生徒会長視点

 ――昼休み。


 体育館裏で後輩に告白されたところを北崎きたざき君に目撃された。


 彼から貰った玉子サンドのお返しにと、帰宅後――僕はキッチンへと立った。


 両親は共働きの為、平日はあまり家に居ない。


 明日も挨拶運動が控えているけれど、作り置きはしておきたい。


 ――すみません。可笑しくてつい。


 ――九条くじょう先輩の可愛らしい一面を見た気がします。


『――いっそ僕達、本気で付き合っちゃおうか?』


 ――あははっ、九条先輩見たいな可愛い女の子と付き合えたら夢みたいですね〜


 昼休み、体育館裏で交わした彼の言葉を思い出しながら、口元は緩やかなカーブを描いた。


 ふふっ、明日弁当を渡した時北崎君はどんな表情をするのかな?


「楽しみだなぁ」


 北崎君のくしゃっとした笑みを思い浮かべながら、ついつい頰を緩ませつつ、僕は料理の下準備を始めた。


 ――翌日。


 私立浅倉学園の制服ブレザーに身を包み、弁当箱を二つ鞄に詰めて家を出た。


 朝、私立浅倉学園の校門前に辿り着いた僕は、挨拶運動の旗を抱える北崎君と、トングとゴミ袋を持った里緒りおが居た。

 ちなみに、今日の旗当番は里緒である。


「おはよう二人共」


「会長、おはようございます!」


「おはようございます」


 柔和な笑みを浮かべて挨拶を交わす二人。僕は生徒会室へ足を進めた。


 ――――――――――

 ――――――

 ――


「会長、おっはよー」


「おはようございます会長」


 生徒会室に鞄を置いたタイミングで、ガラッ――と扉が開いた。凪紗なぎさ三玖みくが揃って生徒会室に顔を出す。


「おはよう」


 鞄を置いた二人と共に僕達は校門へと踵を返した。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 今日は旗持ちの北崎きたざき君の隣に立ちながら校門をくぐる生徒達に向けて挨拶を口にする。


 ちらり、北崎君の方へ視線を移すと――目が合った。


 ひょっとしてずっと彼に見られていたのだろうか? 

 内心そんなことを思うと途端に顔が熱くなる。


「北崎君……あまりじろじろ見られると……その、僕も恥ずかしいかな?」


「すみません」


「――後輩くん?」


「――変態」


 僕の言葉に隣に立つ凪紗なぎさ三玖みくが眉間に皺を寄せて口を開く。


 凪紗は強張った笑みを浮かべ小首を傾げ、三玖は鋭い目つきで北崎君を睥睨する。


 北崎君は正面に向き直り、生徒に対して「おはようございます」と挨拶を口にした。


「――あぁ?」


 不意に彼の口から苛立ちに交じった低い声音が耳に届いた。


「北崎君? 急にどうした顔が怖いぞ」


「……いえ、なんでもありません」


「そ、そうか」


 北崎君は一つ息を整えて、友人達と一緒に歩く百瀬ももせさんを見た……。


「……むっ」


九条くじょう先輩、今むって言いました?」


 苦笑交じりに北崎君は僕に問うた。


「……言ってない」


 僕の言葉に何やら凪紗と三玖から、横目で視線を感じるけど……気にしない。


 ふと、百瀬さんが旗持ちの北崎君の方へとやって来た。


「おはようかすみ


「おっす――」


 ……な、な、な、な!!? 


 僕は信じられないものを見た。なんとか平静を装いつつ口を開く。


「人目を憚らず何をやっているのかな北崎君」


「えっ、俺!?」


 言葉通り、人目を憚らず北崎君の背中に手を回して彼の胸に顔を埋め抱き着く百瀬さん。


 そんな彼女を振り解くことなくされるがままの北崎君に小さな苛立ちが募る。


 百瀬さんに視線を移して睥睨交じりに口を開く。


「百瀬さん、君も早く北崎君から離れるんだ」


 僕の言葉に未だ北崎君の元から離れないこの女狐――じゃなかった、彼の幼馴染は蠱惑的な笑みを浮かべて言う。


「嫌です。――見ての通り私と霞は特別な関係なので」


 へぇ――――と呟くような小さな声音が凪紗の口から溢れた。


 は? 何を言っているんだこの子は?


 百瀬さんの言葉を耳にしてぴきっ――と、青筋を立てる僕。


 しかし、野次馬の如く此方に視線を向ける喧騒に交じった生徒達の声音を耳にすることで、僕はなんとか冷静でいられた。


 一度息を整えて、強張った笑みを浮かべながら百瀬さんに向けて口を開いた。


「……なるほど、昨日の仕返しのつもりかな?」


「先に吹っ掛けてきたのはそっちでしょう? 生徒会長様」


 互いに笑みを絶やすことなく、目を逸らすこともなく睨み合う。


「――あ、ちなみに霞は、会長より私の方が好きって言ってましたよ」


 言って、百瀬さんは勝ち誇った笑みを浮かべた。


「……は?」


 僕は内心動揺を隠すことができず――けれど、自分でも驚くほど低く濁った声音が漏れた。


 ✕ ✕ ✕


 百瀬ももせさんの言葉に吊られて、すっーと、僕は北崎きたざき君を見据える。


 なんで……何でそんなことを言うの? 僕のこと可愛いって……言ってくれたじゃん。


 僕、見たいな可愛い女の子と付き合えたら夢みたいですね――って、言ってくれたじゃん!!


 ……いや、落ち着け九条アキラ。


 百瀬さんが勝手に言ってるだけで、北崎君本人は何も言っていないということもある。


 つまり、北崎君本人の口から言質を取らない限り、彼女が言ってることは妄言に等しい。


奈央なお〜、あたし達先に教室行くよ」


 不意に百瀬さんの友人が彼女に声を掛けた。


「わっ、待ってよ二人共〜私も行く。じゃあ、またねかすみ


 北崎君と手を振った後、百瀬さんは友人達の方へと駆けて行った。


「北崎君」


 口角を吊り上げつつ、彼の肩を掴みながら口を開く。


「後でお話があります。昼休み生徒会室に来るように……いいね?」


「……はい」


 と、北崎君は小さく頷いた。


 時計の針が8時20分を示したところで本日の挨拶運動は終了した。


 ――昼休み。


 クラスメイト達からのお昼の誘いを断り、僕は足早に生徒会室へとやって来た。机の上に鞄から取り出した弁当箱が入った包みを置く。


 ……かちっ……かちっ……………


 ……かちっ……かちっ……


 かちっ……かちっ……かちっ


 ……遅くない?


 生徒会室に設置されたアナログ時計の針が進む音だけが室内に響いた。


 不意に、生徒会室の扉が開いた。


「遅い」


 扉の先に居た北崎君に小さな文句を口にする。彼の手元には購買部のビニール袋が目に付いた。


 どうやら今日も昼食はパンで済ませるらしい。やはり彼の分の弁当を余分に作ってきて正解だった。


「すみません」


 頭を下げる北崎君に、咳払いを一つ吐きつつ、にこっと口角を吊り上げて口を開く。


「さて、それでは単刀直入に聞こう。今朝、挨拶運動の時百瀬さんが言ってたことはどういうことかな?」


「……えー、昨日奈央に霞は私と生徒会長どっちが好き? と聞かれたので……奈央だよ――と、答えました」


 段々と声が小さくなり顔を赤くする北崎君。そんな彼に対して可愛いと苛立ちが同時に来た。


「ふーーーーーーん」


 かつん、かつん――と、北崎君の方へ距離を詰めながら僕は続けて口を開いた。


「北崎君は僕より百瀬さんの方が好きなんだ?」


「好きですね」


 この男、少しも迷うことなく即答である。


 思わず北崎君の足を踏みました!


「北崎君なんてもう知らない! はいこれお弁当! 昨日の玉子サンドのお返し!! 弁当箱は放課後返してね!!!」


 ぷるぷる身体を震わせながら口を捲し立てた僕は、机の上に置いていた弁当箱が入った包みを渡して、間髪入れずに生徒会室を後にした。


 ……北崎君の嘘つき!


―――――――――――――――――――――――

作品フォロー、いいね♡レビュー★ありがとうございます!!ラブコメ/日間、週間、月間ランキング入ってました! 重ね重ねありがとうございます!(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)

この作品の話数の中で一番文字数多い。

分けようかなとも思ったのですが……コイントスの表裏で分ける分けないを決めた結果です(⁠ ⁠╹⁠▽⁠╹⁠ ⁠)


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よろしくお願いします!m(_ _)m

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