明晰夢で逢う亡霊へ

白昼夢茶々猫

明晰夢で逢う亡霊へ

 水底へ、落ちる、落ちる。

 また、落ちる、墜ちる、堕ちる。

 上も下も忘れて、そのうち自分さえも忘れそうになったらその夢は始まる。

 ぱちっ。

 今日も、かすかな音ともにその夢に目覚めた。


「おはよう、遥」

「こんばんは、ですけどね。桜夜さま」

 いつ来ても変わらない景色の縁側で、私はいつも目を覚ます。

「……今日も、綺麗ですねここは」

 きれいに塗りつぶした夜色の空に、黄金に輝く真円の月は不思議なほど大きい。

 まだ少し肌寒さが残るも、いつもこの夢ではしっかりと着物を着こんでいる私は風邪をひくという心配をしたことがない。

 桜、と思われる薄桃の花は月の光を吸い込んで、きらきらとまたたき、時折ふ、と落ちて、その道中でくるくるとまわる。

 いつか私たちが人として居たときには、そこからは何もなくなったと言うのに。

「今日は、思い出せたかい?」

「……いいえ」

 常にエンジン音のやまない現実とくらべ、怖いほど静かなここで、その静かさをまだ体は愛おしいと思うのか、自然と口元には笑みが浮かぶ。

 時折吹く風が、着物を揺らして心地よい。

 毎度する桜夜さまとの会話。それに私はいつも嘘をつく。

「そうかい、じゃあ今日もゆっくりしておいき」

 おやつ食べるかい、といって屋敷のなかから和菓子を持ってくる。どうやら今日はみたらしだんごらしい。

 生まれ変わってから、新しいものだらけの世界の話を桜夜さまには何度も話した。

 そうしたら暇だったのか、主に食べ物類を真似て作っては食べさせてくれるようになった。

 今日みたいにお菓子の時もあれば、あったかい饂飩みたいな日もあって、訪れるのが格段に楽しくなった。

 そして、桜夜さまがなにより楽しそうにするのだから。

 だからそれでいい。

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