幼馴染視点

 ◆奈央Side◆


 私の幼馴染、北崎きたざきかすみは超がつくほどのブラコンである。


 黒髪、良く見れば案外整っている顔立ち。中肉中背、筋肉質な体つき。


 家事が得意で、弟の千尋ちひろの前では見てるこっちが引くレベルの愛情を向けて、いつもお兄ちゃんをしている。


 私から見たかすみは、どこかほっとけない同い年だけど、歳が離れた弟のような存在だ――――。


 なんなら、中学生になるまでは、一緒にお風呂に入った仲である。


 私はお風呂場から上がり、バスタオルを手に全身に伝う水滴を拭った。


 バスタオルで全身を拭き通った後、洗濯機の上に置いていた下着を黒のショーツから順に掴んだ。


 家ではあまり服を着ないのが私である。家の中でくらい自由な格好でいたい。


 洗面所の横に設置された棚を開けて無地のスポーツタオルを取り出して頭に掛けながら洗面所を出た。


 入浴を終えたタイミングで、玄関扉が――がちゃっと開き、一度、自宅へと踵を返した霞と千尋がうちへやって来た。


 二人には、鍵は開けて置くから入っていいよ――と言ってある。


「二人共おかえりー」


 濡れた髪をタオルで拭きながら私は言った。


 何故か霞はこめかみを押さえて私から顔を背ける。


 良く見れば、千尋も霞の後ろにそっと隠れていた。なんで?


 霞は続けて、着ていたパーカーを脱ぐと同時に、勢い良く私の方へ投げつつ、声を張り上げながら口を開く。


「……だーかーらー、ちゃんと服を着ろ駄阿呆!!」


「ちょっと、何するのよカス!」


 私が放った不満たっぷりの声音を軽く無視して、かすみは顔を若干赤らめながら口を捲したてた。


「毎回毎回、同じこと言わせんな! 俺達が家に居る時くらい服を着ろ!」


 はぁ? と、口に出すのをなんとか堪えて口を開く。


「毎回思うけど、なに今更恥ずかしがってるの? あんたと私小6まで一緒にお風――」


「――やめろやめろそれ以上言うな! 恥ずかしいわ!」


 最後までは言わせないと、私の声音を遮る霞。ほぼ、言ったようなもんである。


 これ以上霞にとやかく言われるのも不満だった為、私は小さなため息を吐きつつ、口煩い幼馴染のパーカーに袖を通した。


 胸元までファスナーを閉めたところで気付いたことがある。……思った以上に大きいなこれ。


 霞のパーカーを着たまま、私は自室へと踵を返した。


 ……下がショーツのままだと、また後で口酸っぱくなにか言ってきそうだなあいつ。


「……ちっ」


 想像しただけで思わず舌打ちが漏れる。


「……仕方ない」


 と、苦笑気味に独言を呟きながら、私はクローゼットに手を掛けて、灰色グレーのショートパンツを手に取った。


 ――リビングへ向かうと、おねえちゃんと霞は台所で夕食を作っていた。今夜はカレーである。


 千尋はテレビ前に置かれたテーブルにて、お父さんとポーカーをしていた。


 ポーカーはお父さんの趣味である。二人がやってるポーカーって、テキサスホールデム? とか言うんだっけ?


 テーブルにポーカーマットを敷いてチップまで置いてある。本格的だ。


 圧倒的にお父さんのチップの量が少ない件については……触れないでおこう。


 私は冷蔵庫から牛乳パックを取り出してコップに注ぐ。


 不意にお姉ちゃんの視線が気になり、なに? ――と、首を傾げつつ目で訴えた。


 お姉ちゃんはにやにやと笑みを浮かべて、かうような口調で言う。


「彼パーカー?」


「「違う」」


 私と霞は口を揃えて言った。


「あははっ、二人共息ピッタリ。なーちゃん顔を耳まで赤くしてかわいい~」


 ……は? 別にそんなんじゃないし、


「赤くなんかなってない。変なこと言わないで」


「ごめんごめん♪」


 お姉ちゃんは優しく私の頭を撫でた。


 夕食を終えて、玄関先で二人を見送る。


奈央なお、そろそろ俺のパーカー返して」


「寒いからやだ」


「はい?」


 GWゴールデンウィークを控えた四月下旬。日中は春の陽気な暖かさを肌で感じるが夜はまだ寒い。


 口角を吊り上げながら小さく舌を出して、先程の仕返しをする。


にいさん、僕先に帰るねー」


「待って、お兄ちゃんも千尋と一緒に帰りたい。あぁ……んー、それじゃあ、明日返してくれ。おやすみ」


「ん、おやすみ」


「二人共、気を付けて帰ってね」


「はーい、ねえさんナオちゃんおやすみなさい」


「おやすみ〜」


 言って、私達は手を振り別れた。


 霞と千尋が家を出た後――ふと、お姉ちゃんは口元が緩みきった表情を浮かべて、私をじーっと見ていた。


 ……が、私はあくまで気付かない振りをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る