第11話 ミハイル・アイゼンバッハ2

      十一


 近衛騎士団長ミハイルの元に、偵察に出した部下から続々と情報が上がってくる。

 ミハイルは最後に馬車が目撃された辺りで馬を下り、そこを『リリィ・マクラクラン捜索本部』として定めた。

 部下たちの報告を聞き、情報を統合しながら地図を確認する。

 王都から出発した護送の馬車が修道院まで向かっていたルートの半分辺りの場所で消息を絶っていた。

 近くには森がある。

 ミハイルは地図を睨みつけながら、脳内で情報を整理する。

(王都には厳重な警備を敷いてある。もしも婚約式を狙って警戒中の王都に入ろうとすれば、そこで捕らえることは可能だろう。)

 王都からの出発時に万が一を考え、警戒態勢を強化してきたミハイルは、何人たりとも婚約式の障害になりうる者を王都に侵入させぬようにと既に対処を施していた。

 さすがにあのリリィ・マクラクランといえど、あの警備を掻い潜って即座に王都に取って返すようなことはできぬだろう。どちらかというと、どこかの支持者の元に潜伏し、機を狙って自らの目的を達するためにやってくる方が効率的だ。

 そう結論付けると、ミハイルは何としてもリリィの身柄を確保せねばならぬと奮起した。

(逃げおおせると思うなよ。)

 いくら逃げようと、地の果てまで追いかけ、かの令嬢の悪辣な企みを未遂で終わらせなければならない。国のためにも、あの方のためにも。

 ミハイルは続々と集結する部下たちを二手に分かれさせることにした。

「部隊を半分に分ける。ヨシュアの部隊は北上し、修道院までの道を虱潰しに捜索しろ。ハインツは俺と一緒にこの森の中を捜索する。手掛かりでも令嬢本人でも、どれだけ小さなものも見逃すな。何かあったら報告しろ。散開。」

 部下たちに地図を使って端的に指示を出すと、ミハイルは馬に飛び乗る。

 すぐに馬を走らせると、副団長の一人であるハインツと数人の部下の騎士たちを連れて、ミハイルは森へと馬を向けた。

 少しずつ日は傾き始めている。

 このままかの令嬢に姿を消されてしまえば、王国の民たちに安穏は訪れない。

 近衛騎士団の名誉にかけても、リリィ・マクラクランの身柄を確実に発見し、修道院へと送り届けねばならない。

(初めから、俺が自ら送り届けていればよかったものを……。)

 今更後悔しても遅いのは分かっているが、婚約式当日の警備を部下に任せるという選択肢がミハイルにはどうしても選べなかった。

 あの方の幸せを守りたい。

 そんな個人的な願いを優先してしまった自らの愚かさが今回の失態へとつながってしまったのかもしれない。

 ミハイルはそんな自分の選択の責任を取るため、手綱を握り締めた手に力を込めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る