第20話:私、理子。金谷理子。お兄さんは?
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――その時も俺は、天資っていう存在にも良品と不良品があるんじゃないかとつくづく思っていた。
たとえばサラカエル。あれはまさに人間で言うならエリート中のエリートだ。遺志の送還を実にそつなく、実に完璧に行っている。本人だって、自分の務めにこれっぽっちも疑いを持ったことはないだろう。ああ、実にポンコツの俺とは大違いだ。
一方で俺は、たいした成績も上げられないくせに仕事に疲れていた。サラカエルやザフキエル、ヤアスリエルの仕事量に比べれば、俺のそれなど無きに等しい。それなのにあのエリート天資たちは疲れなど見せず、天からの恩寵にふさわしい光輝をまとってに存在している。俺? うだつの上がらない男の姿で、地上でうらぶれているのがお似合いだ。
どうしてこう、世の中ってのは不公平なんだろうな。なんて思いつつ、俺はその日も自販機の隣のベンチでふんぞり返って、空を見上げていた。あいにく俺は天資であって神の使者じゃないから、その疑問を造物主に問うことはできない。どぎつい甘さの缶コーヒーを飲みながら、自分の仕事の下手くそさにほとほと嫌気が差していた時だった。
「おじさん、何してるの?」
小さな女の子の声がした。天資の俺は基本的に不可視だ。見える奴と見えない奴がいる。ちなみに霊感とかそういうのとはまったく関係ない。俺たちが見えるとか言う霊能者がいたら九割嘘だ。俺とは関係ないと無視していたらまた声がした。
「そこのおじさん。ベンチに座ってぐったりしてるけど、どうしたの?」
マジか。俺はゆっくりと声がする方向を見た。そこには一人の女の子が立っていた。小学生くらいの年齢だろう。健康的に日焼けした細い手足がシャツの袖とスカートの裾からのぞいている。元気そのものと言った顔だ。こんな子ににっこりと笑顔を向けられたら、どんなチンピラもつい笑顔になってしまうだろう。悪意の向けようのない顔だ。
「俺はおじさんじゃない。お兄さんだ」
俺は女の子にそう言った。この少女は俺のことが見えるらしい。確かに子供の方が天資を見やすい。俺は改めて自分の外見を確認する。鳥の巣のような髪、ごく普通の日本人の顔。ややくたびれたコート。白い羽根は今は畳んでしまっている。どうやらこの子は、俺をただの人間と思って話しかけたらしい。
「じゃあお兄さん、何してるの? なんか落ち込んでるっぽい?」
屈託なく話しかけてくる女の子に、俺はとまどった。いきなり人間に話しかけられるとは思わなかったからだ。
「子供には分からないさ」
「何それ、バカにしないでよ」
適当にあしらうつもりだったのだが、女の子が俺の方につかつかと歩み寄ってきて、顔をのぞき込んだ。
「私、理子。金谷理子。お兄さんは?」
おいおい、この子無防備すぎるぞ。ここは小学校の教室で、俺は転校生か? しかし、俺が目をそらそうとしても女の子はじっとこっちを見つめてくる。容赦がない視線だ。仕方なく、俺は口を開いた。
「……シンジ」
天資としての仮の名は今の俺に死ぬほど似合わないので、人間としての名を名乗る。
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