温泉饅頭は、かつて江戸のお殿様にも献上された由緒ある饅頭で、原材料も厳選され、こだわりの製法で一つ一つ丁寧に作られていた。

 その精神は機械化された今でも健在で、饅頭の製造に一切の妥協はなかった。

 そうして積み上げた信頼の結果、今では全国津々浦々の温泉地でお土産の定番として売られるようになり、販売個数も年々右肩上がりだった。

 しかし悲しいかな───生産数が増えるとB級品が発生する個数も増え、クレームの件数が増えてしまっていた。


 多額の費用───俺たち社員の血と涙と長時間労働の結晶───をつぎ込み、最新鋭の検品機器が導入されていたが、それでもどうしても検品漏れが発生してしまっていた。


 最終的には「やはり人の目で確認するのが一番!」という結論に至ったが、1日に何千、何万と製造される饅頭を目視で確認するのは過酷で、これをこなせる社員がなかなか見つからなかった。

 そんな時に温美が入社し、検品を担当するようになったのだが、なんと温美はひとりですべての饅頭をチェックし、B級品を100%完璧に取り除いた。

 その為、B級品が出荷されることがなくなり、クレームがゼロになったのだ。


「温美が凄いのは認めざるを得ないな。でもなんでお前はこんなに完璧に検品ができるんだ? うちの検品担当は鬼も裸足で逃げ出す過酷さで、何人もの社員が再起不能になっているんだぞ?」


「それはワタシが有真センパイの事が大好きだからっス」


「なんだと? 温美は俺に好意を寄せてくれていたのか。それはありがたいが、しかしそれと温美の検品が完璧なのとどういう関係があるんだ?」


「ワタシが検品でB級品を見つければそれを有真センパイに持っていくことができるからっス。有真センパイにたくさん饅頭をお渡ししたいので、ワタシは目を皿のようにしてB級品を探してるっス」


「なるほど。そうだったのか。では温美は検品をしているのではなく、俺に為にB級品を探してくれていたというわけか」


「そうっス。だからワタシの検品が完璧なのは有真センパイへの想いの強さのあらわれっス。

 検品作業は超過酷で、はっきり言って人間のやる作業じゃないっス。立ちっぱなしで足は疲れるし、饅頭も次から次へと流れてくるので一瞬も気が抜けないっス。でも饅頭をお渡しした時の有真センパイの笑顔が萌えキュンなのでワタシは頑張れるっス」


「そうだったのか、温美。お前の検品が完璧なのは俺に好意を寄せてくれていたからなんだな」


「そうっスよ、有真センパイ。どうっスか? 好きな男性の為に懸命に働く女子って健気で可愛いくないっスか?」


「ああ、そうだな。実に健気で可愛いと思うぞ」


「そうっスよね!」


「それに実に尊い」


「そうっスよね! 尊いっスよね! じゃ、じゃあ───それじゃあ、そんな女子のこと……好きになるっスよね?」


「ああ、もちろんだ。そういう女子はとても好きになる。

 ───おい。温美」


「そ、それじゃあ、有真センパイ。ワ、ワタシのことはどうっスか……? す、好きになったっスか……?」


「───おい。温美」)



「───……」


「───おい。温美あたみ


「───……。

 ───なんスか、有真ありまセンパイ」


「なんスかじゃねぇよ。無視すんなよ。俺がどうして温美はこんなに検品が完璧なのかって訊いてるのに」


「その答えを考えていたっス」


「温美は俺と喋ってるとよくそうやってフリーズするよな。別に難しいことなんて質問してないだろ。答えを考えるって、何考えてんだよ?」


「女子の胸の内はキラキラした神秘のベールに包まれているっス。それを暴こうなんて有真センパイは無粋っス」


 ぶ、無粋だとぉ~?

 温美が無視するから訊いただけじゃねぇか!


 俺は腹が立ったが、温美は饅頭を持ってきてくれるのでグッと堪えて我慢することにした。


 まったく、温美は大学時代からいつもスンとしていて何考えてるかよくわからん。

 実に困った奴だ。



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【後書き】


 私の小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。

 (⋆ᵕᴗᵕ⋆)ウレシイデス


 新連載の初話はどうでしたでしょうか?(,,•﹏•,,)ドキドキ


 この後も、引き続き皆さまに「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります!

 (๑•̀ㅂ•́)و✧


 温美の脳内妄想は、すぐにまた爆発します。(次は4話目です!)

 乞うご期待いただけますと幸いです~♪

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