第7話 人間やめました。クソガキなど生ぬるい。どんなときもクールなお兄様。

 クールなお兄様は、数十分間家族が目を離し放置するだけで人間であることをやめ新たな生き物になるという妹のミラクルな生き様についてどうこう言うことなく、クールに話を聞いた。


 しかし、『にゃーん』がところどころに挟まるせいか、内容に過激な表現を含むせいか、妹の顔がぬいぐるみのように丸いせいか、時々肉球を見せてくるせいか、宇宙と交信している猫のように見えるせいか、とにかく『にっくき〝大悪党〟をどうにかしたい』『悪魔ごと宇宙へ飛ばしたい』ということくらいしか分からない。


「にゃーん、にゃーん、お兄にゃーん」


「ハナ、興奮しすぎだ。それだと何をいっているのか分からない」


 彼は謎めいた言語で話す妹ハナちゃんへクールな答えを返すと、主に謎と綿で構成されているミステリー生物ハナにゃんを抱え、クールに立ち上がった。

 そうして、わずか数分間仮眠をとっているあいだに水回りで起こったイチゴくさい事件の後片付けと、ついでにイチゴ牛乳の匂いがする妹の後始末、さらには突然人間をやめた妹のせいで山のように増えた問題を解決するため、今晩の予定をすべてキャンセルすることにした。



 医者、魔術師、魔法使い、占い師、獣医、歯科医、産婆、司祭、家庭教師、美容師、アパレル店員、栄養士、保育士、板前――。


 悪役令嬢ハナにゃん十四歳、本名、千代鶴(チヨヅル)華(ハナ)を診た彼らは口を揃えてこう言った。


「呪われていますね」と。


 そのせいで幼児退行しているのではないか――。

 そう言った彼らに多大なるストレスを与えられた彼女は「にゃーん、にゃーん」と怒りをぶつけ、ついには報復を試み、ちぎっては投げ、引きちぎっては投げと、カルテ、聴診器、タロットカード、マスク、和帽子、髪の毛、彼らから千切れそうなものであれば何にでも爪を引っかけ、ぶら下がり、魂を燃やす勢いでジタバタするというこれぞ悪役令嬢の極み、まさに獣、あわや大惨事といった暴挙にでたのだ。


 暴れるにもほどがある、ということで、しばらくのあいだは人に会わせられぬという結論がその日、家族会議で下された。



 しかし大きな家でも小さな家でも都会でも田舎でも、客というのは都合の悪い時に来るものなのである。

 ハナにゃん限界突破事件の翌日、クールなお兄様のご学友である一人の男が、顔パスで、獣の極みが住む屋敷の大きな門をくぐった。

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