第4話 無償の愛。
歯科助手達の聴取と植松真琴を探す日々の中、それでも3日に一度は森林樹の元に顔を出し、共に食事をして肌を重ねた。
「これも愛?」と聞くようになった森林樹に、「そうです。あまり離れていると会いたくなります」と答えてキスをすると、森林樹は嬉しそうにキスを返してくれる。
「捜査は?」
「一応植松真琴さん以外の人には会えましたけど…」
「けど?」
「皆あの日会ったみたいに、素直に話すし、とても人を殺せそうに見えないんですよね」
この会話に森林樹はため息混じりに「予想通りだ」と呟いた。
次に会った日、普段通りの流れで肌を重ねた後、2人でベッドの上にいる時、森林樹は「結婚に興味はある?」と聞いてきた。
突然の事に「え?」と聞き返すと、森林樹は「嫌かな?別に働きたければ働いていいんだ。辞めたければ辞めていい。俺と結婚できる?」と更に聞いてきた。
「嬉しいです。まだそこまでの仲ではないのかなと思っていたので驚きました」
本当に驚いた私は思ったままの気持ちを伝えると、「予想外だ」と嬉しそうに呟いた森林樹は更に質問をしてきた。
「働かなくていいって言ったら仕事はやめる?」
「やりたい事は全部やらせてあげるって言ったら嬉しい?」
そんな事を捲し立てられた。
それはまるで子供が母親を質問攻めにするようだった。
「一度に沢山言われても、私は森林さんみたいに頭が良くないから答え切れませんよ〜」
少し照れた顔で「ごめん、つい慌ててしまったよ」と言った森林樹に私は一つずつ丁寧に答えた。
「仕事は難しいですね。私がやりたくても、両立が無理で周りの迷惑になるなら辞めるしかないですし、辞めたくても周りが必要としてくれたら頑張りたいですし」
「やりたい事ですか?子供が欲しいです。愛情を注いであげたいです。成人のお祝いとかしてあげたい」
森林樹は急に顔を暗くして「子供がいたら俺はどうなる?」と聞いてくる。
「森林さん?」
「君の愛は…俺に向かう愛は減る?」
「えぇ?減りませんよ。森林さんは子供に愛をくれないんですか?私1人では育てられませんよ?」
「…俺も…。そうか…そうだね」
落ち着いた森林樹は、そのまま「愛について話さないかい?」と聞いてきた。
「愛ですか?」
「うん。花田から聞いただろう?俺は働かなくても済むだけの蓄えがある。両親が残した不労所得もある。君と暮らしても子供がいてもやっていけるほどだ。だから家族で働かずに暮らそうと言ったら暮らしてくれる?」
「んー…、きちんと緊急時にも備えられて、私と森林さん、子供達がキチンと100歳まで生きられるだけのお金があればじゃないですか?蓄えは多いに越した事はありません」
「成程、君らしい予想外の答えだね」
楽しそうに私を抱き寄せた森林樹は、一度深呼吸をすると「無償の愛はこの世界にあると思うかい?」と聞いてきた。
「無償の愛ですか?」
「そうだよ。仮に君が俺との結婚を考える要因がお金だった時、俺が稼がなくても、財産も何もなくても結婚をしてくれるかな?」
突然のとんでもない質問。
「それは私の稼ぎは良くないから、森林さんが我慢できますかね?」
私の回答を聞いてつまらなそうな顔をした森林樹は、「予想内の平凡でつまらない答えだ」と言い、「俺が聞きたいのは、働かなくて金のない俺という人間と添い遂げられるかということさ」と続けた。
「んー…、それは逆に森林さんは私の少ない稼ぎで生きる事になるから、毎日具のないもんじゃ焼きになっても平気ですか?一年中、具のないソース味の小麦粉を水で溶いたものがご飯です」
具のないもんじゃ焼きを聞いて、目を丸くする森林樹に「もんじゃです。お誕生日の時なら揚げ玉くらいは入りますが、それ以外は具なしです」と追い討ちすると、森林樹は震えて笑い出して、「それは凄い!予想外だ!考えも及ばなかった!」と言った。
「それでもいいなら身一つでどうぞー」
「ありがとう。では最後に聞かせてくれ。もし身の回りの事も何もかも保証するから、その足を俺にくれないかと言ったら君はくれるかい?」
とても冗談に聞こえないトーンと目、これも無償の愛なのか?
私は「ダメですよ。足がないと私が森林さんを助けたい時に、何もできなくなってしまいます。私の愛は森林さんを助けることでもあるんです」と言ってキスをすると、森林樹は「成程、予想外だ」と言って眠りについた。
そして翌朝、森林樹から「犯人の目星はついたよ。ただあくまで可能性でしかない」と言われた。
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