第3話 マイクを持つと性格が変わるタイプ
知り合い以上友達未満の関係ができてホッとしたクラス長は、この熱感が冷めないように色々考えていた。
「長暮、ちょっと。」
昼休み、お腹いっぱいで眠たい気持ちを抑えて数学の準備をしていたクラス長は、廊下にいた仏頂面の担任に手招きをされて廊下へ向かった。
「昨日さ、掃除3人でやったの?」
「あぁ、前の二人がすぐ部活のミーティングだったらしくて…」
担任は不満そうに"そうか"と渋い顔をすると、いつも通りの表情に戻して
「わかった、ありがとう。」
と良いながらクラス長を返した。
頭を下げ教室へ戻るとこちらをチラチラ見つめて少し心配そうな顔をする昨日
「なに、なんの話?」
「いや、昨日の掃除のさ。」
「「あ~ね~。」」
彼らはハモって納得した、ハモったというよりはどっちもアルトだったが。
「そっちはなんの話?」
「あぁ、カラオケの一撃目何歌うかっていう話。」
クラス長は休み時間らしいその会話に喜びながら椅子を引きずりながらスムーズに参加する
「でも大体盛り上がる系かな…。」
「あ、違う回答だ。」
クラス長の答えにハッと仲田と二釈は驚き、
「俺と二釈は大体初めて歌ってみる奴じゃない?って。」
「え?そういうのって中盤じゃない?」
まるでパラレルワールドを生きてきたのかというほどの噛みあわなさに、お互いあまり生み出したくない沈黙が生まれる。
「俺が一人カラオケに行くときは大体こんな感じ......。」
二釈はそう言いながらスマホを取り出し音楽アプリの画面を開くと、そこには昔のポップスからネットで流行っている楽曲まで幅広く取り込まれたセットリスト組まれていた。
「え、カラオケ行くためにセトリ組んでるの?」
「まあ…歌いたい曲は全部歌いたいから......。」
なんとなくその意見は理解できるが、一人カラオケガチ勢の二釈の意外性に驚くクラス長、その反応とは真逆に"わかる"と共感しながらうなずく。
「え、仲田さんも?」
「まあ、授業中はずっと考えてるよ。」
仲田は机の間から自由帳代わりのノートを取りだし、精巧に組まれたセットリストを見る。
「ガチすぎるだろ二人とも」
二人は当たり前の顔をして色違いのマイクを見せ合っている。
二人はスマホとノートを交換しセトリを眺めながら時々笑ったりして沢山頷きあっている。
「同じアーティスト連続で歌いたい気持ちわかる~。」
「あぁ、ここで一回しっとり系のゾーン挟むのいいね…。」
「あ!俺もこの曲入れてる!」
「いやー、合計時間出るのいいなサブスク。」
「そっちも普通のバージョンとアウトロカットしたバージョン分けて書いてあるの最高......。」
二人の共鳴に少し引きながらも無理矢理入っていくクラス長。
「てかなんで3時間のセトリで20分くらい余らせてんの?」
クラス長の素人質問に二人は優しく寄り添って回答する。
「ほら、ドリンクバーとかトイレとかあるじゃん。」
「まあ、確かに。」
「そうそう、あとMCとかするじゃん普通に......。」
「え?一回ストップ。」
仲田の納得する回答は通したが、二釈の納得いかない回答を一度静止するクラス長は、深くうなずいて共感する仲田の顎を抑えて固定し二釈に問いかける。
「MCすんの?」
「当たり前だろ。」
そう言いながら二人はカバンの中から自分用のマイ マイクを取り出して、MCのジェスチャーをする。
「誰が受付とかで買えるアレ買うんだよ...っていうか学校持ってくんなよ。」
「え?普通に買うよな?」
マイノリティに挟まれたマジョリティはマイノリティになってしまうことを実感したクラス長は頭を抱え、二人の"して当然だろ"と言わんばかりの目線に少し恐怖を感じる。
「え、てかクラス長はMCしないの?」
「しないよ!!」
「え、じゃあどうやって盛り上がるの......?」
「曲だろ!!」
二人は少し首をかしげながら無理やり納得した。
「ちょ、MC見て見たいし今日帰りにカラオケ行こうよ。」
「え、クラス長の前で歌うの恥ずかしいわ…。」
「どこで恥ずかしがってんだよ!」
彼の声が響いたと同時に鳴り響く5時間目の始業チャイム。
なんとなく三人の立ち位置が決まった気がした。
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授業が終わり、掃除の時間になった。
「さっきなんとなくで言ったけどカラオケマジで行く?」
クラス長は寄り道が何気に初めてなので、掃除中に少し緊張しながら二人の元へ行く。
「あぁ、全然俺は良いよ。」
「俺も......。」
クラス長の班は掃除をさっと済ませ、重たいカバンを背中に背負うと、あえてドスンドスンしながら階段を降り、まだ少しだけ世に吹く春風に包まれながら校門を出た。
「先にコンビニでなんか買うか。」
500円というルールを設け、三人はそれぞれ買い物をする。
「うわ、え?食玩買うの?」
「これマジで探してたやつ......。」
そんなこんなで買い物を終えた三人はレジ袋を片手に、近くにあるボロボロのカラオケ店に足を運ぶ。
「じゃあジャン負け受付ね。」
「オッケー。」
「ういー......。」
無駄にデカい駐車場の隅で、素早くジャンケンを終わらせると
「マジで一回も勝てんなぁ....。」
クラス長はそう言って首をかしげながらスタスタと店内へ入って行った。
...数分後
「え、その感じ人いっぱい?」
浮かない顔して出てきたクラス長を見て仲田がそう問いかけると、少し間をおいてゆっくり頷いた。
「うん...外ボロボロで中ギュウギュウ。」
「なにそれ、最悪のたこ焼き?」
「そう、最悪のたこ焼きだからカラオケ入れないや...。」
例えを流してしまうほど落ち込んでいるクラス長を思った仲田はレジ袋を二釈に渡すと、無駄にデカい駐車場でカバンを漁り始めた。
「クラス長、ここから盛り上がれますか!?」
「...え?」
マイマイクを強く握りながらもう片方の手を高く掲げた仲田は突如MCを始めた。
「声聞こえないぞ~?盛り上がれますか!?」
「お、おー。」
「じゃあ、なんかこのお菓子家に持って帰って一人で食べるのも、なんか気分じゃなくなったりしそうで気持ち的にもったいない気がするから、なんかどっか近くの公園とかにでも行って、なんかゆっくり話しながら交流を深める的な感じで食べますか!?」
「おー...ってMCでそんなダラダラ喋んなよ。」
そう言いながらも元気づけてくれる彼に心で感謝しながら公園で17時過ぎくらいまでダラダラ話をした三人であった。
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