第2話.好奇心がありすぎるってどうなんですか?
二人で自宅を後にし、太陽の照りつける外へ出る。
「あちぃ・・・」
「アラタ!?何よあのちょー速いモンスターは!?」
ララノアは、車を指さし口をパクパクさせる。
「あれは、車って言ってこの世界での乗り物だよ」
「乗り物・・・?空を飛べばいいじゃない!」
「は?この世界には魔法なんて無いんだよ」
「ふふん。何言ってるのかしら。この私が精霊魔法の天才と呼ばれていたことを忘れたとは言わせないわよ!」
あ、このバカなにか始めるつもりだ。
『四王精霊たる風の王エアリアルよ』
ララノアはそこら辺に落ちていた木の棒を杖代わりに魔法を詠唱する。
『この私に力を貸しなさい!』
木の棒を天に掲げ、意気揚々と詠唱を続けるララノアを面白半分で黙って見続けるあらた。
人通りの多い道路のため沢山の通行者に見られているが、面白すぎるためそんなことはどうでも良い。
『
決まったぁとドヤ顔でこちらを見やりぴょんぴょんと跳ねるアホ。
だから言っただろ。
「あ、あれぇ・・・?」
「お母さん!あの金髪のお姉ちゃん何してるのー?」
「見ちゃいけません。早く行くわよ」
「ブフッ!!」
足早に去っていく親子を見て思わず我慢の限界が来たあらた。
幸いなことに、どうやら今俺たちが話している言葉は日本語ではなくあちらの世界の言葉だったようでこの不審な行動を怪しく思ったお母さんが、子供の好奇心をどうにか押さえ込んだのだろう。
「なぁなぁ。あれって何やってんだろうな!」
「知らねぇ!!あ!学校でもよく言われてる厨二病ってやつじゃない?」
「ブッ!」
遠巻きに会話している小学生の無邪気な疑問が、更にあらたのツボに入る。
ララノアもやはり日本語は理解できないようで、俺が笑っている理由を理解出来ていないらしい。
と言うかお姫様は今はそれどころでは無いようで・・・。
「精霊の声が聞こえないわ!!どうしてかしら!?」
「だから言ってるだろ・・・プッ。この世界では魔法は・・・クッ。使えないって・・・プッ」
かなりツボに入ってるらしいあらたは笑いを必死にこらえながらララノアの疑問に答える。
「それに、この世界の人達の言葉がよく分からないわ。私を見て何を言ってるのかしら?」
スーパーの帰りに、日本語の勉強教材でも買って帰るか。あらたは、そんなことを考えながら歩む。
「まぁ、私が美しいから目を奪われているってことだけは分かるわ!」
「はいはい。さいですか」
「何よ!」
隣のうるさいお姫様を無視して懐かしい道を歩くあらた。
「まぁ、実際にこっちの世界では一日しか経ってないんだからそうそう変わってることもないか」
「なんの事?」
あらたは、日付を見て気がついた事を一通りララノアに話す。
「へぇ。不思議なこともあるものね」
「まぁ、今更驚くことでもないだろうしな。お前も異世界来てるんだし」
「それもそうね」
二人で何気ない会話をしていると、あちらから歩いてきた懐かしの人物に声をかけられる。
「あら、あらたちゃんじゃないかい」
「おばちゃん!久しぶりだな」
「?何言ってるんだい昨日あったばかりじゃないの」
「あ、そ、そうだったな」
いかん。ついあっちでの在住期間が長すぎて。
「それでその子は彼女かい?」
「ん?あ、いや違う・・・えーっと」
必死に思考を巡らせあらたは一つの打開策を見出す。
「じいちゃんがどっかの国で仲良くなった友達の娘さん・・・だ!」
「へぇそうかい。可愛らしい子じゃないか。あらたちゃんはしないかもしれないけど乱暴したらだめよ」
「しねえよ!」
「それにしても・・・あのジジイは可愛い孫を放ったらかしで何をしてるのかいね」
このおばちゃんは、近所に住んでるただのおばちゃんではなく祖父の高校時代からの昔馴染みで俺も昔から付き合いがありこの街・・・春海はるうみ市にずっと住まう人だ。
「ったく。ほんとだよ。変なもん押し付けてきてそれ以降連絡はねえしさ・・・。何が入学祝いだよ」
「?」
「いや、何でもない!じゃ、俺らそろそろ行くな」
「暑いから熱中症とかには気をつけるんだよ」
「ん。ありがと」
そのときクイッとララノアに裾を掴まれた。
「ねぇ。何を話してたの?」
「ん?あぁ、この人昔からの知り合いでな。お前のこと美人だってよ」
「まぁ、それは言葉が通じなくても分かりきってる事じゃない」
なんだこいつ。駄エルフの癖に生意気な。
「あら、あらたちゃん外国語も話せるのかい」
「ん?あぁまぁ少しな」
「じゃあ、あらたちゃんから伝えてもらおうかいね。お嬢ちゃんも暑いから気をつけるんだよ」
「?」
ララノアは、当然何を言われたか分からずに小首を傾げる。
こういう小さな仕草は、無邪気に見えて可愛いんだけどな・・・。
「お前も暑いから倒れたりすんなよって」
「え、えぇ。恩に着るわおばあ様。・・・って私から直接伝えたいわ」
「あぁ、そういう時はな。こうやって言葉を・・・」
ララノアの耳元で『感謝』の言葉を口にし覚えさせるあらた。
「ん。分かったわ」
小さく深呼吸しばあちゃんに向かって笑顔で口を開く。
「アリガトゴザイマス・・・」
「まぁ・・・!!」
一瞬目を見開き驚いたばあちゃんだったが、若干恥じらいを見せたが必死に伝えてくれたララノアに思わず笑みが漏れる。
「可愛い子だね。飴ちゃんあげようかい」
「ばあちゃん腰悪いんだから早く帰ったが良いぞ」
「ほら。手を出してごらん・・・名前はなんて言うんだい?」
ララノアの耳元で通訳するあらた。
「ラ、ララノア・・・デス」
「そうかい。ララノアちゃんこれ良かったら貰っておくれ」
小さな飴を手渡し、にっこりと笑みを浮かべるおばちゃん。
「ア、アリガトゴザイマス」
「うんうん。可愛いね。じゃあまたね。あらたちゃん。ララノアちゃん」
「あぁ。今度はあまり無理すんじゃないぞ。家でゆっくり休んでないと」
「そうさせてもらおうかね」
「マ、マタネ」
そういって、ばあちゃんを見届けたあと二人はまたスーパーへの道のりをゆっくりと歩き出す。
「ふふん。この私が高貴な人間と気がついたのね。まぁありがたく貰っておくわ」
「何が高貴な人間だよ。めちゃくちゃ緊張して最後は俺の服の裾握ってたくせに」
「う、うるさいわね!何よ!」
『それにしてもニホンゴ・・・難しいわね。』そう小さく呟きララノアは何度も感謝の言葉を練習する。
普段は偉そうなくせにこういう時には一生懸命なのだ。
こういうところも憎めない理由の一つで俺がずっとこいつと居る理由でもある。
しばらく歩くと目的地であるスーパーへ着いた。
途中何度も住宅やバイク、空を飛ぶ飛行機等に驚いていたララノアの話は省くことにしよう。
「もう驚かないわよ・・・」
「まぁそりゃ道中であんなに騒いでれば疲れも来るだろうな」
ララノアはスーパーという建物を目にし、はぁとでかいため息を吐く。
一瞬自動ドアに驚く仕草を見せるが、それも本当に一瞬の事で。
「わぁ・・・涼しい・・・」
どうやら、エアコンの存在に感激しているようだ。
「さ、昼飯・・・何にしようかな」
「ご飯は、ガッツリとしたものが良いわ。王城ではお淑やかさも求められるからそういうものを食べたことがあまりないもの」
とは言っているが、ドロップキックを兵士たちの前で見せたお前の行動はお淑やかと言えるのか・・・?というのはさておき、今日のメニューについてあらたは模索する。
「んーじゃあ、異世界で頑張ったことを祝してすき焼きにでもするか・・・!」
「スキヤキ・・・?何よそれ」
「めちゃくちゃ美味しいものだ」
「大雑把ね・・・」
あらたは、買い物カートを手にしようとしたがどうやらそこにも姫様の好奇心が押し寄せるようで、結局ララノアがカートを押すことになった。
「へぇ。楽しい乗り物ね」
「それを乗り物というかの判別はもう疲れるからやめとして、とりあえず野菜コーナーに行くぞ」
「ええ。お腹が空いたから寄り道なしで必要なものだけ買って帰るわよ!」
「へいへい」
「何よこれ!これなんて言う野菜なの!?」
早速本人が寄り道してるって事にももうツッコミは要らないよな、うん。
まぁ、そんな無邪気さも本当に少し。一ミリだけ愛らしく思えるから駄エルフの相手してやろう・・・。
「それは、イチゴっていう食べ物だ。まぁ、果物・・・ってよりは野菜に分類されるらしいからその表現は合ってるな」
「小ぶりで可愛らしい色をしてるわ・・・。何だかロクの実に似てるわね!」
「あー。案外間違ってないかも」
「え・・・じゃあ・・・。美味しくないの・・・?」
「いや、ロクの実みたいな渋さは一切ないぞ。押し寄せるのは甘みと酸味・・・そしてイチゴに付いてるツブツブの食感の怒涛のラッシュだ。一口食べればもう病みつきだろうな」
「ゴクリ・・・」
ゴクリって口に出すやつってこいつしか居ないんじゃ・・・。
「アラタ・・・・・・」
自らの武器を理解している駄エルフは、儚げな表情を作り上目遣いで懇願する。
「・・・・・・はぁ。まぁ、お前も対魔王パーティで一緒に頑張ったしな。これはお疲れ様会って事で二パック入れとけ」
「やった!帰ったらすぐ食べるわよ!」
「ダメだ。最初にすき焼きを食べてから、おやつだ。これが守れないなら買わないぞ」
「・・・・・・むぅ。分かったわよ」
ふくれっ面になりながらも、イチゴを手にし微笑むララノア。
「じゃあ買い物に戻るぞ」
それからは淡々と・・・とはいかなかった。
姫様の好奇心が留まることを知らず全て説明していると既に時間は一時間ほど経過していた。
「はぁ・・・・・・なんて素晴らしいとこなのかしら。すぅーぱぁー」
「はぁ・・・・・・おかげさまで俺は疲れたけどな」
一人は楽しそうに。
一人は疲れた様子で、セルフレジで商品を通す。
『へぇ・・・楽しいわね!』とはしゃぐララノアを後ろで眺めているとどこからか声が掛かる。
「あらたくんじゃないの。今日も自炊かい?偉いねぇ」
「あ、田中さん。田中さんもお仕事お疲れ様です」
声をかけてきたのは、このスーパーで働いているおばちゃんの田中さん。
あらたが昔からの常連ということもあり、ほとんど毎日このスーパーで話している。
「今日は彼女ちゃんと一緒かい?」
「あーいや。ララノアは親戚の子で」
仲の良い人達に嘘をつくことで若干というかかなり罪悪感が湧くが、それ以外に言いようが無いのであらたは淡々と告げる。
「モデルさんみたいじゃないかい。羨ましいねえ」
「アラタ!オカイケイって何!?」
「はいはい。今行くよ」
「あら。外国語も話せるのね。あらた君は。私は何言ってるのかさっぱり分からなかったわ」
「まぁちょっとだけですけどね」
会話を終えると田中さんは裏に行ったらしく、その間にあらた達は会計を済ませ袋詰めをし、自動ドアを出た瞬間。
「あらた君これ、もしよかったら貰ってちょうだい」
仕事が終わったのか私服で、田中さんがスイカ丸々を手渡ししてきた。
「・・・・・・え?スイカなんて貰っても良いんですか・・・?」
「えぇ。私の実家が農家でね。実家から送られてきたわ良いものの食べきれなくて従業員さんたちに配ってたのよ」
「いやでも、悪いですよ・・・。」
「いいのよ!いいのよ!あらた君にもあげるつもりだったんだから!スイカ丸々がいくつも届いたんだから!」
「すいません。じゃあ頂いておきます。ありがとうございます」
あらたが感謝を述べた後、ララノアも拙く言葉を発する。
「アリガトゴザイマス・・・」
「まぁまぁ!こんなに可愛い子から感謝してもらえるなんて。嬉しいわ」
そう言って笑顔で手を振りながら、その場を後にする田中さんに頭を下げて二人で自宅への道のりを帰る。
「アラタこれってなんなの?」
「これはスイカって言ってな。お前がさっきカットされた皮は黒と濃い緑で、中は赤くて黒い粒があったやつ見てたろ?」
「ええ。とても甘い匂いがしたわ。あ、もしかして・・・。」
「それそれ」
「へぇ・・・!楽しみね!」
わくわく。と擬音が見えそうになるほどにテンションが上がっているララノア。
「それにしてもあんたって近所の人達とも仲が良いのね」
「あーまぁな。俺小さい頃に親亡くしてて、じいちゃんも世界飛び回ってたからずっと一人で生活してたんだよ」
「一人で・・・」
「あぁ、それを見兼ねた周りの人達が俺を支えてくれてたんだよ。最初は同情とかで始まった事なんだろうけど、それでも今こうして仲良くしてくれることが嬉しくてな・・・」
笑顔で話しているあらたの横顔を、聖母のような優しい笑みで眺めているララノアに気が付かず。
二人は帰り道を歩く。
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